有機電子移動化学の新展開-電子の移動を間接的に「見る」ことに成功-

有機電子移動化学の新展開
電子の移動を間接的に「見る」ことに成功

 東京農工大学大学院工学研究院応用化学部門の岡田洋平助教、神谷秀博教授、ならびに同大学院生物システム応用科学府生物機能システム科学専攻の前田尚也(博士後期課程2年)は「電子」の移動を調べる新しい手法を開発しました。化石燃料によって供給される熱エネルギーから脱却し、電気や光などの再生可能エネルギーを積極的に利用した新しい化学合成プロセスの開発に繋がることが期待されます。

本研究成果は、アメリカ化学会Organic Letters誌(9月9日付)に掲載されるとともに、同誌のSupplementary Coverで取り上げられました。
URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.orglett.9b02808


現状
 有機合成化学は、現代の人々の暮らしに無くてはならない医薬品・農薬・合成染料・香料などの化学工業製品を作る上で必要不可欠な学問です。現行の製造プロセスにおいては、化石燃料によって供給される熱エネルギーを利用することが主流です。しかし近年では、環境に優しい持続可能なプロセスの実現を目指して、熱エネルギーに代わり電気や光などの再生可能エネルギーを活用した化学反応の開発に大きな注目が集められています。

研究体制
 本研究は、東京農工大学の前田尚也(大学院生物システム応用科学府博士後期課程)、神谷秀博(大学院工学研究院教授)、岡田洋平(大学院工学研究院助教)の研究チームで実施しました。

研究成果
 電気や光を用いる手法では、マイナスの電荷を持つ「電子」と呼ばれる小さな粒子のやり取り(これを電子移動と呼びます)によって、常温常圧で化学反応を引き起こすことができます。電子はあまりに小さいために直接目で見ることはできませんが、電子がどこからどこへ移動するのかを考えることで、これから起こる化学反応を予測したり、あるいは新しい化学反応を設計したりできるようになります。岡田助教らはこれまで、有機合成化学の観点から電子移動を考える「有機電子移動化学」の研究に取り組んできました(2017年12月11日本学ニュース)。中でも、シクロブタンと呼ばれる四角形の構造を作る化学反応において、僅かな電子移動の違いによって得られる生成物が全く異なるものになることを見出しています。本研究では、この反応を「探針(プローブ)」として利用することによって、電子移動を調べる新しい手法を開発しました。反応によって得られた生成物を分析することで、電子移動が起こったのか、起こらなかったのかを判定することが可能です(図1)。本研究では、これまで「理論的な推論」の域に留まっていた電子移動を、実験化学的ならびに計算化学的に裏付けることに成功しました。「プローブ(probe)」に「宇宙探査機」という意味もあることに注目してデザインしたグラフィックが、同誌のSupplementary Coverにも取り上げられています(図2)。

今後の展開
 有機合成化学では、核磁気共鳴法に代表される分析技術を用いることで反応前後の分子の構造をはっきりと決めることができます。一方で、出発原料から生成物へと至る過程(これを反応機構と呼びます)はブラックボックスであることが多く、反応機構を理解するためには特殊な装置を用いた解析が必要です.今回のような有機電子移動化学の研究は、電気や光を用いた新たな物質生産プロセスの開発に繋がるだけでなく、反応機構の理解においても今後大きな役割を果たすことが期待されます。

 

図1. 「理論的な推論」である電子移動を実験化学的&計算化学的に裏付けることに成功
図2. 宇宙探査機(プローブ)に届く光(電子)の有無が生成物の構造を決定

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院工学研究院
応用化学部門 助教
     岡田 洋平(おかだ ようへい)
      TEL/FAX:042-388-7068
    E-mail:yokada(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

 

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