平成28年度卒業式・学位記授与式

平成28年度卒業式・学位記授与式の告辞です。

 

平成29年3月24日

東京農工大学長  松永 是

 

 本日、東京農工大学を卒業される皆さん、そして大学院課程を修了される皆さん、おめでとうございます。本学教職員を代表し、心よりお祝い申し上げます。

 本年は、学士の学位取得者が、農学部321名、工学部580名、修士の学位取得者が工学府博士前期課程349名、農学府修士課程183名、生物システム応用科学府博士前期課程73名、技術経営研究科35名、博士の学位取得者が工学府博士後期課程26名、生物システム応用科学府博士後期課程14名、連合農学研究科博士課程27名、計1,608名が新しい世界へ飛び立っていくこととなりました。今の皆さんの胸中は、きっと晴れ晴れとした達成感、学生生活への名残惜しさ、そして未来への期待で溢れているのではないでしょうか。この数年間、皆さんは本学で研究生活の一端を垣間見ながら実にさまざまな経験をされたと思います。学生が主体的に学ばなければならない大学という場で学業を修めるには、楽しいばかりではなく挫折や困難に立ち向かい研鑽・努力を重ねる厳しい日々も多くあったでしょう。しかし皆さんは乗り越えました。まずはそのことに自信を持って下さい。この壇上から見る皆さんの顔は、数年前とは比べ物にならないほど凛々しく逞しく見えます。この頼もしい面々が、これからお互いの人生の良き仲間、共に困難に立ち向かうパートナーであり、切磋琢磨するライバルともなる人たちです。この大学で培った関係を長く暖め、大切にしていただきたい。さらに本日は、皆さんが学業に励んできた間皆さんを支えて下さったご家族、ご友人、関係者の方々に対してもあらためて感謝しましょう。皆さんが今日この日を無事に迎えることができたのは、こうした方々が陰になり日向になり支えて下さったからこそです。我々教職員一同もその暖かいご支援に心からの謝意と敬意を表しつつ、この晴れの日の喜びを分かち合いたいと思います。

 学長としての6年間、この壇上から前途有望な学生諸君をさまざまな偉人の言葉や格言などを借りて送り出してきました。未知の世界や将来に希望を抱くように、心機一転のやる気を後押しできるように、そして躓いた時や思い悩んだ時にまた前へ歩き出せるように。そして本日は、多様性というものについて一緒に考える時間にしたいと思います。なぜなら皆さんが生きているこの世界は多様性に満ちているからです。今ここで言っているのは生物多様性のことではありません。人類というひとつの種の中にも、多様な主義主張、感情、思考や行動があるということです。本学は農・工という理系の分野を専門としています。それらの分野に興味を持っている者が集まっており、理論立てて実証することを善しとする世界です。しかし、当然ながら社会は違います。私たちが研究している科学技術に対する知識に疎い人、私たちが熱心に追い求めている真理にすら全く興味の無い人、むしろそれらを嫌う人すらいるでしょう。理論より感情の人もいる、合理性や進歩など必要ないという人も、皆さんのしてきたことやしようとしていることを全て否定する人もいるでしょう。しかし彼らはそれぞれの立場や経験でそう考えているのであり、それは違うというだけで間違っているのではないのかもしれないのです。そしてそのいろいろな違う考えの人々で構成されているのが社会なのです。そして皆さんの研究はそういう人々も含めた社会全体の益となるものでなくてはならないということを、しっかりと覚えておいていただきたいと思います。一方、皆さん自身のこれからの日々は今まで以上に忙しくなるのに加え、科学者ゆえの習性のようなものから何事も合理化したくなり、つい自分に直接関係の無いものを切り捨ててしまいがちになります。するとどうしても「井の中の蛙」というか「針の穴から天を覗く」というか、多様性を認めることが難しくなり、知らず知らずのうちにものの考え方が狭く偏ってしまい、結果的に社会全体の益を見失ってしまうことになるかもしれません。だからこそ、社会の持つ多様性を知り、認め、その立場に立って考えてみるよう常に強く意識し続ける必要があるのです。科学技術に携わる者こそ、例えば実験で出たさまざまな結果を一つ一つ検証したように、多様性を織り成す一つ一つをよく吟味し検討することができるはずです。これから先、研究室で、会社で、それぞれの進路で、いろいろな人と出会うでしょう。性格、背景、文化、常識――もちろんそもそも同じ人など一人もいませんが――自分と全く違う人や相容れないような人が沢山います。しかし彼らを退けたり避けたりするのでなく、その思いを聞き、知り、考えて下さい。現在の地球環境の危機を救うためには科学技術は重要であり、多様性を認め協力し合える研究者こそ多面的・多角的な発想で実効性の高いイノベーションを生み出すことが出来るのです。自然環境と共存しながら全ての人類・生物が安心して豊かに発展し続ける明るく美しい未来を創造するために、科学技術の力で、皆さんの力で、日本を、そして世界を動かしていって下さい。そして自分たちだけでなく、そのような意識を持った次世代のイノベーション創造の担い手を育てるよう努めて下さい。それが私たちの皆さんへの強い願いです。科学者として、ともにより良い未来のために奮闘していきましょう。

 次に皆さんにお会いする時には、さらに成長した頼もしい姿を見ることができると期待しています。そして本学も、皆さんの母校として誇れる心強い基柱となるよう、またいつでも皆さんのお手伝いが最高の形で出来るよう、特長である機動力と先進性を活かして世界の役に立ち世界に認知される実力ある大学作りに一層の努力をしてまいります。これからも同窓会活動やそれぞれの仕事を通して互いの交流が有意義に深まることを願い、そして最後にもう一度皆さんの今後のご健闘・ご活躍を心よりお祈りし、告辞とさせていただきます。

 

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