タヌキ・アナグマの食事スタイルは人間活動の影響を受けていた?~COVID-19がもたらした都市の野生動物の行動変化~

2022年12月27日

タヌキ・アナグマの食事スタイルは人間活動の影響を受けていた?
~COVID-19がもたらした都市の野生動物の行動変化~

ポイント

  • コロナ禍による人間活動の低下は、タヌキとアナグマの落下果実を採食する採食行動を変化させた。
  • 両種ともコロナ禍前は夜間を中心に採食活動を行っていたが、人間活動が大きく減少すると昼間に採食活動を行う機会が増えるとともに、特にタヌキは1回あたりの採食時間が長くなった。
  • 人間活動が盛んな時は、実りの多い木を選ぶのではなく、藪などで周囲からの見通しの悪い場所にある木を選んで採食していたが、人間活動が低下すると実りの多い木を選んで採食を行っていた。
本研究成果は、アメリカの生態学誌「Ecology and Evolution(略称:ECOL EVOL)」(12月25日付)に掲載されました。
論文名:The effect of decreasing human activity from COVID-19 on the foraging of fallen-fruit by omnivores.
著者名:Shigeru Osugi, Seungyun Baek, Tomoko Naganuma, Kahoko Tochigi, Maximilian L. Allen, Shinsuke Koike.
URL:http://dx.doi.org/10.1002/ece3.9657

概要
 国立大学法人東京農工大学大学院連合農学研究科博士特別研究生の大杉滋氏、同大学院グローバルイノベーション研究院の小池伸介教授、アメリカのイリノイ大学(兼任 東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院・特任准教授)のMaximilian L. Allen准教授との国際共同研究チームは、新型コロナウイルス感染症が世界的に流行した状況(以下、コロナ禍)に伴う人間活動の大幅な低下は、タヌキとニホンアナグマによる樹木から落下した果実を地面で食べる行動に影響を及ぼしたことを明らかにしました。具体的には、コロナ禍前の両種はほぼ夜間にのみ果実の採食を行っていたのが、コロナ禍では昼間にも採食を行う機会が増え、1回あたりの採食時間も長くなりました。また、コロナ禍前は両種とも実りの多い木の下で果実を採食するのではなく、藪などにより木の根元が周囲から見通しの悪い木を選んで果実を採食していましたが、コロナ禍中では実りのよさが、木を選ぶうえで最も重要な条件となりました。以上より、都市の森林に生息するタヌキやニホンアナグマは人間を行動の変化に敏感に反応していることが明らかになりました。

研究背景
 2020年、コロナ禍により世界各国で都市封鎖やロックダウン、日本国内では外出自粛が行われました。このような人間活動の大幅な変化は、野生動物の目撃情報の増加やロードキル(交通事故による死亡)の減少など、世界各地の野生動物に様々な影響が及ぼしたことが知られています。しかし、多くの場合、コロナ禍前の情報が限られているため、コロナ禍に伴う人間活動の低下が、具体的に野生動物の行動にどのような影響を及ぼしのたかについての報告は限られています。
 動物にとって採食は生活の中で最も重要な行動の一つです。先行研究において、都市に生息するタヌキやニホンアナグマは人間を避けるような採食行動をとることで、都市の環境に適応している可能性が示唆されています(詳細はこちら)。そこで、本研究は、コロナ禍にあった2020年に都市の森林(東京都三鷹市)に生息するタヌキとニホンアナグマを対象に、自動撮影カメラ(注1)を用いて樹木から落下したイチョウとムクノキの果実を地面で食べる行動(以下、落下果実の採食行動)を調べ、コロナ禍前の行動(2019年)と比較することで、コロナ禍に伴う人間活動の低下が両種の採食行動にどのような影響を受けたのかを検証しました。

研究成果
 2019年には、タヌキでは計397回(イチョウで316回、ムクノキで81回)、ニホンアナグマでは144回(イチョウでは12回、ムクノキでは132回)の落下果実の採食行動が観察されたのに対し、2020年にはタヌキでは計411回(イチョウで324回、ムクノキで87回)、ニホンアナグマでは173回(イチョウでは18回、ムクノキでは155回)の落下果実の採食行動が観察されました。この観察回数は、両年で大きな違いはありませんでした。
一方で、2019年にはタヌキとニホンアナグマの落下果実の採食行動はほとんどが夜間に観察されましたが、2020年には両種とも昼間の採食に採食する機会が顕著に増えました(イチョウの果実を採食するアナグマを除く)。特に、イチョウの果実を採食するタヌキでは、その傾向が大きく見られました(図1)。さらに、木の下の果実を食べるために訪れた際の1回あたりの採食時間(注2)は、両種とも2020年のほうが長くなる傾向があり、特にタヌキでは顕著な違いがみられました。
 また、両種が落下果実の採食行動を行う際の場所として、2019年には両種は結実量(果実の実り)の多い木を選ぶのではなく、藪などにより木の根元が周囲から見通しの悪い木を選ぶ傾向が存在したものの、2020年にはムクノキの果実を採食するアナグマを除き、結実量の多い木を選んでいました。一般的に、野生動物が果実を食べる場合には、効率よくエネルギーを得るために、結実量の多い木を選ぶ傾向があります。都市の森林に生息するタヌキとニホンアナグマは、人間活動が盛んであった2019年には、効率よく食べることよりも人間に発見されないことの優先順位が高かった可能性がありますが、人間活動が低下した2020年には、人間に発見される可能性が低下したことで、効率よく採食を行うために結実量の多い木を選ぶように変化した可能性があります。

今後の展望
 タヌキとニホンアナグマは、人間を避けるような採食行動をとることで都市の環境に適応しやすい野生動物であることが示唆されてきました。さらに、今回の結果から、人間活動が低下すると両種は敏感に反応し、人間活動がほとんど存在しない山間部の森林での採食行動に似た行動をとっていたことがわかりました。このように、都市に生息するタヌキとニホンアナグマは、人間活動に適応した生活を送っていることが明らかになりました。
今後、日本各地では少子高齢化に伴う人間活動が急激に低下する地域が多く発生することが予想されますが、今回の結果はそういった地域での野生動物の管理や保全を考えるうえでも重要な知見になります。
 なお、本研究の一部は日本学術振興会の科学研究費補助金(番号:25241026および17H00797)および東京農工大学グローバルイノベーション研究院の支援を受けたものです。

用語説明
注1)カメラの前に現れた動物の体温を感知して、自動的に撮影を行うカメラ。
注2)1回あたりの採食時間とは、動物が樹木の下に現れ、地面の上に落下している果実を採食した時点から、果実の採食が終わるまでの時間を示す。今回の調査では、鼻先を地面につけて果実を探したり、口を動かして果実を食べたりした行動を採食行動とした。また、今回は個体を識別することができていないため、いったん樹木の下から去ったのちに3分以内に戻ってきた個体は同一とみなし、連続した採食行動とした。

図1.2019年(コロナ禍前)と2020年(コロナ禍中)の都市の森林において、タヌキが落下したイチョウの果実を採食するために木の下に訪れた、1時間あたりの平均訪問数の時間帯による変化。

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院 教授
小池 伸介(こいけ しんすけ)
E-mail:koikes(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

関連リンク(別ウィンドウで開きます)

•東京農工大学 小池伸介教授 研究者プロフィール
•東京農工大学 小池伸介教授 研究室ウェブサイト
•小池伸介教授が所属する 東京農工大学農学部地域生態システム学科

 

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