歯周病の骨破壊に自然免疫応答による新たな経路 二本鎖RNAが誘導するプロスタグランジンEと破骨細胞

歯周病の骨破壊に自然免疫応答による新たな経路
二本鎖RNAが誘導するプロスタグランジンEと破骨細胞

 国立大学法人東京農工大学大学院・工学研究院・生命機能科学部門の稲田全規准教授と富成司特任助教、小野薬品工業株式会社の丸山隆幸研究員、オックスフォード大学のYoshifumi Itoh教授、日本歯科大学の沼部幸博教授らで構成された国際共同研究チームは、二本鎖RNA (dsRNA) が骨を作る骨芽細胞の自然免疫受容体であるTLR (Toll Like Receptor) に作用し、プロスタグランジンE₂ (PGE₂) 産生の促進を介して炎症性骨破壊を誘導することを見出しました。歯周病の骨吸収では、グラム陰性細菌が有するリポ多糖 (LPS) が主な原因となりますが、本研究により、細菌、ウイルス、自己細胞由来のRNAが炎症性骨破壊に関与することが示されました。これら発見は、歯周病をはじめとした炎症性骨疾患の新たな治療法の開発へつながることが期待されます。

本研究成果は、米国の生化学・分子生物学会誌Journal of Biological Chemistry誌への掲載に先立ち、1月29日付でオンライン公開されました。
URL:https://doi.org/10.1016/j.jbc.2022.101603

研究の背景
 歯周病は細菌感染によって引き起こされる口腔局所の感染性疾患です。歯周病における炎症性骨破壊の主な原因として、グラム陰性細菌の外膜成分であるLPSが知られています。LPSは自然免疫受容体であるTLR4に結合して炎症性骨破壊を誘導します。一方で、TLR3に結合する分子である、細菌やウイルス、自己細胞が有するdsRNAによる炎症性骨吸収への関与は不明でした。東京農工大学大学院工学府生命工学専攻の稲田研究室では、歯科医師である稲田准教授を中心に歯周病におけるPGE2誘導性の炎症性骨破壊の発症メカニズムを研究してきました。本研究では、小野薬品工業、オックスフォード大学及び日本歯科大学との国際研究チームにより、dsRNAによるTLR3を介した炎症性骨破壊のメカニズム解明に取り組みました。

研究体制
 本研究は国内外の共同研究者と連携実施したもので、詳細は以下の通りです。

  • 東京農工大学大学院工学府生命工学専攻:稲田全規准教授、富成司特任助教、秋田みゆき大学院生(当時)、松本千穂特任助教、平田美智子講師、宮浦千里特命教授
  • 東京農工大学グローバルイノベーション研究院:ライフサイエンス 稲田全規研究ユニット
  • 小野薬品工業株式会社:丸山隆幸研究員
  • 英国オックスフォード大学ケネディ―リウマチ研究所:Yoshifumi Itoh教授
  • 日本歯科大学歯周病学講座:沼部幸博教授

研究成果
 骨組織は、骨を作る骨芽細胞 (Osteoblast) と、骨を吸収する破骨細胞 (Osteoclast) が協働して維持されています。歯周病では、グラム陰性細菌由来のLPSがPGE₂による破骨細胞の分化・活性化を促すことで、炎症性骨破壊が進行します。細菌やウイルス、自己細胞由来のRNAは一部が二本鎖構造をとることが知られており、その受容体として細胞内のTLR3が同定されています。しかし、dsRNAの炎症性骨吸収への関与は未だ不明でした。本研究では、細胞培養系 (in vitro)、ならびに歯槽骨器官培養系 (ex vivo) を用い、合成dsRNAであるpoly(I:C) の作用について解析しました。その結果、骨芽細胞において、poly(I:C) はNF-κB (nuclear factor kappa B)/PGE2/RANKL (receptor activator of NF-κB ligand) 経路を介して破骨細胞分化を誘導し、骨吸収活性を促進しました。一方、これらpoly(I:C) の作用はPGE₂の合成を抑えるCOX (cyclooxygenase) 阻害剤のインドメタシン、もしくはPGE₂受容体EP4の拮抗薬の添加によって全て抑制されました。次に、poly(I:C)の作用機序を明らかにするため、免疫染色法による解析を行ったところ、poly(I:C) はエンドサイトーシスによって骨芽細胞内に取り込まれることが示されました(図1A)。エンドサイトーシスの阻害剤であるDynasoreまたはPitstop2を培養系に添加すると、poly(I:C) の細胞内取込みが阻害され、RANKL遺伝子:Tnfsf11 mRNA発現が抑制されました (図1A, 1B)。また、成熟破骨細胞に対するpoly(I:C) の直接作用を解析したところ、poly(I:C) は成熟破骨細胞を延命することが明らかとなりました。
 本研究により、dsRNAは骨芽細胞に取り込まれ、自然免疫受容体であるTLR3による感知、NF-κBによる細胞内シグナリング、PGE₂産生促進を介したRANKL発現誘導とそれに伴う破骨細胞分化の促進、ならびに成熟破骨細胞の延命を誘導することが明らかとなりました (図2)。
 これら研究成果は自然免疫応答を介した歯周病の新たな治療法開発へつながることが期待されます。

図1:骨芽細胞におけるPoly(I:C) の細胞内取り込みの解析
A.骨芽細胞における免疫染色像を示した。Poly(I:C) は赤色、エンドソームは緑色、核は青色で検出した。エンドサイトーシス阻害剤としてDynasoreとPitstop2を用いた。スケールバーは10 μm を示す。
B.定量的PCRによりTnfsf11 (RANKL) mRNA発現を解析した。グラフは平均値±標準誤差、有意差は***P<0.001で示した。
図2:poly(I:C) による炎症性歯槽骨破壊の作用機序

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院工学研究院
生命機能科学部門 准教授
 稲田 全規(いなだ まさき)
 TEL/FAX:042-388-7402
 E-mail:m-inada(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

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