副産物を再利用した物質・エネルギー循環型バイオマス化学品製造プロセスの新規開発~バイオマス資源を最大限有効活用した新プロセスの開発指針を提案~

副産物を再利用した物質・エネルギー循環型
バイオマス化学品製造プロセスの新規開発
~バイオマス資源を最大限有効活用した新プロセスの開発指針を提案~

 国立大学法人東京農工大学大学院生物システム応用科学府食料エネルギーシステム科学専攻一貫制博士課程4年の佐藤龍さん、同大学院工学府応用化学専攻システム化学工学専修博士前期課程2年の平野菜奈美さん、同大学院工学研究院応用化学部門の伏見千尋教授は、化石資源に依存しないバイオマス由来の化学品製造プロセスにおいて、目的製品の副産物を再利用した循環型プロセスを新たに開発しました。今回開発したプロセスでは、外部からのユーティリティ(※1)を最小限に抑え、かつエネルギー供給をプロセス内で賄うことができることをシミュレーションによる数値解析で示しました。
 本成果は、これまでの論文ベースの研究開発では、経済性を確保するために廃棄されていた副産物を再利用することで、プロセスの省エネ化に大きく寄与することができました。加えて、本研究ではほとんどの地域で実現可能なバイオマス供給量でプロセスを設計しました。この成果により、今後、循環型社会に向けて、化学品製造における化石資源代替へ大きく貢献できます。また、地域活性化に向けて、中山間地域で農林業廃棄物を用いた地産地消型の化学工業の創出が期待されます。

本研究成果は、化学工学に関する専門学術誌であるChemical Engineering Research and Design(電子版2023年3月1日付)に掲載されました。
掲載場所: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0263876223001429#bib41
論文名: Design and Techno–Economic Analysis of Levulinic Acid Production Process from Biomass by Using Co-product Formic Acid as a Catalyst with Minimal Waste Generation
著者: Ryu Ukawa-Sato, Nanami Hirano, Chihiro Fushimi

現状
 バイオマスは、化学品製造において唯一、化石資源を代替できる再生可能な炭素資源です。その中でもレブリン酸(LA)は、木質バイオマスの約5割を構成しているセルロースから合成でき、医薬品から燃料まで幅広い物質の前駆体であるため、脱化石資源依存に向けた基礎化学品として注目されています。一般的に化学品製造プロセスは、反応工程と分離工程を含んでいます。一方で、本研究で着目しているバイオマスからLAの製造プロセスでは、反応工程では触媒開発、分離工程ではLAと副産物の省エネ化へ向けた開発研究がなされており、それぞれ異なる研究分野で研究が進んでいました。英語論文として出版されている限りの情報では、触媒開発では硫酸や塩酸を用いた反応のみ扱われており、触媒の再利用も検討されていませんでした。また、LA以外の副産物が有効利用されていませんでした。
 従来のバイオマスからLAへの製造プロセスの開発研究では、バイオマス供給量が年間約12万トン以上と大規模であることが前提となっていました。また、経済性を確保するために副産物は廃液となっていました。そのため、その製造プロセスが適応できる地域が限られるという大きな課題がありました。したがって、バイオマス資源を最大限有効利用するには、副産物の再利用を含めて、廃棄物を最小化できる革新的なプロセスが求められていました。

研究体制
 東京農工大学大学院工学研究院応用化学部門の伏見千尋教授の主宰する伏見研究室に所属している佐藤龍さん、平野菜奈美さん、伏見千尋教授によって行われました。本研究は東京農工大学卓越大学院プログラム「超スマート社会を新産業創出とダイバーシティにより牽引する卓越リーダーの養成」の助成を受けて行われたものです。

研究成果
 本研究チームは、バイオマス供給量が年間800トンでLAを製造する、従来と比べて大幅に小規模なプロセスを開発しました。LAを製造する際に産出される副産物を可能な限り再利用することで、外部からのユーティリティ供給を触媒であるギ酸だけにした上で最小限に抑え、かつ必要なエネルギー全てを副産物の燃焼で供給することができるプロセスを開発しました。具体的には、副産物であるギ酸を触媒として再利用し、バイオマスから得られるフルフラールという化学品をLAの精製に抽出溶媒として用い、固体副産物を燃焼することで、プロセス全体のエネルギーを削減し、プロセス内でエネルギーを供給することができました。さらに、余った固体副産物を別の化学品などに有効活用できる可能性があることも示すことができました。また、河川水を用いることで、プロセスに必要な冷却量を全て供給できることが分かりました。これは、例えば栃木県那珂川中流域の年間最小流量の0.12%未満です。従来のLA製造プロセスでは、ユーティリティ量や廃液量について具体的な検討を行っていなかったのに対し、本プロセスでは化石資源代替に向けたLA製造プロセスに向けて、ユーティリティ量や廃液量を最小限に抑えました。これにより、中山間地域での木材や農業廃棄物を現地で化学品に変換できる農工融合型の循環型社会へ大きく貢献できたと言えます。
 一方、経済性については、本プロセスで製造したLAの最低販売価格は市場価格である1 kg当たり7.17ドルと比べて1 kg当たり9.59ドルと高い結果となりました。これは本研究で開発したプロセスが地産地消型を想定した小規模プロセスであることと、副産物の分離・精製を行っているためです。上記の点を踏まえると、本プロセスは中山間地域で農林業廃棄物を用いた地産地消型の化学工業に向けた社会実装が十分可能な研究結果であると言えます。
 
今後の展開
 本研究では、副産物のギ酸のみを触媒としてLAの製造プロセスを開発した結果、経済性の面で改善の余地はあったものの、エネルギー面では自給自足が可能なことが分かりました。本研究は、中山間地域での木材や農業廃棄物を現地にて化学品に変換できる農工融合型の循環型社会へ大きく貢献できた研究であると言えます。今後は、経済性での課題点を克服した反応を新たに開発し、経済的、エネルギー的にも持続可能な化学品製造プロセスの開発を目指します。

用語解説
注1)ユーティリティ: 化学工場の操業に必要な化学薬品や、加熱・冷却に必要な加熱媒体(通常は水蒸気)や冷却剤など。

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院工学研究院 応用化学部門
教授  伏見 千尋(ふしみ ちひろ)
 TEL:042-388-7062, 7409
 E-mail:cfushimi(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

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