温州ミカンのカオス制御 -東京農工大学とデリー大学(インド)の研究グループ-

温州ミカンのカオス制御

-東京農工大学とデリー大学(インド)の研究グループ-



東京農工大学大学院農学研究院農業環境工学部門の酒井憲司教授と自然環境保全学部門の星野義延教授、デリー大学物理・天文学部門のAwadesh Prasad准教授のグループが、温州ミカンが隔年で豊作と不作を繰り返す現象について、単純なメカニズムがランダムな変動を生み出す「カオス」が同期するという理論に基づいて、この現象を制御する手法を提案しました。

本研究成果は、Scientific Reports誌(Nature Publishing Group発行)(1月4日)に掲載されました。

http://www.nature.com/articles/srep39890

<現状>

温州ミカン、レモンなどの柑橘類、リンゴ、ナシなどの落葉果樹、ピスタチオ、クリなどのナッツ類など多くの樹木作物において、豊作と不作が交互に繰り返されます。この現象は隔年結果現象と呼ばれ、農家の経営を圧迫しています。これは農学における重要な研究課題であり、収量の安定化のための栽培技術体系が作物ごとに構築され改良・検討が加えられています。一方、ドングリなどにもマスティングと呼ばれる豊凶現象があり、野生動物被害との関係からも生態学における主要な研究課題となっています。農工大では、これらの豊凶現象について、単純なメカニズムが一見ランダムな変動を生み出す「カオス」理論の観点から、そのメカニズムの解明や制御手法の開発を行ってきました。

<研究体制>

本学農学研究院とデリー大学物理・天文学部門の国際共同研究として、日本学術振興会外国人研究者招へい事業等の支援を受けて実施。

<研究成果>

カオス現象 として知られる樹木作物の隔年結果現象を、数理科学の諸分野において幅広く関心を集めている同期現象としてこれをと捉えなおすことにより、豊凶の制御にカオス位相同期 (注)の適用可能性を示すことができました。同期現象とは、独自の周期で動いているものや生物が集団になることで、同じ周期で活動するようになることです。例えば、隣り合った振り子が同じ周期で揺れるようになったり、発光する生物が集団となり同じ周期で点滅する現象などです。温州ミカンの収量を一定に保つとする栽培技術は熟練した農家でないと困難な難度の高い技術ですが、これを、カオス理論から見ると、その困難を理解することができます。本研究で示した理論では、2本のミカンの樹体を接ぎ木などで結合し生理環境を共有することによって、逆相同期への誘導が加速されます。すなわち、結合された2本のミカンはそれぞれ逆の周期で豊作と不作を繰り返します。個体レベルでは大きな隔年結果を生じても、果樹園レベルの平均収穫量を安定化させることが可能となります。


<今後の展開>

今回提案した制御理論に基づいて、本学附属の果樹園にて検証実験を行い、その理論の妥当性の検証と改良を行っていきます。また、農学の諸現象に対するカオス理論や非線形力学の適用に関する研究分野は、長年に亘って本学を拠点として展開されてきたものですが、特に近年、数学の異分野との協働の重要性が認識されており、「数理農学」という概念も数理科学分野から提案されています。本研究成果はこのムーブメントを象徴する研究成果と言えます。隔年結果現象だけではなく、農学や生態学に見られる様々な変動現象を対象として、国内外の数理科学と農学諸分野の研究チームとの協働研究を非線形力学やカオス理論を主軸に進めていきます。

注) カオス位相同期
カオスを生み出す非線形振動子を2~3個結合することによって生じる同期現象。

図1 温州ミカンの隔年結果現象。同じ年の同一の果樹園で栽培されていても、個体毎に豊作(右)と不作(左)となる。
図2 2つの個体を接ぎ木によって直接結合した場合のミカン収量のシミュレーション結果。 同位相(黒)と逆位相(赤)の比率を見ると逆位相の割合が大きくなっており、2つの個体が逆位相で隔年結果を繰り返す。そのため、両者の平均収量は一定に保たれる。

◆研究に関する問い合わせ◆

東京農工大学大学院農学研究院
農業環境工学部門 教授
酒井 憲司(さかい けんし)
TEL/FAX:042-367-5755

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