平成25年度 大学院連合農学研究科入学式

平成25年度大学院連合農学研究科入学式の式辞です。

平成25年4月12日
東京農工大学長 松永 是

東京農工大学連合農学研究科に入学された皆さん、おめでとうございます。教職員を代表して、心よりお祝い申し上げます。また、今まで陰になり日向になり支えてこられたご家族はじめ関係各位の方々にも謹んでお慶び申し上げます。本日こうして入学の日を迎え、一つまた人生の階段を上った姿をご覧になって、感慨もひとしおのことと存じます。今後も、本学の学生として様々な経験をして成長していく彼らを温かく見守ってくださるようお願いいたします。

本年度の新入生は、生物生産科学専攻14名、応用生命科学専攻7名、環境資源共生科学専攻5名、農業環境工学専攻8名、農林共生社会科学専攻7名の合計41名です。この中には、留学生6名が含まれており、出身国は3ヵ国になります。この41名が、これから本学で各々の夢に向かって切磋琢磨していく、いわば同志になります。ここで皆さん今一度、自分の夢について考えてみてください。皆さんの夢は何でしょうか。心に決めた進路や専門分野は様々でも、そこで成果をあげ、よりよい社会をつくるために科学者として一役を担う、そのような高い志を胸に抱いているのは皆同じなのではないかと思います。そんな前途洋々たる皆さんに、本日はあらためてお話ししておきたいことがあります。

物理学者の寺田寅彦が昭和8年に書いた随筆に『科学者とあたま』というものがあります。ご存知の方もいるでしょう。もしまだでしたら、それほど長い文章ではありませんから一度読んでみるといいかもしれません。一言で要約すると、科学者は頭が良いと同時に悪くなくてはならない、ということを言っているのですが、この一見矛盾した言葉は多少シニカルではありますが実は非常に的を射ていると思います。皆さんご承知の通り、科学者というのは論理的思考や緻密さが何より必要です。的確且つ迅速に課題の状況や実験結果を分析し、先を見通す洞察力もいるでしょう。そういう意味で、科学者は頭が良くなくてはいけないと言えます。しかし一方で、頭が良い人は行く手に起こるであろう困難や無駄を察知したり他者の間違いを容易に見つけてしまったりするがゆえに先を急ぎすぎ、実際にこつこつと実験するからこそ分かる真理を見落とし、向上心や努力を忘れてしまいがちになるというのも事実です。むしろ鈍感なほどに失敗を怖れず、試せることは何でもがむしゃらに試し、とにかく根気よく粘り強く歩を進めるという一種の頭の悪さがあった方が、謙虚にじっくりと物事を勘案し、頭の良い人が見つけられなかったものに気づき、そしてついには社会に貢献する素晴らしい成果を得られることがあるのです。

ここにいる皆さんは、農学分野の最高学位である博士号を取るために集まった精鋭です。高い資質と頭脳を持ち、学術研究の道の更に高みを極めようと志す意欲を兼ね備えています。しかし、ともすると頭が良いだけの科学者を目指しがちなのではないでしょうか。これから研究を進めていくにあたって、おそらく今まで経験してきたよりもはるかに厳しい困難に直面することと思います。解決できないような失敗や挫折感も味わうかもしれません。そのような時、要領や頭の良さばかりに重きを置いていると、立ち直ることは難しくなります。むしろ頭の悪さを発揮して謙虚に柔軟に、そして注意深く取り組み、あきらめずに進み続ければ、おそらく越えられない壁などないのです。

ご存知の通り、現代社会は人類の進化と社会・経済の発展とともに、環境、エネルギー、食糧、健康、安全・安心、災害等の問題をはじめ人類の存続に係わる地球規模の危機的問題を多く抱えるようになりました。こうした諸問題の解決には、我々科学者が先導して創造する科学技術の力が必要です。殊に農学分野は、環境・資源・食糧のいずれの側面から見ても、人類の健康的な存続に最も直接的に係わる学問分野と言えます。皆さんが入学する連合農学研究科は、茨城大学及び宇都宮大学と、大学という枠組みを超えて連携し、各々の研究の特性を活かし、また補いつつ、国際色豊かに更に洗練されたより有用な最前線の農学研究へと発展させるために創設されたもので、地球規模の視点から持続発展可能な循環型社会を構築する牽引力となり人類の共存と福祉にグローバルに貢献する人材を育成するのに最適な、様々な特色をもったカリキュラムとなっています。この連合農学研究科で研究をするからには、皆さんにはこうした特色をぜひ有効に活用し、何事にも粘り強く果敢に挑戦し、幅広い経験をしていただきたい。そして課題解決に中心的役割を果たし、人類が自然環境と共存しながら他者への思いやりを持って美しく豊かに発展していくことのできる明るい未来の構築に寄与する、頭が良くて頭が悪い、真に質の高い科学者になっていただきたいと思います。

最後にもうひとつ、当たり前のようですがとても大切なことを申し添えます。学術研究の道は、時に精神的にも身体的にも厳しいものになります。健康な心と体がなくては続けることができません。特に地方や海外から来られた方々は、慣れない地でいろいろと不安なことも多いかと思います。健康に十分留意して、実り多い大学生活を送ってください。本学も、さらに力強く皆さんのバックアップができるよう、あらゆる面で常に最大限の努力を続けてまいります。本日入学される皆さんが、今日の気持ちを忘れず夢に向かって大きく成長されることを願い、また、皆さんが本学の一員となることにあらためて歓迎の気持ちをお伝えして、式辞とさせていただきます。

CONTACT

お問い合わせ一覧はこちら