高空間分解能で化学物質を検出する超微細針「ナノニードル型ナノポアプローブ」を開発

高空間分解能で化学物質を検出する超微細針「ナノニードル型ナノポアプローブ」を開発

 

 国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院生命機能科学部門の川野竜司テニュアトラック特任准教授、同大学大学院工学研究院の庄司観日本学術振興会特別研究員(PD)、Department of Chemistry, University of Cincinnati, USAのRyan J. White教授は、微細な領域の化学物質を検出するため、直径1マイクロメートルより細い金ナノニードルの先端に脂質二分子膜(脂質二重層)を形成させ、分子が入り込むナノサイズの孔(ナノポア)を構築したナノポアプローブ(探針)の開発に成功しました。ナノニードルを用いたナノポアプローブを開発したことにより、従来のナノポアプローブよりも高い空間分解能でセンシングすることが可能となり、微量な溶液を扱うマイクロ流体デバイス内の化学物質を検出することに成功しました。本技術は、細胞の形状と放出される化学物質を同時に検出可能な、新たなプローブ型顕微鏡への応用が期待されます。

本研究成果は、米国化学会が発行するACS Nano(電子版2月6日付)に掲載されました。
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsnano.8b09667
論文名: Spatially-Resolved Chemical Detection with a Nanoneedle-Probe-Supported Biological Nanopore
著  者: Kan Shoji, Ryuji Kawano, and Ryan J. White

現状
微細な領域の化学物質を検出するため、細いガラス管の先端に脂質二分子膜を形成し、特定の分子だけが入り込むことのできるナノサイズの孔(ナノポア、注1)をもったタンパク質を埋め込んで、プローブ(探針)として使用する手法があります。このプローブはナノポアプローブと呼ばれ、ナノポアプローブを用いた顕微鏡は、表面形状と化学物質の情報を同時に計測することが可能であるため、新たな細胞観察手法として注目されています。しかしながら、脂質二分子膜の安定性が低いこと、さらには、プローブの先端径が大きく空間分解能が低いことが問題となっており、実際に細胞を観察するまでは至っていません。そのため、脂質二分子膜の安定性が高く、また、よりプローブの先端径が小さい新たなナノポアプローブが求められています。

研究体制
本研究は、庄司観日本学術振興会特別研究員(PD)と、大学院工学研究院生命機能科学部門の川野竜司准教授、Department of Chemistry, University of Cincinnati及びグローバルイノベーション研究院の招聘准教授であるRyan J. White博士らによって実施されました。本研究は科研費挑戦的萌芽研究17K19138による助成を受けました。

研究成果
本研究ではガラスピペットの先端に脂質二分子膜を張る替わりに、ナノニードル上に修飾したポリマーで支えた脂質二分子膜を形成することで、脂質二分子膜の安定性の向上と、直径800ナノメートル程度のプローブ先端径を実現しました(図1)。本プローブでは、ナノニードル先端のナノポア内に化学物質が侵入し退出する現象を電気信号として検出することができます。得られる電気信号は一分子ごとの侵入・退出シグナルを示しているため、信号頻度を解析することで溶液中に含まれる化学物質の濃度を解析することができます(図2)。まず、ナノニードルを修飾するポリマーの長さ、ナノポアの方向性、溶液の塩濃度などを最適化することで、ニードル型ナノポアプローブを用いた化学物質の検出に成功しました。さらに、マイクロ流体デバイス(注2)と組み合わせたナノポアセンシングプラットフォームの構築に向け、マイクロ流体制御技術を用いて形成した化学濃度勾配をニードル型ナノポアプローブにより直接検出するデモンストレーションを行いました。

今後の展開
本研究によって、局所的なナノポアセンシングが可能となったことにより、細胞から放出される化学物質を一分子レベル・ナノメートルスケールで検出可能な新たなプローブ顕微鏡開発の可能性を示すことができました。今後は、本ニードル型ナノポアプローブを用いた細胞観察システムの開発を行い、局所的な化学物質の放出を検出可能な細胞観察手法の確立を目指します。


注1)ナノポア
膜タンパク質やイオンチャネルによって、脂質二分子膜中に形成されるナノサイズ(直径1.4 ナノメートル程度)の孔(1ナノメートルは1ミリメートルの百万分の1で、1マイクロメートルの千分の1)。

注2)マイクロ流体デバイス
微細加工技術を利用して、微小サイズの流路を作製し化学工学やバイオ工学に応用したデバイス。

図1. 従来法と本研究で開発したナノポアプローブの比較。従来のナノポアプローブは、ガラス管の先端に脂質二分子膜が張られているため膜の安定性が低く、また、ガラスピペットの先端径がマイクロメートルスケールであるため空間分解能が低い。本研究では、ナノニードルの先端にポリマーで支えられた脂質二分子膜を形成することで、安定した脂質二分子膜をナノメートルスケールの先端に形成することに成功した。
図2. ナノニードル型ナノポアプローブを用いた化学物質の検出システムの概要。ポリマーを修飾したナノニードルを用いて脂質二分子膜を形成しナノポアを再構築する(左)。ナノポア内に化学物質が侵入することでナノポアがブロックされ電気信号として検出される。電気信号の頻度は、溶液中の化学物質濃度に依存するため、電気信号の頻度を解析することで溶液中の化学物質の濃度を測定することができる。本研究では、本ナノニードル型ナノポアプローブを用いてマイクロ流体デバイス中に形成された化学濃度勾配のイメージングを行った。

◆研究に関する問い合わせ◆ 
  東京農工大学大学院工学研究院
  日本学術振興会特別研究員
  庄司 観(しょうじ かん)
  E-mail:kan-shoji(ここに@を入れてください)m2.tuat.ac.jp
      shojikn(ここに@を入れてください)ucmail.uc.edu

 生命機能科学部門 准教授
   川野 竜司(かわの りゅうじ)
   TEL/FAX:042-388-7187
  E-mail:rjkawano(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

 

 

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