人を避けてこっそり、すばやくお食事?~タヌキとアナグマの都市適応術~

人を避けてこっそり、すばやくお食事?
~タヌキとアナグマの都市適応術~

ポイント

  • 都市に生息するタヌキとニホンアナグマは、人間活動を避けるような採食行動をとることで、都市の環境に適応している可能性を明らかにした。
  • 両種とも都市の森林では夜間を中心に採食活動を行い、山間部の森林よりも1回当たりの採食時間は短かった。
  • 都市の森林において、両種が木から落下した果実を採食する場合には、実りの多い木を選ぶのではなく、藪などで周囲からの見通しの悪い場所にある木を選んでいた。
本研究成果は、日本の哺乳類学誌「Mammal Study(略称:MAMM STUDY)」(2月15日付)に掲載されました。
論文名:Effects of human activity on the fallen-fruit foraging behavior of Carnivora in an urban forest.
著者名:Shigeru Osugi, Bruna Elisa Trentin, Shinsuke Koike.
URL:https://bioone.org/journals/mammal-study/volume-47/issue-2

概要
 国立大学法人東京農工大学大学院連合農学研究科博士特別研究生の大杉滋氏、同大学院グローバルイノベーション研究院の小池伸介教授、サンパウロ州立大学との国際共同研究チームは、タヌキとニホンアナグマは樹木から落下した果実を地面で食べる際に、都市の森林ではほぼ夜間にのみ果実の採食を行い、山間部の森林よりも1回当たりの採食時間が短いことを明らかにしました。また、両種とも実りの多い木の下で果実を採食するのではなく、藪などにより木の根元が周囲から見通しの悪い木を選んで果実を採食していました。以上から、都市に生息するタヌキや二ホンアナグマは人間を避けるような行動をとることで、都市の環境に適応している可能性があるという、新しい知見が得られました。

研究背景
 都市化に伴う人間活動の増大は、そこに住む野生動物の生活に何らかの影響を与えますが、その影響の程度は動物種によって異なります。これまでの研究では昆虫類や鳥類を対象とした事例が多く、都市に生息する哺乳類に対して人間活動が与える影響はよくわかっていません。中でも、生存に直接結びつく採食行動への人間活動の影響を評価することは、都市に生息する野生動物の生態を明らかにするうえで重要な研究課題です。そこで、本研究は都市の森林に生息するタヌキとニホンアナグマ(図1)を対象に、自動撮影カメラ(注1)を用いて樹木から落下した果実を地面で食べる行動(以下、落下果実の採食行動)を調べることで(図2:映像はhttps://youtu.be/d_Kjvty4kcwにあります)、人間活動が両種の採食行動にどのような影響を与えるのかを検証しました。具体的には、①人間活動が活発な三鷹市に位置する国際基督教大学のキャンパス(以下、都市の森林)と人間活動がほとんど存在しない八王子市に位置する森林総合研究所多摩森林科学園の試験林(以下、山間部の森林)において,初夏に結実するヤマザクラの落下果実の採食行動にはどのような違いが存在するのか?、②都市の森林において、秋に結実するイチョウとムクノキの落下果実の採食行動を行う際に、どのような条件の木の下で落下果実の採食行動を行うのか?、以上の2点を調べました。

研究成果
 都市の森林ではタヌキは23回、二ホンアナグマは24回、山間部の森林ではタヌキは61回、二ホンアナグマは63回のヤマザクラの落下果実の採食行動が観察されました。その結果、都市の森林に生息するタヌキと二ホンアナグマは、山間部の森林よりも夜間に採食行動を行う頻度が高かったです。さらに、1回あたりの採食時間(注2)は、都市の森林に生息するタヌキと二ホンアナグマは、山間部の森林よりも短かったです(図3)。
 さらに、都市の森林におけるイチョウとムクノキでは、タヌキでは計397回(イチョウで316回、ムクノキで81回)、二ホンアナグマでは144回(イチョウでは12回、ムクノキでは132回)の落下果実の採食行動が観察されました。その結果、両種は結実量(果実の実り)の多い木を選ぶのではなく、藪などにより木の根元が周囲から見通しの悪い木を選んで、樹上から落下してきた果実を採食していました。一般的に、野生動物が果実を食べる場合には、効率よく採食を行うために、結実量の多い木を選ぶ傾向がありますが、都市の森林のタヌキと二ホンアナグマは、効率よく食べることよりも、人間に発見されないことのほうが優先順位は高い可能性があります。

今後の展望
 タヌキとニホンアナグマは、比較的様々な環境に適応しやすい野生動物であることは古くから知られ、特にタヌキは現在では都心にも広く生息しています。これらの野生動物が、人間活動が活発な都市にどのように適応しているのか不明な点が多かったですが、今回の結果からは両種は人間を避けるような採食行動をとることが明らかになりました。今後は採食以外の行動(繁殖行動や子育てなど)において、都市に生息する野生動物にはどのような特徴があるのかを明らかにすることで、都市における野生動物の管理や保全にも結び付くと考えられます。
 なお、本研究の一部は日本学術振興会の科学研究費補助金(番号:25241026および17H00797)および東京農工大学グローバルイノベーション研究院の支援を受けたものです。

用語説明
注1) カメラの前に現れた動物の体温を感知して、自動的に撮影を行うことが出来るカメラ。
注2) 1回あたりの採食時間とは、動物が樹木の下に現れ、地面の上に落下している果実を採食した時点から、果実の採食が終わるまでの時間を示す。今回の調査では、鼻先を地面につけて果実を探したり、口を動かして果実を食べたりした行動を採食行動とした。また、今回は個体を識別することができていないため、いったん樹木の下から去ったのちに3分以内に戻ってきた個体は同一とみなし、連続した採食行動とした。

図1.タヌキ(左)と二ホンアナグマ(右)。
図2.都市の森林におけるタヌキ(左)と二ホンアナグマ(右)のヤマザクラの落下果実の採食行動。
図3.山間部の森林と都市の森林における、タヌキと二ホンアナグマのヤマザクラの落下果実の採食行動を行う際の1回あたり平均採食時間(秒)。

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院 教授
小池 伸介(こいけ しんすけ)
E-mail:koikes(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

関連リンク(別ウィンドウで開きます)

•東京農工大学 小池伸介教授 研究者プロフィール
•東京農工大学 小池伸介教授 研究室ウェブサイト
•小池伸介教授が所属する 東京農工大学農学部地域生態システム学科

 

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