人に寄り添う安全で優しいロボット「OCTO」を開発

人に寄り添う安全で優しいロボット「OCTO」を開発
~未踏IT人材発掘・育成事業に採択~

工学部機械システム工学科 4年 原田 慧さん

(写真提供:独立行政法人情報処理推進機構)

「未踏IT人材発掘・育成事業(以下・未踏事業※)」に、「風呂を掃除するタコ型ロボットとシミュレータの開発」のテーマで採択された工学部機械システム工学科4年の原田 慧さん。「ソフトロボット」の開発に取り組む思いや、農工大での学びについて伺いました。

※ 未踏IT人材発掘・育成事業
経済産業省所管である独立行政法人情報処理推進機構が主催し実施している事業。ITを駆使してイノベーションを創出することのできる独創的なアイデアと技術を有するとともに、これらを活用する優れた能力を持つ、突出した人材を発掘・育成することを目的としている。

未踏事業に応募したきっかけは?

開発してみたいテーマがあって、その援助をしていただける可能性があったからです。
未踏事業に採択されると、自分が作りたいものを実現するために必要な開発費と、学術、産業界におけるIT分野のトップランナーであるPM(プロジェクトマネージャー)によるサポートを受けることができます。
応募する際は、いまだ世の中になかった自分だけのアイデアを、9か月間かけて形にできると思うと、ワクワクしましたね。
また同世代の素晴らしいクリエータの皆さんと交流の場を持てることも魅力的でした。

2022年2月19日に行われた未踏事業成果報告会での発表(写真提供:独立行政法人情報処理推進機構)
(写真提供:独立行政法人情報処理推進機構)

「OCTO」について、教えてください。

「OCTO」は、Original Cleaning Tender Octopus-type robotの略で、お風呂を掃除してくれるタコ型ロボットです。
「ロボット」というと、一般には鉄腕アトムのように金属で構成され、モータやギアの組み合わせで動くイメージが強いかもしれません。それに対し「OCTO」は柔軟なゴム材料で構成され圧縮された空気を供給することで動作します。このような柔らかいロボットは、ソフトロボットと呼ばれ最近盛んに研究されている分野なんですよ。
足に付着した吸盤内部を減圧することで、壁を登ったり、スポンジや歯ブラシなどの道具を持たせたりと多用途・多機能なロボットとなっています。重量が約580グラムと非常に軽量で、水中でも故障せず、極低温などの電子回路が動作しない環境や、原子炉のように放射能の影響で通常のロボットが誤作動を起こすような環境でも活動可能といった特徴があります。OCTOは将来、当たり前のようにあらゆる環境でロボットが存在し、活動しているような社会を想定して開発されたプロトタイプです。その使用例の一つとして、今回は浴室環境を選択したわけです。

「OCTO」を思いついたきっかけは何でしょうか。

農工大の欅寮での一人暮らしがきっかけです。親元を離れたことで自炊や洗濯などの家事を自分でやるようになったのですが、一番大変だったのが風呂掃除でした。寮のお風呂には浴室乾燥機能がついておらず、シャワーで壁や天井に飛び散った水を入浴後に雑巾でからぶきしていました。そのまま放置すると水分が水垢になったり、浴室の汚れに繋がるのです。これを毎日やるのが大変で、レポートが終わらない日もありましたね(笑)。この、雑巾で浴室をからぶきする作業を、ロボットで自動化できたら便利だなぁと思いました。調べてみると、ノーリツ社の”家電に対する意識調査”においても自動化したい掃除はお風呂掃除であるとの回答が最も多いことが分かりました。それがきっかけで、お風呂を掃除するロボット、特に壁や天井も移動し作業可能なロボットの開発に興味が湧いてきました。また、生活環境で使うことを想定して人への安全性を持たせるために、柔らかい材料で製作したらユニークだろうとも思いました。

数か月前、TELEXISTENCE社の遠隔操作ロボットのコンビニにおける実証実験開始の記事を読みました。また、高輪ゲートウェイ駅での無人コンビニや、自動運転車の開発状況とその普及速度を考えると、今後ますます身近な環境で人と機械が共存していきそうだ、と思います。ユビキタスコンピューティングの概念がさらに普及し、偏在するコンピュータに身体が伴った時、身近な環境のどこにでもロボットが存在する世界が到来するはずで、当然、生活環境にもロボットが導入されると思いますが、重くて硬く金属で覆われたロボットと一緒に暮らすのは危険そうです。ロボットが上空から落下すると、落下の衝撃で床が傷ついたり、子供がけがをしてしまうかもしれません。ですが約600gと軽く、柔らかいタコ型ソフトロボットであれば安全性も確保され、見た目にも可愛らしいです。このタコ型ロボットを開発しデモンストレーションすることで、当たり前のように隣にロボットがいてそれが生活の助けになるような未来社会のvisionを皆にプレゼンしたいです。僕の想像する今後の社会像とか夢が、このロボットに詰まっているわけです(笑)。
 

開発する際、大変だったことを教えてください。

卒業研究と院試勉強との両立が大変でしたね。時間の制約がある中で、ある程度のクオリティを求められるのが厳しかったように思います。
また空気圧アクチュエータの製作が大変でした。すこしでも傷や穴があるとそこから破裂して空気が漏れ、上手くアクチュエータが変形しません。シリコン用の特殊な接着剤を塗ったり、ゴム材料を8種類ほど試してみたり、試行錯誤の連続でした。また、空気圧アクチュエータを製作するための型も全て自分でCAD(コンピュータによる設計支援ツール)を用いて設計したのですが、mm単位でねじ穴等を調整しており、ハードウェアの製作がそもそも大変でした。空気圧システムの回路設計やそのスケッチ、電子部品のユニバーサル基板へのハンダ付け、壁面歩行を可能にするプログラムの組み込みなど、一人で作業するにはあまりにも量が膨大であり、毎日10時間は作業していたように思います。徹夜もしょっちゅうでした。

農工大では、どんなことを学んできましたか。

実は、受験生の時は学科選びに強いこだわりはなく、機械システム工学科を選んだのも父のアドバイスでした。これは持論ですが、何の学科で学ぶのかは手段であって目的ではないような気もします。お医者さんになるという目標を叶えるには医学部へ行く必要がありますが、誰かの病気を治したいであれば動物や人体に有益な化合物を発見して創薬する手も良いですし、医療人材が不足する環境であっても遠隔から手術可能な医療用ロボット”ダ・ヴィンチ”と連携すれば何時でもどこでも名医の手術を受けることが可能です。あるいは、レントゲンやエコー・MRIなどの画像からAIが患者の容態を画像診断することもあるかもしれません。いずれも医療に関わる分野で、個別に用いる知識や技術は違う一方、人の命を助けるのだという点では同じ目標に向かっていると言えます。僕は自分の学んだ知識や技術が誰かにとって嬉しくなるものであって欲しいとは願いますが、それは目的であって、手段は何でも良かったのかもしれません。とにかく、どの学科に入っても、その学びが誰かの喜ぶ何かに繋がるまで学び続けよう、と決めて大学に入学したわけです。10年後かもしれないし20年後かもしれませんが。大学に入る前は「M3(外径3mmのねじ のこと)」も知らなかった僕ですが、人よりも色々なことを知らない分多めに学ぼうと思い、授業を単位上限まで取得したり、他学科履修で情報工学科の授業も履修したり、電気・電子・機械・情報分野について図書館の本を片端から読んだり、農工大生協で『トランジスタ技術』(エレクトロニクス技術の専門誌)を買って毎月読んだり、他にも大量の本を読み漁りました。また本で読む知識だけでは不十分ですから、機械システム工学科公認のものづくりサークル「ロボット研究会R.U.R」や「航空研究会」に所属して、マルチコプター(無人航空機(ドローン))やCANSAT(飲料水の缶サイズの小さな模擬人工衛星)、知能ロボットなどを製作したのも良い思い出です。他にも音楽系のサークルに入って、アンサンブルしたり、ジャズピアノを弾いたりしていました。「Rhapsody in blue」や、上原ひろみさんの「time out」などが好きですね。

受験生へ、メッセージをお願いします。

高校生の時、大学で勉強したことは社会に出たら役に立たない、などと言われショックを受けた日もありました。確かに、大学で4年間、6年間勉強して身につけた内容だけでは、社会にとって意味や価値のある何かにならないのかもしれません。なぜなら、実際に働くことでしか分からない大切なことが沢山あるように思うからです。しかし、それは大学で学ぶことの意味を否定するものではありません。大学で身につけた知識だけでは足りないからこそ、そこを基盤に卒業後も学び続け、自分の学んだ事が何に実っていくのか?を一人一人が考え続けなければいけないと、僕は思うのです。高校生の中にはまだ自分が何をしたいか決まっていない人も多いと思います。少なくとも自分はそうでした。ですが、とりあえず大学に入って一生懸命勉強してみるのも良い着想だと思います。そんなに一生懸命勉強して、それが何になるの?という問いに対する答えは、未知数で、不確定で、でもちょっぴり希望を含んだ、誰も知らない未踏の領域なのです。答えが無いなら、学び続けることで答えを創り出せば良いのではないでしょうか。冒険心と遊び心を持って、色々なことにトライ!ですよ~(笑)。

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