〔2016年1月26日リリース〕ブタクサの天敵昆虫は日本で独自の進化をしていた

ブタクサの天敵昆虫は日本で独自の進化をしていた
~20年でオオブタクサをも摂食可能に~



東京農工大学大学院農学研究院の深野祐也日本学術振興会特別研究員PD、同大学院修士課程修了の土居勇人らは、北米原産の外来植物であるブタクサの天敵で、1995年に北米から日本に侵入したブタクサハムシが、原産地では食べることのできなかったオオブタクサを餌として利用する能力を、約20年という短期間で進化させていることを発見しました。ブタクサやオオブタクサは花粉症の原因植物として知られている侵略的な外来植物ですが、日本のブタクサハムシで起こった進化によって、ブタクサ・オオブタクサの花粉生産量が抑えられている可能性があります。今後は、この進化によって日本のブタクサ・オオブタクサがどのような影響を受けているのか、また、どのような生理メカニズムがハムシの進化に関わっているのかを明らかにする予定です。

本研究成果は、欧州進化学会発行の
Journal of Evolutionary Biology(1月22日付)に掲載されました。
URL : http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jeb.12824/abstract

図1 オオブタクサを食べる日本のブタクサハムシ(左が幼虫、右が成虫)
写真:田中陽介博士提供

現状:餌植物のシフト(植食性昆虫が、今まで食べることができなかった新しい植物を食べはじめる現象)は、植食性昆虫の新種形成につながるため進化生物学的に重要なイベントだと考えられています。また、作物害虫の発生も餌植物のシフトによって生じるため、害虫発生の過程を理解するうえでも重要です。しかしながら、野外環境で、餌植物のシフトがちょうど起きている生物集団を観察することは難しいため、その詳しい過程はほとんどわかっていませんでした。われわれは、餌植物のシフトの過程を検証するために、北米原産の外来種で日本に侵入しているブタクサとオオブタクサ、そしてその天敵昆虫のブタクサハムシの3種に注目しました。
われわれの北米大陸での広範囲な野外調査によって、北米のブタクサハムシはほぼブタクサのみを餌とし、同所的に生育しているオオブタクサを餌として利用していないことがわかっています。一方で、日本に侵入したブタクサハムシはブタクサと共にオオブタクサを頻繁に餌として利用しています。これは、日本のハムシにおいて、餌植物のシフトが起こったことを示唆しています。そこで、餌植物のシフトが起きていない北米のハムシとオオブタクサを、シフトが起きている日本のものと比較することで、餌植物シフトの過程を直接検証できると考えました。

研究成果:実験の結果、北米のブタクサハムシは、北米のオオブタクサを餌植物として利用することは全くできませんでしたが、日本のオオブタクサは少し利用できることがわかりました。次に、侵入地である日本のブタクサハムシに対して同じ実験を行ったところ、北米・日本どちらのオオブタクサもほぼ完全に餌として利用できることがわかりました。これらの結果から、ブタクサハムシに起こった餌植物のシフトについて以下のようなシナリオが考えられました。

(1)まずハムシの侵入に先立ち日本に定着していたオオブタクサでは、天敵昆虫がいないため、
天敵に対する防御が低下していた。
(2)そのため後から侵入したブタクサハムシは、日本のオオブタクサを利用できた。
(3)その後、日本に定着したブタクサハムシが新しい餌植物であるオオブタクサをよりうまく利用できるよう
素早く適応した。

つまり、植物側・昆虫側両方の進化的な変化が、餌植物のシフトに重要であったことを示唆しているのです。

今後の展開:今回、日本のブタクサハムシで観察された適応進化は、侵入して20年という極めて短期間で生じています。ブタクサ・オオブタクサともに花粉症の原因植物として大きな問題になっていますが、ブタクサハムシの急激な進化が、日本のブタクサ・オオブタクサの個体数や成長、花粉生産にどのような影響を与えたかを明らかにするのが次の目標です。
さらに、ハムシのどのような生理メカニズムや遺伝基盤が、餌植物のシフトに関わっているのかも解明したいと考えています。



図2 飼育実験の結果概要

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