ナノポアを用いたポリペプチドの1分子検出に成功~トランスロコン構成要素の膜タンパク質を利用~

ナノポアを用いたポリペプチドの1分子検出に成功
~トランスロコン構成要素の膜タンパク質を利用~

 国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院生命機能科学部門の川野竜司教授と同大学大学院生 宮城美月、滝口創太郎(卓越大学院生)、同部門の養王田正文教授と同大学博士後期課程修了生 袴田一晃のグループは、マラリア原虫由来のトランスロコン(注1)構成要素である膜タンパク質EXP2が形成するナノポア(注2)を用いて、ポリペプチド(注3)の1分子検出に成功しました。本成果は、ペプチド検出可能なナノポアに関する知見の蓄積に貢献するものであり、ペプチドを標的分子とするバイオセンサやアミノ酸配列決定技術(ペプチドシーケンス)への応用が期待されます。

本研究成果は、Wiley-VCHが発行するProteomicsに2021年9月1日に掲載されました。
https://doi.org/10.1002/pmic.202100070
論文名: Single Polypeptide Detection using a Translocon EXP2 Nanopore
著 者: Mitsuki Miyagi †, Sotaro Takiguchi †, Kazuaki Hakamada, Masafumi Yohda, and Ryuji Kawano
(† equal contribution)

現状
 ナノポア計測は、ナノポアを通過した分子を1分子レベルで電気的に検出し、通過分子をサイズ等により識別する技術として注目されています。ナノポア計測によりDNAの塩基配列を決定するナノポアシーケンサは既に実現・商業化されており、今後ペプチドやタンパク質のアミノ酸配列決定への応用が期待されています。これを実現するためには、ペプチドやタンパク質を構成する20種類のアミノ酸を識別可能なナノポアが必要となります。これまでにナノポアを用いたペプチド・タンパク質検出に関する研究は複数報告されていますが、全20種類のアミノ酸の識別は未だ達成されていません。全アミノ酸の識別に向けてこれまでに用いられてきたナノポアの改良や、ペプチド検出可能なナノポアの種類および知見を拡充することが求められています。

研究体制
 本研究は、大学院工学研究院生命機能科学部門の川野竜司教授と工学府大学院生 宮城美月、卓越大学院生 滝口創太郎、同部門の養王田正文教授と同大学博士後期課程修了生 袴田一晃らによって実施されました。本研究はJSPS科研費基盤(A)19H00901の助成を受けたものです。

研究成果
 本研究では、生体内でタンパク質の輸送を担うマラリア原虫由来のトランスロコンに着目しました。トランスロコンは高次構造がほどかれポリペプチド鎖になったタンパク質を、膜タンパク質が形成するナノポアを介して輸送します。そのためトランスロコン構成要素である膜タンパク質EXP2はポリペプチドの検出に適していると考え、ペプチド検出可能なナノポアの種類拡充を目指してEXP2を用いたナノポア計測による標的分子の検出を試みました。ここでは、実験的に得られたEXP2ナノポアの直径(2.5 nm)と近い分子サイズを有する2本鎖DNAと、ペプチドとして分子量の異なる2種類のポリ-L-リジン(注4)(分子量30,000-70,000の長鎖PLL, 分子量10,000の短鎖PLL)を標的分子としました。ナノポア計測の結果、EXP2を用いて各標的分子を1分子レベルで電気的に検出できました。また、ナノポア計測で得られる阻害電流量と電流阻害時間を解析することで、分子量の異なる2種類のPLLを識別することに成功しました(図1)。

今後の展開
 本研究によって、マラリア原虫由来のトランスロコン構成要素である膜タンパク質EXP2を用いてポリペプチドの電気的1分子検出および分子サイズの識別に成功しました。本成果はペプチド検出可能なナノポアに関する知見の蓄積に貢献するものであり、今後、他のペプチドの検出・識別、タンパク質検出への展開を目指しています。

注1)トランスロコン
タンパク質が生体膜を通過できるようにするためにチャネルとして働くタンパク質複合体。

注2)ナノポア
膜タンパク質やイオンチャネルによって、脂質二分子膜中に形成されるナノメートル(1ミリメートルの100万分の1)サイズの微細な孔(ポア)。

注3)ポリペプチド
数十個のアミノ酸がペプチド結合によりつながったもの。

注4)ポリ-L-リジン(Poly-L-Lysine, PLL)
塩基性アミノ酸であるリジンがペプチド結合によりつながったもの。

図1 本研究の概要。マラリア原虫由来のトランスロコン構成要素である膜タンパク質EXP2を用いてナノポア計測による標的分子の検出実験を行ないました。ナノポア計測では、電位勾配下でナノポアを流れるイオンを電流として検出するため、標的分子がナノポアを通過する際に一時的な電流阻害が生じます。この電流阻害シグナルを解析することで各種標的分子(2本鎖DNA、長鎖PLL、短鎖PLL)を1分子レベルで電気的に検出できたことに加えて、分子量の異なる2種類のPLLを識別することに成功しました。

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院工学研究院
生命機能科学部門 教授
 川野 竜司(かわの りゅうじ)
 TEL/FAX:042-388-7187
 E-mail:rjkawano(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

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