発電プラントの安定的かつ長期的な稼働に向けて―高温場における灰粒子のせん断強度測定―

発電プラントの安定的かつ長期的な稼働に向けて
―高温場における灰粒子のせん断強度測定―

 国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院応用化学部門の岡田洋平助教、神谷秀博教授、ならびに同大学院生物システム応用科学府生物機能システム科学専攻の青木七海(住友重機械工業株式会社・博士後期課程3年)は、高温場で粉体層のせん断強度を測定する新たな装置を開発し、発電プラント内における灰粒子の付着・堆積現象の機構を解析することに成功しました。本研究で得られた成果は、様々な燃焼プラントが安定的かつ長期的に稼働を続ける上で重要な知見となることが期待されます。

本研究成果は、アメリカ化学会ACS Sustainable Chemistry & Engineering誌(2020年12月11日付)に掲載されるとともに、同誌のSupplementary Coverで取り上げられました。
URL:http://pubs.acs.org/doi/10.1021/acssuschemeng.0c05280 


現状
 近年、発電プラントには環境負荷の低減と高効率でのエネルギー回収が強く求められています。バイオマスや石炭などの固体燃料は一般にボイラーで焼却されますが、燃料中の有機物は燃えるものの、無機物が燃え残ります。燃え残った無機物は灰と呼ばれ、微粒子となって燃焼ガスとともに排出されます。燃焼ガスを大気中へと戻す上では有害物質の除去が必要不可欠であることは言うまでもありませんが、同時に高温の燃焼ガスから効率的に熱エネルギーを回収することが非常に重要です。その結果、燃焼ガスは複数のフィルターや熱交換器を通ってからプラントの外へ排出されることになり、一連の過程で灰粒子がプラント内の壁面に付着・堆積してしまうことが大きな課題となっています。

研究体制
 本研究は、東京農工大学の青木七海(大学院生物システム応用科学府博士後期課程)、岡田洋平(大学院工学研究院助教)、神谷秀博(大学院工学研究院教授)の研究チームで実施しました。

研究成果
 プラント内の熱交換器に灰粒子が付着・堆積する機構は、大きく分けて「壁面(金属)と灰粒子の付着現象」と「灰粒子間での付着現象(堆積)」に区別することができます。すなわち、燃焼ガスとともに排出された灰粒子がまず熱交換器表面に付着し、この灰粒子が二つ目、三つ目の灰粒子とさらに付着を繰り返すことで粉体層(灰の塊)が形成されます。我々はこれまで、高温場で灰粒子間に働く付着力を直接解析する手法として、粉体層の引張強度測定に関する研究に取り組んできました(図1上)。しかしながらこれまでの手法では、壁面と灰粒子の間に働く付着力を測定することはできませんでした。本研究ではこれを直接解析する手法として、新たに粉体層のせん断強度(面に対して平行方向に作用する力)が測定できる装置を開発しました(図1下)。これは、大学の持つ事象を分解・整理・評価する力と、会社の持つ機種知識・装置製作の力の両方を用いることで初めて実現したものです。特に、空冷構造を作製し、実際のプラントにおける熱交換器の表面近傍の温度分布を再現していることに特徴があります。ガリレオ・ガリレイの言葉として知られる「Measure what is measurable, and make measurable what is not so(測定可能なものは測定し、測定不可能なものを測定可能にしよう)」にちなんでデザインしたグラフィックが、同誌のSupplementary Coverにも取り上げられています(図2)。

今後の展開
 固体燃料を用いる発電プラントに限らず、様々な燃焼プラントは今後ますます環境負荷の低減と高効率でのエネルギー回収が求められていくことでしょう。燃焼ガスとともに排出される灰粒子の高温付着トラブルは現在世界中の燃焼プラントで大きな課題となっているものの、試行錯誤を伴う対策が取られていることがほとんどです。粉体層の引張強度およびせん断強度の測定によって高温場における灰粒子の付着・堆積機構が解き明かされ、燃焼プラントの安定的かつ長期的な稼働に貢献することが期待されます。

図1. 粉体層の引張強度測定(上)とせん断強度測定(下、本研究)
図2. 同誌のSupplementary Coverに取り上げられたグラフィック

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院工学研究院
応用化学部門 助教
岡田 洋平(おかだ ようへい)
TEL/FAX:042-388-7068
E-mail:yokada(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

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