臓器をパーツに分けて組み立てる!–移植用腎臓作製に向けた新たな手法の展開–

臓器をパーツに分けて組み立てる!
–移植用腎臓作製に向けた新たな手法の展開–

 国立大学法人東京農工大学大学院工学府生体医用システム工学専攻の角谷綾夏 氏(博士後期課程1年)、工学研究院先端物理工学部門の吉野大輔 准教授は、国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)の早瀬元 主任研究員との共同研究により、移植可能な実物大の腎臓オルガノイド(腎臓を模倣して人工的に作製された三次元細胞凝集体)の作製に向けて積み木やブロックなどの組み立て玩具にインスパイアされた新しい構築コンセプト(Unit construction method)を構想しました。コンセプトに基づき、腎臓機能を担う糸球体を模倣したオルガノイド基本要素(ユニット)の作製手法を確立し、それらを組み合わせることで複雑な臓器構造を再現可能であることを示しました。この成果は、実物大ヒト腎臓オルガノイドの開発に貢献することが期待されます。

成果のポイント

  1. 移植用腎臓の代替となりうる実物大腎臓オルガノイドの新規作製コンセプト(Unit construction method)を構想しました。
  2. 様々な形状を有するオルガノイド基本要素(ユニット)を作製する手法とユニットを組み合わせて複雑な臓器構造を再現できる手法を確立しました。
  3. 組み合わせた基本ユニット同士が血管内皮細胞の形成する微小血管網によって接続されることを確認し、組み合わせたユニットが組織として成熟する可能性を示しました。 

本研究成果は、APL Bioengineering(11月26日付)に掲載され、掲載号の注目論文としてFeatured articleに選出されました。

論文名:Geometrically engineered organoid units and their assembly for pre-construction of organ structures
URL:https://doi.org/10.1063/5.0222866

本論文に関連するプレプリント
プレプリントURL: https://doi.org/10.1101/2024.05.06.592718 

背景
 臓器移植は、手術や薬物投与による処置では回復が困難なヒトの身体機能を補う医療技術です。しかし、臓器移植希望者数に対する移植臓器提供数は慢性的に不足しているのが現状です。近年注目を集める3次元培養技術を応用したオルガノイド(注1)はヒト臓器の構造や機能を一部模倣するため、移植用臓器の代替となることが期待されています。臓器構造は実質(臓器固有の機能を発現する部分)と間質(実質の構造を支え、機能を制御する部分)に分けられ、その両方を再現することが臓器の構造や機能の再現には重要です。しかし、従来技術で作製された腎臓オルガノイドの多くは実質だけしか再現していないため、未熟で非常に小さく(ヒト腎臓の1%未満の大きさ)、ドナーから提供される腎臓に代わる移植用臓器として利用することは難しいという課題があります。

研究体制
 本研究は、JSPS科研費(21K19893)、JST創発的研究支援事業(JPMJFR222S)、NIMS連携拠点推進制度(2023-097)の支援の下、国立大学法人東京農工大学と国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)で実施されました。

研究成果
 本研究では、積み木やブロックなどの組み立てることができる玩具のように、腎臓オルガノイドを組み立てる新規手法(Unit construction method)を構想しました(図1)。本手法では、臓器を構造や機能に基づいて基本要素(ユニット)に分割し、数mmサイズのユニットをそれぞれ作製して最後に組み合わせることで、実物大の腎臓オルガノイドの構築を目指します。この手法により、従来手法と比べて高効率にオルガノイドのスケールアップが可能となります。また、ユニットを任意の位置に配置可能であることから、より詳細かつ複雑な臓器構造の再現が期待されます。
 この構想に基づき、我々の先行研究(Hayase and Yoshino, ACS Appl Bio Mater , 2020)を発展させ、円柱や球殻、数珠などの複雑な形状のオルガノイドユニットを作製することに成功しました。また、作製したオルガノイドユニットを接着し三次元的に組み合わせることで、容易に複雑な形状を再現可能であることを示しました(図2)。加えて、糸球体(注2)を構成する主要な三種類の細胞とタンパク質を用いて、糸球体様オルガノイドユニットを作製しました。(図3)。血管内皮細胞(注3)を含んだタンパク質溶液で複数の糸球体様オルガノイドユニットを接着すると、オルガノイドユニット間を繋ぐように血管内皮細胞が微小な血管網を構築することを示しました(図3)。この結果は、オルガノイドユニット同士が血管網を介して相互作用し、複雑な組織として成熟する可能性を示唆しています。従来のオルガノイド作製手法では、球やシートといった単純な形状に限定されていたため、本手法の確立は画期的な成果であると言えます。

今後の展開
 本研究で提案したUnit construction methodは、実物大腎臓オルガノイドを構築するための有望な手法であると考えられます。今後は、腎臓の間質に相当するオルガノイドユニットの作製手法を確立し、それぞれのユニット同士を適切に配置し細胞に刺激を加えて成熟させることで、実物大の腎臓オルガノイドの構築を目指します。


用語説明
注1)オルガノイド
人工的に作製された、生体の臓器や組織を模倣した三次元細胞凝集体。

注2)糸球体
腎臓のろ過機能を担う組織。

注3)血管内皮細胞
血管を構成する細胞の種類であり、血管の内壁に単層で存在する。

図1:実物大腎臓オルガノイドの構築のための新規手法(Unit construction method)の概要。腎臓を構造や機能に基づいて基本要素(オルガノイドユニット)に分割し、それぞれのオルガノイドユニットを個別に作製する。その後、ユニットを組み立てて実物大の腎臓オルガノイドを構築する。図はサイエンス・グラフィックス株式会社により作成。
図2:オルガノイドユニット複合体。複数個のオルガノイドユニットを組み合わせることで、巨大かつ複雑な形状を容易に構築できる。(a)4個の円柱ユニットを直列に組み合わせたもの。(b)数珠型と円柱型のオルガノイドユニットを組み合わせたもの。図は(Kadotani et al, 2024. APL Bioengineering, 8, 4, 046112)を改変して吉野らにより作成。
図3:腎糸球体様オルガノイドユニット。(a)糸球体を構成する細胞を用いて作製した腎糸球体様オルガノイドユニットの凍結切片の蛍光画像。(b)腎糸球体様オルガノイドユニット間の接着部に内皮細胞を含めることで、ユニット同士が血管内皮細胞の形成する微小血管網で接続される様子。図は(Kadotani et al, 2024. APL Bioengineering, 8, 4, 046112)を改変して吉野らにより作成。

 

  ◆研究に関する問い合わせ◆
 東京農工大学 大学院工学研究院
  先端物理工学部門 准教授
  吉野 大輔(よしの だいすけ)
   TEL/FAX:042-388-7113
   E-mail:dyoshino(ここに@を入れてください)go.tuat.ac.jp
   

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