自家蛍光を利用したアミロイドの迅速検出法を開発!

自家蛍光を利用したアミロイドの迅速検出法を開発!

ポイント

  • 蛍光指紋解析により抽出した牛のアミロイドの特異的な自家蛍光パターンを検出しました。
  • この蛍光パターンは抽出物だけでなく、抽出前の組織ホモジネートからも検出可能でした。
  • 蛍光指紋解析と多変量解析を組み合わせることによって、経験に依存しない、簡単で迅速な
    アミロイドの検出法を確立しました。

概要
 国立大学法人東京農工大学大学院農学研究院動物生命科学部門の村上智亮准教授を代表とする共同研究グループは、牛のAAアミロイドーシスを迅速に診断するための新しい技術を開発しました。研究チームは、ウシの肝臓から抽出されたAAアミロイドタンパク質が特定の自家蛍光パターンを示すことを発見し、ウシ肝臓ホモジネートの蛍光分析によってアミロイドの迅速な検出方法を確立しました。アミロイドーシスの診断には現在、病理組織学的手法が用いられていますが、本開発技術を応用することにより、経験に依存せず簡単で迅速にアミロイドーシスを診断できるようになることが期待されます。

本研究成果は、Journal of Veterinary Diagnostic Investigationに10月5日に掲載されました。
論文名:Intrinsic fluorescence–based label-free detection of bovine amyloid A amyloidosis
DOI: 10.1177/10406387211049217
URL:https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/10406387211049217


研究体制
 本研究は、東京農工大学農学部共同獣医学科 氏家直毅(卒業生)、同農学府共同獣医学専攻 岩出進、コニカミノルタ株式会社開発統括本部要素技術開発センター 小野雄樹アシスタントマネージャー、同 岡野誉之アシスタントマネージャー、および東京農工大学大学院農学研究院動物生命科学部門 村上智亮准教授により行われました。また、本研究は、科学技術振興機構(JST)研究成果最適展開支援プログラム(JPMJTM20CY)、日本学術振興会科研費(20K15660)およびJST産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)などの支援により実施されました。

研究背景
 アミロイドーシスは、生体由来のタンパク質の誤った折りたたみによって生じる「アミロイド」が様々な組織に沈着することによって引き起こされる疾患グループであり、アルツハイマー病(脳Aβアミロイドーシス)などが知られています。アミロイドは、クロスβシート構造を持っているという点で正常なタンパク質と一線を画しており、それによって消化耐性や伝播性など、様々な特性を有しています。
 現在、アミロイドーシスの診断には病理組織学的手法が利用されています。 ただし、これらの方法には「検体の観察による正確な診断には特定の専門知識が必要」「診断までに時間を要する」など様々な制限があります。この研究において、研究チームは、従来の検出の欠点を克服することを目的とした、牛のAAアミロイドーシス*1を検出するための新しい方法の開発を試みました。

研究成果
 研究チームはまず、ニワトリやウズラのアミロイドが肉眼でオレンジ色を呈することに着目し、アミロイドには通常のタンパク質にはない光学的特性がある可能性を見出しました。一方、ウシのアミロイドは肉眼では呈色しないため、その光学特性が蛍光であるという仮説を立てました。
 この仮説を立証するため、研究チームは牛の肝臓から抽出されたAAアミロイドの蛍光指紋解析*2を行い、AAアミロイドが実際に特定の自家蛍光パターン(蛍光指紋)を持っていることを明らかにしました。また、研究チームは抽出物だけでなく、肝臓ホモジネートからもアミロイド特異的な蛍光を検出出来ることを見出しました。さらに、蛍光の検出法をより標準的なものにするため、主成分分析を用いて蛍光指紋データを処理し、アミロイドの有無を判定するモデルを開発しました。

今後の展開
 蛍光指紋解析は食品成分や水質調査などに使用されていますが、臨床病理学の分野でこの技術を使用した研究はほとんどありませんでした。蛍光指紋分析は特別な前処理を必要としないため、サンプルを迅速に採取できます。本技術は将来、アミロイドーシスのより簡易的で迅速な診断ツールの開発につながることが期待されます。

図:アミロイド陰性(左)および陽性(右)牛肝臓ホモジネートの自家蛍光パターン(蛍光指紋)

補足:用語の説明
*1AAアミロイドーシス:血清アミロイドAを前駆タンパク質とするアミロイドA(AA)が全身に沈着することで引き起こされる致死性疾患。動物では最も頻繁に発生する全身性アミロイドーシスであり、しばしば食肉からもAAが検出される。

*2蛍光指紋解析:励起波長、蛍光波長、蛍光強度を3次元情報として視覚化する解析法。自家蛍光パターン(蛍光指紋)は物質を構成する各分子の種類や量によって変化することから、対象サンプルの組成を非標識で検出する技術として注目されている。

◆研究に関する問い合わせ◆
国立大学法人東京農工大学大学院農学研究院動物生命科学部門
准教授 村上 智亮(むらかみ ともあき)
〒183-8509 東京都府中市幸町3-5-8
TEL:042-367-5883
E-mail:mrkmt(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp
URL:http://web.tuat.ac.jp/~tatlvt/ 

関連リンク(別ウィンドウで開きます)

 

CONTACT