油滴を含んだ水はどれくらい流れが遅くなる?水と油の接触面積が円管内での流速に与える影響を評価

油滴を含んだ水はどれくらい流れが遅くなる?
水と油の接触面積が円管内での流速に与える影響を評価

 東京農工大学大学院生物システム応用科学府の田島千智(修了生)と工学研究院応用化学部門の稲澤晋准教授は、油滴を多量に含んだ水(エマルション)の流れの速度は油滴がない場合に比べて1/10以下になること、水体積と水-油の接触面積などいくつかの指標を用いると流れの速度を表せることを明らかにしました。この成果により、油の体積分率や油滴の大きさを用いたエマルション流れ速度の予測や、複雑なエマルション流れの学理解明につながることが期待されます。

本研究成果は、Chemical Engineering Scienceに2021年12月25日に掲載されました。
論文名:Effects of liquid-liquid interfaces on flow of oil-in-water emulsions in a capillary tube
著者名:Chisato Tajima, Susumu Inasawa
URL: https://doi.org/10.1016/j.ces.2021.117394


現状
 水に溶けない油が無数の油滴として水中に分散している液体(エマルション)は、化粧品や食品など日常生活で多く使われています。水だけや油だけを円管内に流す場合は、その流れを支配する法則は既知です。しかし、油滴を大量に含むエマルションの円管内流れを説明する法則は、未だ確立されていません。これは、水の中に多数の油滴が存在するだけで、水とも油とも異なる性質が現れるためです。

研究体制
 本研究は、東京農工大学大学院生物システム応用科学府の田島千智氏(2020年3月修士課程修了)と大学院工学研究院応用化学部門の稲澤晋准教授によって実施されました。なお、本研究の一部は、日本学術振興会科学研究費補助金(JP21K18843)の助成を受けて実施されました。

研究成果
 水に界面活性剤とシリコーン油を加えて撹拌し、多数の油滴が水中に存在するエマルションを作製しました。その際、油の体積分率や、油滴のサイズをそれぞれ変化させました。エマルションをガラス毛細管に通し、流動の様子を顕微鏡で観察しました。その結果、以下のことがわかりました。

  • 油滴は管中心に集まって流れる。体積分率が高くなると管壁まで密集した状態で油滴が流れる(図1)。
  • 油の体積分率の大きいほど、油滴のサイズが小さいほど、流れの速度は遅くなる(図2)。
  • 油と水の接触面積、水の体積分率、円管の内表面積、油滴なしの水の流れ、の4つを考慮すると異なる油体積分率、油滴サイズ、管径のデータを1本の曲線上に整理できる。(図3)

 これまでは、溶液の粘度(流れにくさの指標)など流れに関わる物性値を測定して整理することが一般的でした。これに対して、本研究では、粘度の測定に頼らず、エマルションの特徴量である体積分率や滴サイズで流れをシンプルに整理できることを世界で初めて示しました。

今後の展開
 エマルションの諸条件(体積分率、油滴サイズなど)で流れの予測が可能であることを意味しており、重要な知見です。また、水と油の接触面積が流速に負の相関を示したことから、水と油の境目で摩擦による抵抗が発生していることが予想されます。こうした知見を発展させ、体積分率や油滴サイズと、エマルションの粘度や流動速度との理論的な裏付けが得られれば、複雑な流れを対象とした理論構築への展開も期待できます。

図1 毛細管内を流動するエマルションの様子。(a)体積分率が低い(20 vol%)と油滴(写真中の粒)は管中心(領域B)に集まり、管壁近傍には油滴がいない(領域A) 状態で流れる。油の体積分率が増加すると(b, c)、領域Aが狭くなり、領域Bが広がって油滴が密集して流れる。スケールバー: 50 μm。

20vol%、55vol%、70vol%の各体積分率のエマルションの様子は、下記からご覧いただけます。

図2 流動するエマルション溶液の先端位置(x)と時間の関係。実線はx = x ₀ (t/t ₀)nでフィッティングした結果。式中、t ₀ [s]は油滴を含まない水の流れから求まる特性時間である。フィッティングからx ₀とnを求めた。油滴体積分率が大きくなると流れが遅くなる。
図3 油滴サイズや管径が異なるデータは、(a)油滴体積分率でおおよその傾向は整理できるがデータのばらつきも大きい。(b)同じデータを4つの要素で整理し直すと1本の曲線上(b中の実線)にデータが整理される。ガラス毛細管の直径:0.20 mm(赤), 0.10 mm(青), 0.05 mm(黒)。

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院工学研究院
応用化学部門 准教授
 稲澤 晋(いなさわ すすむ)
 E-mail:inasawa(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

関連リンク(別ウィンドウで開きます)

 

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