工業利用されながら不明であった芳香族ポリイミド原料の合成反応機構をシンクロトロン放射光を用いて解明

2018年5月24日

工業利用されながら不明であった芳香族ポリイミド原料の合成反応機構をシンクロトロン放射光を用いて解明

 国立大学法人東京農工大学大学院工学府応用化学専攻・佐野浩介(博士前期課程修了生)、金沢優輝(博士前期課程1年)、同工学研究院応用化学部門・平野雅文教授および小峰伸之助教、大阪大学大学院基礎工学研究科物質創成専攻・満留敬人准教授および前野禅助教(現:北海道大学触媒科学研究所特任講師)ならびに京都大学化学研究所附属元素科学国際研究センター・高谷光准教授らのグループは、工業生産もされていながら、これまで反応機構がほとんど未解明であった芳香族ポリイミド原料の合成反応機構をシンクロトロン放射光などを用いて解明することに成功しました。この成果により高分子の中で最高レベルの耐熱性、耐薬品性と機械的強度を示す芳香族ポリイミドをより効率的に合成する触媒の開発が期待されます。

本研究成果は、2018年5月15日に、アメリカ化学会の触媒化学専門誌「ACS Catalysis」にJust Acceptedでオンライン掲載されました。
URL:https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021%2Facscatal.8b01095

現状 :芳香族ポリイミドは、高分子の中で最高レベルの耐熱性、耐薬品性と機械的強度を持ち、電子部品の絶縁材料や宇宙航空用材料として使用されています。中でもポリフタルイミドは広く用いられており、その原料の合成にはフタル酸ジメチルの脱水素アレーンカップリング反応と呼ばれる触媒反応が工業的にも用いられています。この触媒反応では、酢酸パラジウム(II)と酢酸銅(II)を触媒とし、酸素が酸化剤として用いられますが、その反応機構はこれまで未解明な部分が多く、収率は10%程度に留まっていました。触媒活性の向上のためにも詳細な反応機構の解明が求められていましたが、反応に高温を要すること、希薄な触媒濃度でないと反応が進行しにくいこと、パラジウムと銅の錯体が混在した複雑な触媒系であるなどのためにこれまで実験的な証拠が限られていました。

研究体制 :本研究は、東京農工大学工学府博士前期課程学生・佐野浩介(修了生)、金沢優輝、同大学大学院工学研究院応用化学部門・平野雅文教授、小峰伸之助教、大阪大学大学院基礎工学研究科・満留敬人准教授、前野禅助教(現:北海道大学触媒科学研究所特任講師)および京都大学化学研究所・高谷光准教授らにより行われました。また、本研究は、科学研究費補助金 新学術領域研究「3D活性サイト科学」 26105003の助成などにより行われました。

研究成果 :本研究では、触媒反応で推定される中間体をそれぞれ合成・単離し、単離した推定中間体のフタル酸ジメチルの脱水素アレーンカップリング反応に対する触媒活性を調べました(図1)。特に推定中間体の1つである(アセタト)(3,4-ジメチルフタリル)(フェナントロリン)パラジウム(II)錯体を触媒に用いると、酢酸パラジウム(II)より高い触媒活性を示しました。また、単離した推定中間体を用いた化学量論的な反応により、触媒反応における各反応段階を実験的に実証しました。さらに太陽の100億倍明るい光をつくりだすことができる大型放射光施設「SPring-8」のシンクロトロン放射光を用いて触媒反応中の溶液を分析したところ、反応中の触媒は、酢酸パラジウムを触媒とした時にも反応中に推定中間体と同じ電子状態かつ同じ構造となることを発見し、そのスペクトルが、推定中間体の構造から計算されるスペクトルと良い一致を示すことを確認しました。これらの事実より、(アセタト)(ジメチルフタリル)(フェナントロリン)パラジウム(II)錯体が触媒反応中間体もしくは休止状態として実際の触媒反応に含まれていると推定されました(図2)。
 
今後の展開 :本研究成果により工業的にも用いられている触媒反応の機構が解明されたことにより、より活性の高い触媒開発の指針が得られ、電子材料用絶縁体や宇宙航空用材料にも用いられている芳香族ポリイミドの原料を収率良く合成することで、より安価に製造することが可能となると期待されます。

図1. 推定中間体の合成と放射光による分析により、ポリイミド原料であるフタル酸ジメチルの脱水素アレーンカップリング反応の機構を解明(模式図)

図2 . 放射光を用いたスペクトルの解析により、開始時の触媒によらず触媒反応中にはすべて同じパラジウム種となることを発見(黒:酢酸パラジウム/酢酸銅(II)/フェナントロリン、赤の点線:(アセタト)(3,4-ジメチルフタリル)(フェナントロリン)パラジウム(II)/酢酸銅(II)/フェナントロリン、青の点線:(アセタト)(2,3-ジメチルフタリル)(フェナントロリン)パラジウム(II)/酢酸銅(II)/フェナントロリン、をそれぞれ用いた触媒反応中のパラジウム種を示すスペクトル)。

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院工学研究院 応用化学部門 教授
 平野 雅文(ひらの まさふみ)
 TEL/FAX:042-388-7044  E-mail:hrc(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

大阪大学大学院基礎工学研究科 物質創成専攻 准教授
 満留 敬人(みつどめ たかと)
 TEL:06-6850-6290  E-mail:mitsudom(ここに@を入れてください)cheng.es.osaka-u.ac.jp

京都大学化学研究所 附属元素科学国際研究センター 准教授
 高谷 光(たかや ひかる)
 TEL/FAX:0774-38-3182/3186  E-mail:takaya(ここに@を入れてください)scl.kyoto-u.ac.jp

プレスリリース(233KB)

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