アルツハイマー病の原因物質アミロイドβが脂質膜中で毒性を示す過程のリアルタイム観察に成功!

アルツハイマー病の原因物質アミロイドβが
脂質膜中で毒性を示す過程のリアルタイム観察に成功!

 東京農工大学と三重大学のグループは、アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβが人工細胞膜中で毒性を持つ構造に変化する様子をリアルタイムに観察することに成功し、膜中のコレステロールが毒性構造への変化を促進することや、カテキンが毒性構造を阻害することを見出しました。これらの発見は、アルツハイマー病の治療法開発に有用な知見となることが期待されます。

本研究成果は、National Academy of Scienceが発行するPNAS Nexusに掲載されました。
URL: https://academic.oup.com/pnasnexus/article/3/1/pgad437/7473450 
論文名: Real-time monitoring of the Aβ42 monomer-to-oligomer channel transition using a lipid bilayer system
著 者: Yuri Numaguchi†, Kaori Tsukakoshi†, Nanami Takeuchi, Yuki Suzuki, Kazunori Ikebukuro, and Ryuji Kawano (†equal contribution)

現状
 アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβ(Aβ)は凝集性が高く、単量体(モノマー)から中間体の重合体(オリゴマー)を経てアミロイド線維を形成することが知られており、中でもオリゴマーに強い細胞毒性があることがわかってきています。Aβオリゴマーの細胞毒性機構の一つがチャネル(細胞膜を貫通する孔)形成であり、神経細胞膜中に孔を開けることで細胞死を引き起こしますが、これまでAβが膜中でモノマーからオリゴマーに凝集していく過程は確認されていませんでした。最近、小さい繊維状のオリゴマー(プロトフィブリル)を標的としたモノクローナル抗体であるレカネマブがアルツハイマー病の新薬として承認され、Aβの凝集過程を理解することがますます重要視されてきています。

研究体制
 本研究は、東京農工大学大学院工学府大学院生の沼口友理(当時)、竹内七海(卓越大学院生)、同大学工学研究院生命機能科学部門の塚越かおり助教、池袋一典卓越教授、川野竜司教授、三重大学大学院工学研究科応用化学専攻の鈴木勇輝准教授らによって実施されました。本研究はJSPS科研費学術変革領域研究(A)「超越分子システム」21H05229の助成を受けたものです。

研究成果
 研究チームはまず、マイクロデバイスを用いたチャネル電流計測によって、Aβモノマーが脂質膜(人工細胞膜)中で凝集してチャネルを形成していく過程(図1a)の観察を試みました。チャネル電流計測では、Aβと脂質膜の相互作用によって流れるイオン電流を電流シグナルとして観測することができます。AβモノマーとAβオリゴマーでは電流シグナルの特徴が異なるため、Aβの膜中でのチャネル形成を電流シグナルの変化から観測することができます。Aβモノマーを用いてチャネル電流計測を2時間行ったところ時間経過に伴うシグナルの変化が観測され(図1b)、膜中でAβモノマーが凝集してオリゴマー化し、チャネルを形成することを発見しました。続いて神経細胞膜を模倣した人工細胞膜を用いて計測を行ったところ、コレステロールを含む膜組成においてチャネル形成シグナルが多く観察され、膜中のコレステロールがAβの膜中でのチャネル形成を促進することがわかりました。さらに、Aβの凝集阻害剤であるカテキンの一種EGCGのAβチャネルへの作用を調べた結果、EGCGの添加により電流シグナルが減少し、EGCGはAβの凝集だけでなく、膜中に形成されたチャネルの活性も阻害することを新たに発見しました。
 本研究は、農工大生のものすごい研究(紹介動画)(https://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/movie/tuat_pr_movie_4.html)に取り上げられ、今回その成果が論文として発表されました。

今後の展開
 本研究により、チャネル電流計測によってAβと人工細胞膜との相互作用を観測し、凝集の過程を観察できることが明らかになりました。これにより、Aβと神経細胞膜との相互作用の解明が進み、アルツハイマー病の治療法開発に貢献すると期待されます。

 

図1 (a) Aβモノマーが膜中でオリゴマー化し、チャネルを形成する様子。チャネル形成により細胞内へのイオン流入量が増加し、細胞内のイオンの均衡が崩れることで神経細胞死を引き起こすことが知られています。(b) 2時間のチャネル電流計測によって得られた電流シグナル。時間経過に伴いモノマー由来のシグナルが減少し、オリゴマー由来のシグナルが増加することが確認されました。



 ◆研究に関する問い合わせ◆

 東京農工大学大学院工学研究院
  生命機能科学部門 教授
  川野 竜司(かわの りゅうじ)
       TEL/FAX:042-388-7187
       E-mail:rjkawano(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

 

 プレスリリース(PDF:1.1MB)

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