不安定な分子性酸化チタンの安定化により従来の酸化チタン系光触媒を凌駕する水素生成を実現

不安定な分子性酸化チタンの安定化により
従来の酸化チタン系光触媒を凌駕する水素生成を実現

 国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院応用化学部門の森田将司助教らの研究グループは、チタン錯体を原料に用いて、簡便な手法で分子性酸化チタンを安定化する手法を開発し、水素生成光触媒として機能することを明らかにしました。この成果により、これまでにはない高効率な分子光触媒の設計への展開が期待されます。

本研究成果は、イギリス化学会 Dalton Transactions誌への掲載(9月7日付)に先立ち、7月3日にWeb上で公開されるとともに、同誌のOutside Back Coverに選出されました。
論文タイトル: Stabilisation of molecular TiO4 species on the pore surface of mesoporous silica for photocatalytic H2 evolution
URL:https://doi.org/10.1039/D4DT01610F 

背景
 近年、酸化チタン(TiO2)はエネルギー製造、環境浄化やセルフクリーニング機能を利用するコーティング材への応用など、様々な分野での光触媒の研究開発が盛んに行われています。酸化チタン(TiO2)は通常、TiO6八面体から成る結晶構造をとります(結晶性酸化チタン)。TiO2の粒径をナノメートル(nm;1ナノメートルは10億分の1メートル)オーダーまで微細化すると、分子がもつエネルギーの低い状態と高い状態との差が大きくなり(エネルギー準位が離散的となり)、粒系の大きなバルク状態では見られない光触媒特性を発現することで知られています。さらに、分子・原子レベルまで微細化されたTiO4ユニットのような分子性酸化チタンはエネルギー準位がより離散的となり、アナターゼやルチルといった結晶性酸化チタン(図1, 六配位構造)とは異なるユニークな光化学特性を示します(図2)。しかしながら、四配位構造の分子性酸化チタン(TiO4)は高い触媒活性を発現することで知られているものの、極めて不安定であり、容易にアモルファス、結晶性酸化チタンが生成して高い触媒活性が失われてしまいます。これは高い反応性を持つ四塩化チタンやチタンアルコキシドに代表される従来のTi原料では、自発的に加水分解、重縮合が進行するためです。そのため、分子性酸化チタンの安定化手法の構築が強く求められていました。

研究体制
 本研究は、東京農工大学工学府博士前期課程2年 稲田 光、ならびに同大学院工学研究院応用化学部門 前田和之准教授、および森田将司助教により行われました。また、本研究はプロテリアル材料科学財団、天野工業技術研究所、および科学研究費補助金 若手研究 24K17752の助成などにより行われました。

研究成果
 本研究グループでは、適度な安定性・反応性を有する酸化チタン(Ⅳ)ビスアセチルアセトン(TiO(acac)2)をTi原料として用い、四配位構造の分子性酸化チタンの固定場としてメソポーラスシリカ(注1)細孔表面のシラノール基に着目しました(図3)。メソポーラスシリカの細孔表面を足場とした固定化手法により、通常では不安定な分子性酸化チタン(TiO4)を安定化することに成功しました。この分子性四配位酸化チタンは、そのユニークな光触媒反応性により、メタノール水溶液からの水素生成反応に対してTiO2参照触媒(P25)などの既存触媒の2、3倍高い光触媒活性を示すことがわかりました。これまでに有機物の選択酸化などの触媒反応において、TiO4種の有用性は報告されてきましたが、水素生成反応に対しても有効であることが今回はじめて明らかとなりました。また、メソポーラスシリカ細孔表面で安定化した分子性四配位酸化チタンは熱安定性(~600℃)を有し、光触媒反応時にもメソポーラスシリカ細孔表面から脱離せず、強固に固定化されていることも分かりました。本研究で開発した光触媒は、高い活性とサイクル性能を有しており、効率的なエネルギー製造だけでなく、ファインケミカル、環境浄化の分野への応用も期待されます。

今後の展開
 今後は本手法を他の母体や異種金属種にも展開し、多様な組成・構造をもつ不均一系分子光触媒の創製に展開していく予定です。


用語説明

注1)メソポーラスシリカ
 メソスケール(2~50 nm)の均一な大きさの孔(細孔)が規則的に配列したシリカ(SiO2)。
 細孔表面にはシラノール(SiOH)基が存在し、細孔表面の化学修飾も容易であるため、ホスト材料として多用されている。



図1:酸化チタンの結晶構造(アナターゼ、ルチル)



図2:酸化チタンの微細化に伴うエネルギー準位の変化



図3:本研究の概略図



図4:Dalton Transactions誌のOutside Back Cover

 

  ◆研究に関する問い合わせ◆
 東京農工大学 大学院工学研究院
  応用化学部門 助教
   森田 将司(もりた まさし)
   TEL/FAX:042-388-7040
   E-mail:m-morita(ここに@を入れてください)go.tuat.ac.jp

 

  

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