知られざるクマたちの恋愛事情~ツキノワグマの繫殖行動の撮影に初めて成功~

知られざるクマたちの恋愛事情~ツキノワグマの繫殖行動の撮影に初めて成功~

ポイント

  • カメラ首輪を使って、野生のツキノワグマの繫殖行動を撮影することに初めて成功した。
  • ツキノワグマは普段は単独性だが、繫殖期には多くの時間を他のクマとすごしていた。
  • ツキノワグマは繫殖行動のために、食事に費やす時間を減らすことが明らかとなった。

本研究成果は、イギリスの生態学誌「Ecology and Evolution(略称:Ecol Evol)」オンライン版(6月19日付)に掲載されました。
論文名:Animal-borne video systems provide insight into the reproductive behavior of the Asian black bear.
著者名:Tomoko Naganuma, Mii Tanaka, Shiori Tezuka, Sam M.J.G. Steyaert, Kahoko Tochigi, Akino Inagaki, Hiroaki Myojo, Koji Yamazaki, Shinsuke Koike
URL: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ece3.7722


概要
 国立大学法人東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院の長沼知子特任助教、小池伸介教授、ノルウェーのノード大学のSam M.J.G. Steyaert准教授、東京農業大学地域環境科学部森林総合科学科の山﨑晃司教授らの国際共同研究チームは、ビデオカメラを搭載した首輪(以下、カメラ首輪)( 注1 )を、野生のツキノワグマ(以下、クマ)に装着して、クマの繁殖行動( 注2 )を記録することに世界で初めて成功しました。本来、クマは単独性の動物ですが、繁殖期( 注3 )には頻繁にオスとメスが一緒に行動し、しかも異なる複数の相手と交尾することも明らかとなりました。また、クマは繁殖行動のために1日の中で食事に費やす時間を減らす、という新しい知見が得られました。

研究背景
 動物にとって繁殖は最も重要なライフイベントの一つです。しかし、生息密度の低い種や、森林に生息するなどの理由で直接観察が難しい種では、繁殖行動の詳細はほとんど分かっていません。クマもこのような特性を持つ種であるため、日本では本州および四国の森林に広く生息していますが、野生のクマの繁殖行動は謎に包まれていました。一方、近年はバイオロギング( 注4 )の技術の進歩によって、これまで知られていなかった様々な野生動物の行動を記録できるようになってきました。そこで、研究チームでは、カメラ首輪を用いることで、クマの繁殖行動を明らかにすることを目指しました。

研究成果
 2018年5~6月に捕獲した4頭(オス2頭、メス2頭)の成獣のクマに、カメラ首輪を装着しました。カメラ首輪は日中に15分間隔で10秒間の映像が撮影されるように設定し、一定期間後にクマの首から脱落するようにしました。そして、カメラ首輪から回収した映像から、クマの行動など様々な情報を記録しました。
 その結果、1頭当たりの撮影期間は平均41日で、その平均4割以上の日数で、本来は単独性のクマが他のクマと一緒に行動し、いずれのクマも異性と一緒に行動する様子が確認されました。そして、オスのなかには複数のメスと交尾をしていたクマもいたことから、クマが一夫多妻制であることが映像からも確認されました。さらに、メスを巡ると考えられるオス同士の闘争など、これまで詳しくは分かっていなかったクマの繁殖行動を多数撮影することに成功しました(図1:映像はhttps://youtu.be/W4opU6KhPjY にあります。※動画の49秒~1分01秒に、オスのクマが子どものクマを食べる映像があります。閲覧の際はご注意ください。)。
 また、クマは「他のクマと一緒に行動した日」と「単独で行動した日」で、1日の中の様々な行動配分を変えていることが明らかになりました。いずれのクマも「単独で行動した日」に比べて、「他のクマと一緒に行動した日」は、繁殖行動に費やす時間を増やすために、食事に費やす時間を減らしている可能性が考えられました(図2)。

今後の展望
 今回、カメラ首輪を装着したクマは4頭のみでしたが、これまでほとんど知られていなかった野生のクマの生態を、鮮明に映像として記録することに成功しました。したがって、この技術を様々な野生動物に用いることで未知な生態が解き明かされる可能性があります。また、様々な野生動物の保全や管理の一助となることも期待されます。たとえば、人間活動との軋轢が発生するような種では、人里近くでの行動の把握や人間活動に対する反応を詳細に理解できるようになり、未然に被害の発生を防ぐための対策につなげることが出来るかもしれません。
 なお、本研究はJSPS科研費 17H05971、19H03002、19H02990、乾太助記念動物科学研究助成基金、東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院からの助成金を受けたものです。

用語説明
注1) 設定した日時に映像を撮影・記録するビデオカメラを搭載した、首輪型の装置。
注2) 動物が子孫を残すために行う行動。出産や育児なども含まれるが、今回はオスとメスの出会いから、交尾に至るまでの行動を繁殖行動とした。
注3) 動物が繁殖行動を行う季節のこと。クマの場合、一般的に、交尾を行う初夏の時期を指す。
注4) GPS、カメラ、各種センサー等を搭載したデータロガー(記録計)を野生動物に取り付け、動物の行動や周囲の環境情報などを記録する研究手法。

図1.カメラ首輪によって記録されたクマの一連の繁殖行動
a.メス(先頭)の後ろをオス(手前)が歩いている
b.木の上で眠るメスを木の下でオスが見守っている(待っている)
c.オスとメスが隣り合って一緒に過ごしている
d.メスを巡りオス同士が争っていると考えられる
e.オスがメスの上に乗り、交尾している
f.オスが子どものクマを食べている(オスは、子どもを連れたメスと繁殖行動をするために、子どもを殺すことでメスの発情を促すことがある)
図2.1日の行動の中で食事に費やした時間の割合(%)

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院 特任助教
長沼 知子(ながぬま ともこ)
E-mail:tama.827dx(ここに@を入れてください)gmail.com

学校法人東京農業大学 経営企画部
田中 康弘(たなか やすひろ)
古西 杏里(こにし あんり)
TEL:03-5477-2300
E-mail:koho(ここに@を入れてください)nodai.ac.jp

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