圧力による天然シルクの構造転移のリアルタイム追跡に成功

圧力による天然シルクの構造転移のリアルタイム追跡に成功

現状

 福井大学工学系部門生物応用化学講座の鈴木悠准教授、横浜国立大学の内藤晶名誉教授、東京農工大学工学部の朝倉哲郎特任教授(研究当時)らの共同研究グループは、カイコが生産した天然のシルク水溶液を用いて、圧力によりシルクが繊維化前の構造から繊維化後の構造に変化する様子をリアルタイムで追跡することに成功しました。
 共同研究グループは、カイコの天然シルク水溶液を用い、固体NMR測定注1においてマジック角回転注2下で測定試料に遠心力由来の圧力がかかる点を利用し、圧力下でシルク水溶液が繊維化前の構造から繊維化後の構造に変化することを明らかにし、その構造転移メカニズムを提案しました。本研究により、カイコの繊維生産プロセスにおいて、せん断応力や張力に加えて、圧力が繊維形成に重要な因子であることを初めて実験的に示しました。
 今後、圧力によるシルク水溶液の構造転移メカニズムが明らかになったことで、シルクの繊維生産方法の解明、およびそれを模倣した新しい紡糸技術の開発に大きく寄与すると期待できます。
 本研究は、「Journal of the American Chemical Society」(ジャーナルオブザアメリカンケミカルソサエティ)(2023年10月12日付)に掲載されました。

研究の背景と経緯

 一般的な化学繊維の生産では、高温や有機溶媒を用いてポリマーを溶解、高圧で押出し、高温や有機溶媒によって固化させて繊維にします。これに対して、カイコは高温や有機溶媒を使用せず、常温で水に溶けたシルクから繊維を生産します。そのため、カイコの繊維生産方法を模倣することができれば、環境に優しくエネルギー効率の高い紡糸技術の開発につながると期待されます。しかし、今のところカイコの繊維生産方法の再現には至っておらず、その理由のひとつとして、カイコの紡糸において、瞬時に水溶液から固体の繊維を形成するメカニズムが未解明であるという点があります。

   

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