平成26年度 入学式

平成26年度入学式の式辞です。

平成26年4月8日
東京農工大学長 松永 是

東京農工大学に入学された皆さん、おめでとうございます。教職員を代表して、心よりお祝い申し上げます。また、今まで支えてこられたご家族はじめ関係各位の方々にも謹んでお慶び申し上げます。今後も、一歩一歩成長していく彼らを温かく見守ってくださるようお願いいたします。

本年度の新入生は、学部では農学部が324名、工学部が627名で合計951名、大学院は工学府・農学府・生物システム応用科学府及び連合農学研究科の4つで構成されており、生物システム応用科学府内に設置されている早稲田大学との連携による共同先進健康科学専攻もすべてあわせますと、博士前期課程・修士課程・専門職学位課程668名、博士後期課程117名となります。アジア、中東、中米、など世界各地からの留学生は合わせて73名で、すべて含めた学部・大学院全体の新入生の総計は1,736名です。この1,736名が、それぞれの未来のために助け合い切磋琢磨する仲間となります。

皆さんは今、将来への夢や新しい生活での出会いに対する不安や期待に満ち、あるいは既に明確な目標を持っていてその実現のためにこれからの学生生活を送ろうと意欲に燃えていると思います。もちろん我々教職員も、皆さんの日々が問題なく順調で有意義なものであることを心から祈り応援しています。とはいえ皆さんがこれから進む学問の道はなかなか険しく、時に進む方向を見失ってしまうこともあるでしょう。そしてついには自分が何者で何をすればいいのかもわからなくなり、苦しい思いでその答えを探し求めるような日が来るかもしれません。しかし、はたして自分とは探して見つけるものなのでしょうか?アイルランド出身の劇作家でノーベル文学賞を受賞したバーナード・ショーは、”Life isn’t about finding yourself. Life is about creating yourself.”という言葉を残しています。行動力に溢れ反骨精神旺盛なバーナード・ショーならではの言葉ではありますが、その『creating yourself』という心構えは非常に重要で、我々皆が心に刻むべきだと思っています。つまり『finding yourself』というと、前提としてどこかにすでに自分自身という出来上がったものがあって、それを見つけるということです。しかし、それではいつまでたってもこれこそ本当の自分であるという安心感がなかなか得られず心の底から満足することができません。一方、『creating yourself』は、自分はこうありたい、ああなりたい、だからこそ今これをしよう、というように目標を定めて積極的に自分を作り上げて、強い気持ちを持って前進することです。したがって、困難にぶつかってもそれを乗り越える方策を立てることができ、より充実した人生を送ることができます。

この『create』という姿勢は、皆さんがこれから進む科学技術の道にも通じます。現在我々の生きる地球が置かれている状況は決して健全で安泰なものではありません。人類の進化と科学技術や経済の発展に伴って起きてきた環境、資源、災害、健康など多くの問題が複雑に作用しあって、人類や地球全体の存続を加速度的に危うくしています。そのベクトルを変え、問題を解決していくために必要なのはイノベーションです。どこかにある解決策を探すのではありません。何もなくても新しい解決策を作り出すのです。 そしてそのイノベーションの推進力となることが、我々科学技術に携わる者の使命なのです。皆さんもこれからその責任ある科学者の一員となるのだという自覚をしっかり持って下さい。そしてそのためにまず、大学で学ぶ姿勢というものをよく理解していただきたいと思います。

学部に入学された皆さん、皆さんにはまず、大学での教育は高等学校までの教育とは大きく異なることを認識していただきたいと思います。高等学校までは教員が教えてくれる知識を吸収し理解するという教員から学生への一方通行の教育だったと思います。しかし大学では、学生が自主的に考え、持てる知識をフル活用して新たな知を生み出すという主体的な姿勢が求められます。大学は学生が成長する手助けをするものであり、成長する努力をするのは学生自身である、ということです。皆さんひとりひとりが本学在学中にこの姿勢をしっかりと培うことによって、未知の探索をイノベーションへとつなげる実効性の高い研究・開発を行うことができる有用な人材となり、大学での4年間を終えた後の進学や就職、どの進路においても活躍することができるようになります。

大学院へ入学される皆さんは、この基本姿勢はしっかりと身に付いたものとして、さらに深く専門的な研究の道へと入ることになります。しかし専門性を極めるには、逆説に聞こえるかもしれませんが、むしろ俯瞰的・大局的で多種多様な視点を大切にしなくてはなりません。他分野の知識や考え方、歴史的背景や社会的要素、国際情勢、あらゆることを積極的に学び、勘案しながら進まなければ、今後皆さんの前に幾度となく立ちはだかる壁を乗り越えて、多くの人の益となる研究を行うことは出来ないのです。

本学は産業の基幹である農学と工学の2分野に加え、その2つを併せ持つからこそ可能な融合領域にもフィールドを発展させ、『持続発展可能な社会の実現』・『循環型社会の構築』を目標とした研究や人材育成に全力で取り組んできました。目標・使命のためには既成概念や枠組みに囚われず柔軟に、そして信念を持って新しいことに挑戦することを厭わない、という姿勢は本学の特色であると同時に強みでもあり、様々な取り組みとしてあらわれています。例えばリーディング大学院プログラムというものがあるのですが、これはグリーン・クリーン食糧生産を支える実践科学の博士課程教育を農工融合・5年一貫で行う教育プログラムで、修了後に即戦力となる研究人材の育成により適した環境づくりを目指して全国に先駆けて導入しました。そして今現在も新研究院の設置や組織改革など、グローバルイノベーション推進のために様々な新しい取り組みを計画し、進化を図っています。また他機関や他大学との連携、民間企業との共同研究や海外との交流も積極的に行っており、一方でテニュアトラック制度や女性未来育成機構の機能充実にも力を入れるなど、常に自分たちの研究・教育活動の多様性と公共性を意識して活動を進めています。こうした先進的な取り組みを果敢に取り入れる柔軟な対応力・機動力と信念を持って挑戦する強い精神力という本学の特色ある姿勢を、ぜひ本学で学ぶ皆さんにも受け継いでいただきたいと願っています。

最後にもうひとつ、あたり前のようですがとても大切なことを申し添えます。学術研究の道は、時に精神的にも身体的にも厳しいものになります。健康な心と体がなくては続けることができません。特に地方や海外から来られた方々は、慣れない土地でいろいろと不安なことも多いかと思います。健康に十分留意して、実り多い大学生活を送ってください。本学もさらに力強く皆さんのバックアップができるよう、あらゆる面で常に最大限の努力を続けてまいります。本日入学される皆さんが今日の気持ちを忘れずそれぞれの夢に向かって大きく成長されることを願い、また皆さんが本学の一員となることにあらためて歓迎の気持ちをお伝えして、式辞とさせていただきます。

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