平成31年度東京農工大学入学式式辞

平成31年度東京農工大学入学式式辞です。

平成31年4月5日
東京農工大学長 大野 弘幸

 東京農工大学に入学された皆さん、おめでとうございます。教職員を代表して、心よりお祝いを申し上げます。また、本日の入学式に臨む皆さんを今まで支えてこられたご家族はじめ、関係各位にも謹んでお慶びを申し上げます。


 今年度の新入生は、農学部が321名、工学部が618名で学部生合計939名です。本学の大学院は工学府、農学府、生物システム応用科学府及び連合農学研究科の四つから構成されており、生物システム応用科学府内に設置されている早稲田大学との連携による共同先進健康科学専攻もすべてあわせますと、博士前期課程・修士課程・専門職学位課程の新入生は657名、博士後期課程は145名となります。また、世界各地からの留学生は合わせて75名で、本年度すべての学部・大学院生を含めた新入生の総計は1,741名です。
 

 さて、皆さんが入学した東京農工大学は今年で創基以来145年の長い歴史を誇り、産業の基幹である農学と工学の二分野に加え、その融合領域もふくめ、持続的に発展し続けることのできる社会の実現に向けて全力で取り組んでいます。本学は農学と工学に特化していると言われますが、それぞれの学問分野は広く、実に様々な研究がなされています。こうした環境に進学してきた皆さんは、本学で何をしたいのでしょうか?「大学では何を教えてくれるのだろうか?」とか「大学でどのように私を育ててくれるのでしょうか?」と言った質問は、自分が教育を受けるという立場から発せられると思います。それよりも、皆さんが皆さんの将来を自ら深く考え、あるいは挑戦したいことに向かって突き進むことの方が、皆さんは大きく成長すると思います。決められたレールの上を走らされるよりも、道の無い大地をさまよい、道を作る方が充実した人生になると思います。と言って、大学は何もしないわけではありません。皆さんの希望を叶えるべく最大限の協力をします。制度的にあるいは経済的に難しいこともあるでしょう。それでも皆さんの夢の実現に向けて協力・支援をして行きます。


 大学では皆さんは自由です。どうか、この自由を満喫して自分の人生を考えて下さい。しかし、自由と言っても大学での学びは重要です。社会に出てから重要となる「世渡り力」は基礎学と思考力が必要です。まずは、基礎学を習得して下さい。学部一年生の皆さんはまず、大学での教育は高等学校までの教育とは大きく異なることを知るでしょう。今日の社会では皆さんが自主的に考え、持てる知識をフルに活用して新たな知を生み出すという積極的で能動的な姿勢が求められています。皆さんが卒業後に進むことになる社会では、未知の事柄について、あるいは未経験のことについて問われることばかりです。パラメータも多いので、条件を満足するような解もたくさん出てくるでしょう。しかし皆さんはそれらの中から最適解を提案する必要があります。あるいは最適ではないものの、時間と共にパラメータが変われば適切な解となるものも変わってくるでしょう。もしかしたら、現状では解が無いかもしれません。いずれにせよ、解を出すと言うことは簡単なことではありません。こうした未知の領域で解を見出すのには何が必要でしょうか?単なる知識ならば今日のAIにはかないません。また膨大な情報がネット上に氾濫しています。必要な情報はいつでもどこでも手に入ります。皆さんに必要なのは、正しい情報を選択する基礎学力と、異なる情報を組み合わせる能力です。しかも、常識にとらわれない、革新的なアプローチも必要になるでしょう。そのためには、常識と言うものの考え方を変えましょう。「そんなの常識だよ。」という「常識」とは、皆さんが自分で作り上げた知識の壁、予測の壁です。先日記者会見をしたマリナーズのイチローが、「僕がやると言った二つのことに対し、みんなが笑った。でも、僕は二つとも達成した。」という部分に私は大変感動しました。「そんなの無理に決まってる。」と言うのは皆さんが勝手に決めている壁です。どうか、自らが築いた壁で自分を制限することなく、自由に、無限の可能性に向かって突き進んで下さい。
 未来は課題だらけです。従って、未知に挑戦するのだというみなさんの意欲が大切となります。大学は皆さんが成長するのを手助けします。成長する努力をするのはみなさん自身です。どうか自分の将来の夢を描き、その夢を現実のものとするために努力を惜しまず、勉学に励んで下さい。また、常に問題意識を持ち、それを解決する方法論を考えるようにして下さい。時には非常識な組み合わせも必要になるでしょう。知識を思い出すのではなく、考えることが大切です。そのためには一人で学ぶのではなく、大学に集い、皆で議論をし、様々な考え方を経験し、最適解を導き出す手法を身に着けることが必須です。大学での教育というのは皆さんが集まることに意味があります。これが通信教育との大きな違いです。どうか積極的に友人を作り、様々なことを議論し、お互いに成長して下さい。


 一方、この春に本学の大学院へ入学されてきた皆さんは、この「常識にとらわれずに広く考える」という基本姿勢はしっかりと身についており、さらに自分を高めようと、より専門的な研究生活に入ってきたことでしょう。しかし専門性を極めるのと同時に、幅広い常識、教養を身に着け、俯瞰的・大局的で多種多様な視点も持たなくてはなりません。浅くても良いから幅広い知識と、誰よりも自分が一番良く知っているという深い専門知識の両方を持つことは、国内のみならず国際社会で活躍するときにも有用でしょう。ですから自身の専門分野の研究のみならず、他分野の知識や考え方、歴史的背景や社会的要素、国際情勢など、あらゆることに興味を持って下さい。ただ知識を拡げるだけではなく、それぞれの事象に対し、自分の意見を持って下さい。そのためにも是非、大学院在学中に海外で研究生活を経験して下さい。海外の大学院生たちはとても貪欲です。学部生の皆さんにも世界に飛び出すことを強く勧めます。語学研修でも短期の留学でもいいでしょう。単なる観光ではない目的を持って日本を飛び出しましょう。若いうちに外国を見て、世界の若者と仲良くなることは大変貴重な財産となるでしょう。また、「博士学位」という研究のパスポートの重要性も海外に出ればすぐに気づくことでしょう。本学では様々なプログラムで海外に出る学生諸君を支援していますので、これをうまく使って豊かな学生生活を送って下さい。
 大学院では研究中心の生活になるでしょう。未知の領域の研究では、だれも答えを知りません。どう解決策を見出すのかというところが重要です。いろいろ考え、悩んで下さい。そしていろいろ試してください。その時には研究倫理を忘れずに、正しいサイエンスを進めて下さい。皆さんの前に幾度となく立ちはだかるであろう様々な壁に立ち向かい、正々堂々と乗り越えて下さい。皆さんはそのたびに成長するでしょう。どうか世界を平和に、人々を幸せにすることのできる人材になってください。我々教員も様々な分野で世界のトップを走り続け、全力で皆さんをサポートしていきます。

 最後に、学術研究の道は、精神的にも身体的にも非常に厳しいものです。健康で強靭な心と体がなくては続けることができません。特に日本全国や海外から来られた皆さんは、慣れない環境でいろいろと不安なことも多いかと思います。一人で悩まず、友人や保健管理センターのスタッフ、先生方に相談して下さい。健康にも十分留意し、スポーツなどを楽しみ、心身共に健康で、大いに学び、大いに遊び、実り多い大学生活を送ってください。苦しんだ先には輝く喜びが待っていることでしょう。


 沢山のお願いを皆さんにお話ししましたが、東京農工大学の教職員もさらに力強く皆さんのバックアップができるよう、あらゆる面で常に最大限の努力を続けてまいります。平成と言う時代もあと1か月もたたずに終わり、令和という新しい時代に入ります。この大きな流れの区切りの時の入学式は永く記憶に残るでしょう。本日、入学式を迎えたすべての皆さんが今日の気持ちを忘れず、それぞれの夢に向かって大きく成長することを期待し、また皆さんが本学の一員となることにあらためて歓迎の気持ちを伝え、式辞といたします。

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