ホログラフィック・コンタクトレンズディスプレイの開発〜究極のAR用ディスプレイが実現へ〜

ホログラフィック・コンタクトレンズディスプレイの開発
〜究極のAR用ディスプレイが実現へ〜

 国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院先端電気電子部門の高木康博教授の研究グループは、「ホログラフィック・コンタクトレンズディスプレイ」の開発に成功しました。本研究グループが研究を行ってきたコンピューター・ホログラフィー技術を応用することで、コンタクトレンズに内蔵したディスプレイデバイスに表示した画像に対して目が自然にピント合わせすることを可能にしました。この技術はAR技術で用いられるディスプレイの実現に利用することが期待されます。従来のように、ヘッドマウントディスプレイや専用メガネを装着することなく、目の中にコンタクトレンズを入れるだけで、現実世界にデジタル情報を重畳表示できるようになるため、フィジカル空間とサイバー空間を融合した超スマート社会の実現に貢献します。

本研究成果は、アメリカ光学会(Optical Society of America)刊行の論文誌『Optics Express』(vol.27, iss.7, 3月29日付)の掲載に先立ち、3月19日にWebで公開されました。
論文名:Holographic contact lens display that provides focusable images for eye
著者名:Junpei Sano and Yasuhiro Takaki
URL:https://www.osapublishing.org/oe/fulltext.cfm?uri=oe-29-7-10568&id=449380 
DOI:http://doi.org/10.1364/OE.419604 

現状
 コンタクトレンズディスプレイは、究極のディスプレイ技術として研究が開始され、液晶ディスプレイやLEDをコンタクトレンズに内蔵する技術がデバイス分野を中心に研究されてきました。しかし、コンタクトレンズ内に表示した画像に対して目がピント合わせできないことが大きな課題になっていました。そのため、現在は、画像表示は断念して、グルコースセンサや無線デバイスを内蔵した血糖値を測定できるスマートコンタクトレンズの開発が先行して行われている状況です。

研究体制
 本研究は、大学院工学研究院先端電気電子部門の高木康博教授と大学院工学府電気電子工学専攻博士前期課程2年の佐野純平によって実施されました(JSPS科研費基盤研究B(19H02189)、挑戦的研究(萌芽)(JP17K18872)の助成による)。

研究成果
 コンタクトレンズにディスプレイを内蔵しても、図1(a)に示すように、目はディスプレイにピント合わせできず、網膜に像を結ぶことができません。この問題を解決するために、以前は、図1(b)に示すように、LEDにマイクロレンズを取り付けて、網膜に光を集光する方法が提案されていました。しかし、目が外界の物体にピント合わせすると目の焦点距離が変化するため、この方法では光の集光がうまくいかなくなる問題がありました。そこで、本研究では、図1(c)に示すように、ホログラフィー技術を用いることを提案しました。ホログラフィーは、物体から発せられる光の波面を発生することで、立体表示を行います。目から離れた位置にある物体からの波面をコンタクトレンズ内の表示デバイスで発生することで、目が立体像に対してピント合わせできるようになります。この場合、物体からの波面が再現されているため、目は実物に対するのと同じように立体像に対して自然にピント合わせできるようになります。コンピューター・ホログラフィー技術を用いると、様々な画像を表示することが可能になります。
 提案したホログラフィック・コンタクトレンズディスプレイの構造を図2に示します。コンタクトレンズの厚さは一般に0.1 mm程度と薄いため、これに内蔵できる構造の実現がキーとなります。ホログラム表示を行う位相型空間光変調器( 注1 )や、光の偏光を制御する偏光子は、数マイクロメートルの厚さで実現可能です。今回は、位相型空間光変調器をレーザー照明するバックライトの厚さを、HOE( 注2 )を用いることで0.1 mm程度にすることを可能にしました。原理確認実験で、実際の風景に、ホログラム技術で発生した画像(文字“AR”)を重ねてAR表示している様子を図3に示します。
 
今後の展開
 今回の技術は、コンタクトレンズディスプレイの光学技術に関する課題を解決するものです。今後は、表示デバイスや通信デバイスに関する研究者や眼科の医師などと協力して、コンタクトレンズディスプレイの実用化に向けて研究を進めたいと考えています。

用語解説
注1)位相型空間光変調器
光の位相を2次元的に変調し光の波面を制御するデバイス。光の位相変調には、厚さが数マイクロメートルの液晶層が利用される。
注2)HOE
ホログラフィク光学素子。ホログラムの原理を用いて、膜厚が数マイクロメートルのフィルムにレンズやプリズムなどの光学素子の機能をもたせたもの。

図1:ホログラフィック・コンタクトレンズディスプレイの原理
図2:ホログラフィック・コンタクトレンズディスプレイの構造
図3:実物体にホログラムで発生した画像を重ねてAR表示している様子

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院工学研究院
先端電気電子部門 教授
高木 康博(たかき やすひろ)
  TEL/FAX:042-388-7923
  E-mail:ytakaki(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp 

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