日本の豚農場でウイルス同士のゲノムの組み換え!?ー新しいウイルスが出現していることが明らかにー

日本の豚農場でウイルス同士のゲノムの組み換え!?
ー新しいウイルスが出現していることが明らかにー 

 国立大学法人東京農工大学農学部附属国際家畜感染症防疫研究教育センターの水谷哲也教授、今井諒(大学院博士課程)、麻布大学獣医学部の長井誠教授らの研究グループは、日本の豚農場から、豚エンテロウイルスと豚トロウイルスのゲノムの組み換えによって生じた、新しいウイルスを発見しました。この成果により、新しいウイルスが出現するメカニズムが解明され、未来に出現するウイルスを予測できる方法の確立が期待されます。

本研究成果は、Infection, Genetics and Evolution(7月22日付)に掲載されました。
論文名:A novel defective recombinant porcine enterovirus G virus carrying a porcine torovirus papain-like cysteine protease gene and a putative anti-apoptosis gene in place of viral structural protein genes.
URL: https://doi.org/10.1016/j.meegid.2019.103975

 
現状
 2018年から本研究グループを含む日本、アメリカ合衆国、ドイツ、ベルギー、中国、韓国の研究グループは、養豚場の豚から豚トロウイルスのPLCP(注1)遺伝子が豚エンテロウイルスのゲノムの中に挿入されている組み換えウイルスを発見し報告しています。 これを1型組み換えエンテロウイルスと呼んでいます。また、2019年には中国でウイルス粒子を構成する蛋白質の代わりにPLCPが挿入されウイルス粒子を作ることのできない2型組み換え豚エンテロウイルスが発見されています。
(注1)パパイン様システインプロテアーゼ:抗インターフェロン活性をもつので免疫を回避しやすくなります。
(注2)豚エンテロウイルスと豚トロウイルス:どちらも下痢に関連するウイルスです。

研究体制
 東京農工大学、麻布大学他との共同研究により実施されました。本研究はJSPS科研費 JP15K07718および東京農工大グローバルイノベーション研究院の助成を受けたものです。
 
研究成果
 今回私たちは新しい2型組み換え豚エンテロウイルスを日本の豚から発見しました。このウイルスはウイルス粒子を構成する蛋白質の代わりにPLCPとこれまでに知られていない2つの遺伝子配列が挿入されていました。その蛋白質の一部には細胞死(アポトーシス)を抑制する遺伝子に似た配列があり、ウイルスによる細胞死を妨げることで感染率や宿主内での増殖期間を上げている可能性があります。また、この新しい2型組み換え豚エンテロウイルスは豚の糞便中に比較的大量に含まれていることや、このウイルスが自分だけではウイルス粒子を作ることができないという構造になっているにもかかわらず豚農場で蔓延していることがわかりました。
 
今後の展開
 異なるウイルス科の間でゲノムの組み換えが起こることは非常に稀です。特に今回発見された新しい2型のウイルスは他国で発見された2型のウイルスよりも複雑なゲノムの組み換えが起きていました。ウイルス同士のゲノムの組み換えは、新しい機能を獲得することによる病原性の変化や、感染できる動物の変化をもたらす可能性があります。現在、養豚界は豚コレラウイルスの蔓延により重要な局面を迎えています。今回私たちは正常便から2型のウイルスを発見しましたが、新しい組み換えウイルスの出現には注意を要します。今後、ウイルス同士のゲノムの組み換えメカニズムを解明することで、未来に出現するウイルスを予測することが可能になると期待されます。

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学農学部附属国際家畜感染症防疫研究教育センター センター長・教授
水谷 哲也(みずたに てつや)
TEL/FAX:042-367-5749
e-mail:tmizutan(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

◆東京農工大学農学部附属国際家畜感染症防疫研究教育センターについて◆
本センターは、WHOの提唱するOne World, One Healthの概念に基づき、家畜をはじめ、伴侶動物、野生動物、エキゾチックアニマル、昆虫、魚類など様々な動物を対象に、ウイルス、細菌、真菌といった様々な病原体の研究をしています。すべての研究が動物や人の健康に役立つことを願いながら、スタッフと学生が全力で研究しています。

 

関連リンク(別ウィンドウで開きます)

 

CONTACT