ナノ粒子応用の要となる「オレイル型分散剤」の謎を解明-ナノ粒子の分散凝集理論の発展に貢献-

ナノ粒子応用の要となる「オレイル型分散剤」の謎を解明
-ナノ粒子の分散凝集理論の発展に貢献-

 国立大学法人東京農工大学大学院生物システム応用科学府食料エネルギーシステム科学専攻一貫制博士課程4年の須藤達也、同大学院グローバルイノベーション研究院の山下翔平助教、同大学院生物システム応用科学府の小池菜摘(研究当時)、ならびに同大学院工学研究院の神谷秀博教授、同大学院農学研究院応用生命化学部門の岡田洋平准教授は、ナノ粒子の材料応用の際に多用されている「オレイル型分散剤」が優れた粒子分散機能を有する要因を解明しました。今回の成果は、溶媒中におけるナノ粒子の分散凝集理論の体系化に有用な知見であり、ナノ粒子応用の発展に貢献できるものです。

本成果は、Chemistry - A European Journal誌(欧州化学会誌)への掲載に先立ち、2022年12月28日にWeb上で公開されるとともに、同誌のInside Cover(中表紙)に採用されました。
タイトル: Dispersibility of TiO₂ Nanoparticles in Less Polar Solvents: Role of Ligand Tail Structures
URL: https://chemistry-europe.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/chem.202203608

現状
 直径が100 nm (1 mの1000万分の1) 以下の小さな粒子であるナノ粒子は、そのサイズの小ささに由来する特徴的な性質を有しており、幅広い産業分野への応用展開が期待されています。ところが、粒子同士が凝集 (注1) して大きな塊を形成しやすく、サイズに起因する優れた特性が容易に損なわれてしまうことが材料応用の障壁となっています。したがって、ナノ粒子の凝集を抑制して粒子が分散 (注2) した状態を維持することが極めて重要になります。
 ナノ粒子の凝集を抑制する戦略として、粒子表面を荷電することで生じる電気的な反発力を利用する手法と、長さのある有機分子 (分散剤) を粒子表面に被覆することで生じる立体的な反発力を利用する手法があります。なかでも後者は、電気的な反発力を利用しにくい低極性溶媒中にナノ粒子を分散させる際に有力な手法であり、材料開発の点でも需要が高いのが特徴です。ところが、低極性溶媒中でのナノ粒子の分散凝集理論は未だに発展途上の段階であり、どのような構造の分散剤を用いるべきかについては試行錯誤の積み重ねによって判断しているのが実情です。

研究体制
 本研究は、東京農工大学大学院生物システム応用科学府食料エネルギーシステム科学専攻一貫制博士課程4年 須藤達也、同大学院グローバルイノベーション研究院 山下翔平助教、同大学院生物システム応用科学府 小池菜摘(研究当時)、同大学院工学研究院 神谷秀博教授、同大学院農学研究院応用生命化学部門 岡田洋平准教授の研究チームで実施しました。

研究成果
 本研究グループでは、分散剤の構造と粒子分散性の相関を明らかにするために様々な検証を実施してきました (2017年12月28日プレスリリース2022年9月22日プレスリリース)。本研究では、低極性溶媒中にナノ粒子を分散させる際に多用されている「オレイン酸構造の分散剤 (オレイル型分散剤)」に着目し (図1)、この構造の分散剤がなぜ高い粒子分散機能を有しているのかを実験的に検証しました。
 オレイル型分散剤を基準として構造がわずかに異なる5種類の分散剤を合成し、一次粒子径(凝集していない粒子の直径)が約8 nmの酸化チタンナノ粒子 (注3) の表面に被覆しました。すると、「オレイル型分散剤」を被覆したナノ粒子は様々な低極性溶媒中において均一に分散したのに対して、分子構造が異なる他の分散剤を被覆したナノ粒子は溶媒中で凝集して分散液が白濁することを確認しました (図2)。この傾向はDLS (動的光散乱法) とUV-vis (紫外可視分光法) を組み合わせることで定量的に評価し、「オレイル型分散剤」の分子中央にある二重結合の存在がナノ粒子の分散性向上に寄与していると結論付けました。
 一般に、分子内の二重結合の存在は分子の物理的性質に大きな影響を及ぼします。例えば、二重結合を一つ含む不飽和脂肪酸である「オレイン酸」はオリーブオイルに多く含まれる油状物質であるのに対して、二重結合を含まない飽和脂肪酸である「ステアリン酸」は牛脂などに多く含まれている固形物質です。同様にして、ナノの世界においても分散剤の二重結合の存在が粒子の物性 (分散性) に大きな影響を与えている点は大変興味深い結果です。

図1 オレイル型分散剤の概略図
図2 分散剤を被覆した酸化チタンナノ粒子の分散の様子
図3 Chemistry - A European Journal誌のCover Picture

 

今後の展開
 本研究の成果は、低極性溶媒中におけるナノ粒子の分散凝集理論の体系化に有用な知見であり、ナノ粒子応用の発展に貢献できるものです。

注1) 凝集
ナノ粒子が粒子間に働く引力によって集まり、粗大な集合体を形成している状態。

注2) 分散
粒子間に働く電気的もしくは立体的な反発力によって、粒子が凝集せずに均一に分布している状態。

注3) 酸化チタンナノ粒子
紫外光遮蔽性や透明性などの優れた光学的特性を有しており、光学デバイスの反射防止膜や化粧品のUVカット材料として用いられている。

本研究に関連するプレスリリース
(1) 2017年12月28日リリース, ナノ粒子の特性を発揮させる“オーダーメイドな”分散剤を開発
https://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2017/20171228_01.html
(2) 2022年9月2日リリース, ナノの世界でも「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」?―「分散性」と「分散剤の長さ」のバランスを解明―」
https://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2022/20220902_01.html

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学 大学院農学研究院
応用生命化学部門 准教授
岡田 洋平(おかだ ようへい)
TEL/FAX:042-367-5667
E-mail:yokada(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

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