燃焼プロセスの高効率化と安定運転を目指して―ナノ粒子を用いた灰粒子の高温付着性抑制技術を確立―

燃焼プロセスの高効率化と安定運転を目指して
―ナノ粒子を用いた灰粒子の高温付着性抑制技術を確立―

 国立大学法人東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院の堀口元規助教(研究当時)、同大学院工学研究院応用化学部門の神谷秀博教授、ならびに同大学院農学研究院応用生命化学部門の岡田洋平准教授らは、ナノ粒子を用いて燃焼灰の付着性を下げる効果的な手法を確立しました。得られた知見は、下水汚泥やバイオマスなど様々な燃焼プロセスの高効率かつ安定的な運転に貢献できます。

本研究成果は、Fuel誌に掲載され、4月8日にWeb上で公開されました。
タイトル: Controlling particle adhesion of synthetic and sewage sludge ashes
in high temperature combustion using metal oxide nanoparticles
URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S001623612200967X?via%3Dihub

現状
 燃料やごみの燃焼プロセスは、発電や廃棄物処理など我々の生活を支える重要な技術です。安定運転の必要性は言うまでもないですが、燃焼に伴い大きな熱エネルギーが生み出されますので、この熱をいかに効率良く回収して有効利用するかが、持続可能な社会を実現するための1つの鍵になります。燃焼過程では燃え残りの灰が粒子状物質として発生します。この灰粒子が600~1000 °Cのプラント内部に付着することが知られています。付着が深刻化すると大きな塊にまで成長します。この灰の塊が熱エネルギーの回収効率を下げてしまうほか、塊を取り除くためにプラントの運転を止める必要が出てきます。つまり、灰の塊ができることでプラントの高効率・安定運転を妨げてしまうのです。そのため、灰の塊ができることを防ぐ技術の開発が望まれています。

研究体制
 本研究は、東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院 堀口元規助教(研究当時、現・産業技術総合研究所エネルギープロセス研究部門研究員)、同大学院生物システム応用科学府博士後期課程・三機工業株式会社 伊東賢洋氏、同大学院生物システム応用科学府博士前期課程2年 伊藤敦貴氏(研究当時)、同大学院工学研究院 神谷秀博教授、同大学院農学研究院 岡田洋平准教授の研究チームで実施しました。
研究成果:本研究チームは、なぜ灰が高温で付着するのか、成分が単純なモデル化合物を使って調べてきました。その結果、ナトリウム、カリウム、リンに高温(600~900 °C)で付着性を増加させる作用があることを実験的に明らかにしました(2021年3月22日および2021年11月16日プレスリリース済み)。下水汚泥を燃焼させたときの灰はこれらの物質を全て含みます。そのため、複合的な要因で付着性を増加させていることが予想され、付着抑制手法は慎重に検討する必要があると考えました。そこで、本研究では「下水汚泥燃焼灰の付着を抑えること」を最終目標とし、以下の2ステップに分けて研究を実施しました。

(1) モデル化合物を使い、付着原因物質ごとに最適な付着抑制技術を確立する
 「付着原因物質ごとに適切な付着抑制技術を確立する」ことを目指し、ナトリウム、カリウム、リンのどれか一つだけを含むようなモデル化合物を合成してその付着性をどう抑えるか検討しました。これまでの我々の研究から、シリカ、アルミナ、酸化鉄のナノ粒子を薬剤として灰に混ぜ込むことで、付着を抑えられる可能性が示されました。そこで、これらのナノ粒子薬剤をモデル化合物に3wt%添加し、900 °Cにおける付着性がどう変化するか評価しました(図1)。その結果、ナトリウムとカリウムにはアルミナナノ粒子が高い効果(付着性83~91%減)を示し、リンには酸化鉄ナノ粒子が優れた効果(付着性96%減)を発揮することが分かりました。リンに対してはアルミナも付着抑制効果を示しました(付着性87%減)が、その効果は酸化鉄には及ばす、リンには特に酸化鉄が優れていると結論付けました。ナノ粒子は反応性が高く、付着原因物質とナノ粒子薬剤の間の化学反応が進んで付着しにくい成分に変換されて、付着性を抑制できたと考えられます。化学的効果に着目した、付着抑制手法を確立できました。

図1 3種類のモデル化合物に対する3種類のナノ粒子薬剤の効果検証

(2)実際の下水汚泥燃焼灰の付着性に対する薬剤の効果を検証する
 ナトリウム、カリウム、リンの全てを含む下水汚泥燃焼灰にナノ粒子薬剤を添加して、下水汚泥燃焼プラント内部で付着が起こりうる800 °Cにてその効果を調べました。その結果、アルミナまたはシリカのナノ粒子を加えると付着性が最大89%も減少した一方で、酸化鉄ナノ粒子の効果は最大でも72%にとどまりました(図2左)。アルミナはナトリウムとカリウムの双方に対して効果があることに加え、リン由来の付着性もある程度抑制できるので、優れた効果を発現したと考えられます。一方で酸化鉄はリンに対してのみ効果を示すので、付着抑制効果が限定的だったと考えられます。これらはモデル化合物を用いた検討で明らかになった化学的効果に着目した考察です。
 ところが、モデル化合物を用いた検討ではそれほど付着抑制効果が見られなかったシリカナノ粒子にも、下水汚泥燃焼灰に対する強い付着抑制効果があったことから、化学的な効果以外の存在が疑われました。物理的な特徴に着目すると、ナノ粒子を混ぜ込むことで下水汚泥燃焼灰の粉体層(粒子の集合体)の充填性が悪くなる(ふわふわになる)ことを確認しました。この粒子の充填性は粉体層空隙率として数値化でき、充填性が悪くふわふわな粉体層ほど空隙率は高くなります。ふわふわしていれば固まりにくい(付着しにくい)、ということが想像できます。実際、ナノ粒子添加に伴う空隙率増加度合いが高いほど、付着性が下がることが分かりました(図2中央)。用いるナノ粒子によって空隙率を増加させる度合いは異なり、シリカナノ粒子を混ぜ込んだときに空隙率が特に大きくなることが分かりました。空隙率を上げて物理的に付着性を抑える手法は化学組成に依存しない方法であり、様々な付着原因を含む燃焼灰の付着を抑制する効果的な手法と考えられます。
 すなわち、燃焼灰の付着抑制には、化学的な方法と物理的な方法の双方を利用することが効果的であると結論づけました。この我々が独自に導き出した付着抑制手法は、論文の概要を紹介するグラフィカルアブストラクト(図3)でも表現されています。

図2 下水汚泥燃焼灰に対する3種類のナノ粒子薬剤の効果検証
図3 本論文の概要を紹介するグラフィカルアブストラクト

今後の展開
 様々な付着原因成分を含む燃焼灰の付着を抑制するためには、「適切な材質の薬剤を混ぜる」という化学的な方法と、「付着層を物理的に脆くする」という物理的な方法の両方を利用することが有効であるということが分かりました。このような我々が独自に開発した付着抑制手法について、より経済的な方法を検討することで、燃焼プラントの安定かつ効率的な運転に貢献していきます。

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院農学研究院
応用生命化学部門 准教授
岡田 洋平(おかだ ようへい)
TEL/FAX:042-367-5667
E-mail:yokada(ここに@をいれてください)cc.tuat.ac.jp

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