クマ目線でとらえたクマの食生活~首輪に内蔵したカメラでツキノワグマの食生活を撮影~

クマ目線でとらえたクマの食生活
~首輪に内蔵したカメラでツキノワグマの食生活を撮影~

ポイント

  • カメラ首輪を使って、クマ目線での野生のツキノワグマの採食行動を撮影することに成功した。
  • 植物の葉や花、哺乳類など従来の方法では種類の特定が難しい食べ物の種類を明らかにすることができた。
  • クマの食生活の個体差を明らかにすることができた。

本研究成果は、アメリカの哺乳類学誌「Journal of Mammalogy(略称:J Mammal)」オンライン版(11月25日付)に掲載されました。
論文名:Comparing information derived on food habits of a terrestrial carnivore between animal-borne video systems and fecal analyses methods.
著者名:Shiori Tezuka, Mii Tanaka, Tomoko Naganuma, Kahoko Tochigi, Akino Inagaki, Hiroaki Myojo, Koji Yamazaki, Maximilian L. Allen, Shinsuke Koike
URL:https://doi.org/10.1093/jmammal/gyac101

概要
 国立大学法人東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院の小池伸介教授、学部生 手塚詩織(当時、現 修士課程)、長沼知子特任助教(当時、現 農研機構)、アメリカのイリノイ大学(兼任 東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院・特任准教授)のMaximilian L. Allen准教授、東京農業大学地域環境科学部森林総合科学科の山﨑晃司教授らの国際共同研究チームは、ビデオカメラを搭載した首輪(以下、カメラ首輪)(注1)を、野生のツキノワグマ(以下、クマ)に装着して、クマの採食行動を記録することに世界で初めて成功しました。さらに、撮影された映像を解析し、従来の食性研究の手法である糞分析法(注2)と比較したところ、糞の中ではクマの咀嚼(そしゃく)や消化の影響で物理的に破壊された状態で含まれる植物の葉や花など、種類の特定が難しかった食べ物の種類を映像から明らかにできることが分かりました。また、従来からクマの食生活には個体差がある可能性が示唆されてきましたが、映像の解析から具体的な食生活の個体差の存在を明らかにすることができました。

研究背景
 動物にとって採食は生活の中で最も重要な行動の一つです。直接観察することが難しい動物の食生活を探る手法として、これまでは糞の内容物を分析する糞分析法が一般的でした。しかし、糞の内容物からは、消化されやすい食べ物や咀嚼により破壊されやすい食べ物を特定することが難しいという欠点があります。そのため、野生のクマの食生活は詳細には分かっていませんでした。一方、近年はバイオロギング(注3)の技術の進歩によって、これまで知られていなかった様々な野生動物の行動を記録できるようになってきました。そこで、研究チームでは、カメラ首輪を用いることで、クマの未知の採食行動を明らかにすることを目指しました。

研究成果
 2018年5~6月に捕獲した4頭(オス2頭、メス2頭)の成獣のクマに、カメラ首輪を装着しました。カメラ首輪は日中に15分間隔で10秒間の映像が撮影されるように設定し(1日あたり52映像を撮影)、一定期間後にクマの首から脱落するようにしました。そして、カメラ首輪から回収した映像から、クマの食べ物を記録しました。また、同時にこれらのクマが滞在した場所の周辺でクマの糞を採取し、従来の糞分析法により食べ物を記録し、映像の解析結果と比較を行いました。
 その結果、1頭当たりの撮影期間は平均41日で、4頭分の映像からは30種類以上の食べ物を特定することができ(図1:映像はhttps://youtu.be/YdXqQqIIyfIにあります)、植物の葉や花、果実の多くは種類や属まで特定することができました。また、哺乳類を採食する映像では、ニホンジカの子どもやニホンカモシカの成獣、ツキノワグマの子ども(オス成獣による子殺しの現象と推定。詳細はこちら)を採食していることが確認できました。しかし、落ち葉の中に口を突っ込み、何かを食べているとは想定されるものの、食べ物まで特定することができない映像も存在しました。
 一方、糞分析法では102個の糞を分析し15種類前後の食べ物を特定できましたが、植物の葉や花は糞の中では原形をとどめておらず種類までは特定することができませんでした。また、哺乳類も糞の中からは体毛しか確認できず、種類までは特定することはできませんでした。
 さらに、映像を解析して個体ごとの食生活を比較すると、いずれの個体も主食はサクラ類の果実でしたが、他の食べ物の種類やそれらの食べ物が採食の映像に占める割合は個体によって異なり、個体によって食生活が異なることが明らかになりました。

今後の展望
 クマにとって初夏は食べ物が得にくく、厳しい食生活を送っていることが知られていますが(詳細はこちらこちら)、従来考えられていた以上にクマは森の中の多様な食べ物によって支えられ、食いつないでいることが明らかになりました。こうした技術を様々な野生動物に用いることで、未知な生態が解き明かされる可能性があります。さらに、野生動物の保全や管理の一助となることも期待されます。たとえば、農作物の食害を発生させるような種では、農耕地やその周辺での行動の把握や被害を発生させる個体の特徴を詳細に理解できるようになり、未然に被害の発生を防ぐための対策につなげることができるかもしれません。
 なお、本研究はJSPS科研費 17H05971、19H03002、19H02990、22H05649、東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院からの助成金を受けたものです。

用語説明
注1)設定した日時に映像を撮影・記録するビデオカメラを搭載した、首輪型の装置。
注2)採集した糞をふるいの上などに置いて水洗し、ふるいの上に残った未消化物から採食物を特定する方法。
注3)GPS、カメラ、各種センサー等を搭載したデータロガー(記録計)を野生動物に取り付け、動物の行動や周囲の環境情報などを記録する研究手法。

図1.カメラ首輪によって記録されたクマの採食行動
a. ヤマグワの果実を食べている
b. カスミザクラの果実を食べている
c. ササ類の新芽を前足の甲の上にのせて食べている
d. 朽ち木を壊して中にいるアリを食べている
e. ニホンカモシカの死体を見つけた様子
図2.4頭が装着したカメラ首輪に撮影された食べ物とそれぞれの食べ物が占める割合(%)

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院 教授
小池 伸介(こいけ しんすけ)
E-mail:koikes(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

学校法人東京農業大学 経営企画部
E-mail:koho(ここに@を入れてください)nodai.ac.jp

関連リンク(別ウィンドウで開きます)

•東京農工大学 小池伸介教授 研究者プロフィール
•東京農工大学 小池伸介教授 研究室ウェブサイト
•小池伸介教授が所属する 東京農工大学農学部地域生態システム学科

 

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