浮かぶ液滴で起こる波の謎を解明!

浮かぶ液滴で起こる波の謎を解明!

 国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院先端機械システム部門の田川義之教授および同大学院工学府機械システム工学専攻博士前期課程在籍の橋本滉太郞氏、マサチューセッツ工科大学のJohn W. M. Bush教授らの国際共同研究グループは、回転する横向き円筒容器の内側表面上で浮く液滴の下面に発生する波について実験と理論の双方から研究しました。これまで、回転する横向き円筒容器の内側に液滴を垂らすと、その液滴が容器表面上で浮くことが田川教授らの研究により明らかにされてきました。また、特定の条件下では、浮く液滴の下面において波が発生することは既知でしたが、その波のメカニズムは従来の理解では説明できませんでした。本研究では、シリコンオイルのような高粘度の液体と空気のような低粘度の気体との境界で発生する波には、従来理解されていたものとは異なるメカニズムが働いている可能性が高いことが分かりました。そして、この波を説明するための新たな理論モデルを構築したところ、そのモデルが実験結果とよく一致することが確認されました。本研究結果は、壁面上で浮く液滴に限らず、速度差および粘度差を持つ境界面が存在する他の流体現象においても、同様の波が発生している可能性を示唆しています。

本研究成果は、Physical Review Fluids(9月17日付)に掲載されました。
論文タイトル: Waves beneath a drop levitating over a moving wall
URL:https://journals.aps.org/prfluids/abstract/10.1103/PhysRevFluids.9.093603 

背景
 回転する横向き円筒容器の内側表面上で液滴が浮く現象は知られており、特定の条件下では浮く液滴の下面で波が発生することが確認されていました。この波はKH(ケルビン・ヘルムホルツ)不安定性(注1)によって説明できると考えられてきましたが、その説明では不十分でした。そこで、浮く液滴の下面で発生する波を計測し、その計測結果と一致する新しい理論モデルを作ることで、この波のメカニズムを解明することを本研究の目的としました。

研究体制
 本研究は、東京農工大学 田川義之教授(大学院工学研究院先端機械システム部門)、橋本滉太郞氏(大学院工学府機械システム工学専攻博士前期課程在籍)、およびマサチューセッツ工科大学のKyle I. McKee氏、 Bauyrzhan K. Primkulov氏、John W. M. Bush教授によって行われました。また、本研究は基盤A 24H00289、The U.S. National Science Foundation No. CMMI-2154151の支援を受けて行われました。

研究成果
 図1(a)に示す実験装置を用いてシリコンオイルの液滴を浮かせることで、その液滴下面で発生する波(図1(b))を光の干渉計測で測定しました。そして、この実験で取得した波の波長と位相速度を理論的に予測しました(図1(c))。その結果、実験値と理論値はよく一致しました(図2)。これにより、回転する容器内側表面と液滴の間にある空気膜と液滴の境界面で生じる速度差と粘度差によって、粘性せん断不安定性(注2)に伴う波が発生することが分かりました。この世界初の研究成果は、米国の科学誌「Physical Review Fluids」でEditor’s suggestionとして特集されました。

今後の展開
 これまでKH不安定性では説明できなかった波が、今回の実験結果と一致した理論モデルによって説明可能となりました。本研究対象の浮く液滴に限らず、速度差および粘度差を持つ境界面が存在する他の流体現象においても、同様の波が発生する可能性を示唆しています。


用語説明
注1)ケルビン・ヘルムホルツ(KH)不安定性
異なる速度を持つ流体同士の境界面において発生する不安定性。このとき、流体の粘度は考慮されない。

注2)粘性せん断不安定性
異なる速度および粘度を持つ流体同士の境界面において発生する不安定性。

 

図1:回転する円筒容器内で浮遊するシリコンオイルの略図。(a)実験装置の略図。(b)液滴の下面に波が発生しながら浮いている時の図。(c)空気膜と液滴の境界面で波が発生している時の単純化モデル。
(Kyle I. McKee et al., Waves beneath a drop levitating over a moving wall, Phys. Rev. Fluids 9, 093603 (2024).)

 

 

図2:実験と理論予測における(a)波の波長と(b)波の進む速度の比較。実験データと理論モデルはよく一致している。
(Kyle I. McKee et al., Waves beneath a drop levitating over a moving wall, Phys. Rev. Fluids 9, 093603, (2024).)

 
  ◆研究に関する問い合わせ◆
 東京農工大学 大学院工学研究院
  先端機械システム部門 教授
  田川 義之(たがわ よしゆき)
   TEL/FAX:042-388-7407
   E-mail:tagawayo(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

 

  

関連リンク(別ウィンドウで開きます)
参考動画

浮かぶ液滴の不思議な回転映像

なぜ液滴が浮遊するの?映像で解説!