小学生に見られる数字を擬人化する傾向と発達的変化

小学生に見られる数字を擬人化する傾向と発達的変化

 東京農工大学、岡山大学、立教大学、東京大学の研究グループは、数字の擬人化に関して小学4年生、6年生、大人を対象にした調査を行い、小学4年生には数字を擬人化する傾向が強く見られ、年齢とともに消失していくことを明らかにしました。これまで研究されてきた子どもの擬人化傾向は、ぬいぐるみなど無生物に関するものであり、数字などの抽象的な事物に対しては研究されていませんでした。本研究では、発達の過程で数字の具体的操作期から形式的操作期へ移行するのに伴い、擬人化が消失する可能性を、擬人化表現の一貫性や多様性の観点から定量的に明らかにしました。

本研究成果は、Frontiers in Psychology(11月15日付)に掲載されました。
URL:https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyg.2018.02214/abstract

現状
 一般的に、子どもは無生物のものを擬人化し、想像上の友達を作ることが知られています。例えばぬいぐるみを擬人化して捉える傾向は、一般的な子どもに見られます。無生物の擬人化は子どもの頃に頻繁に見られる現象であり、社会性、人間関係のシミュレーションに役立っていると言われています。
 このように、これまで研究されてきた子どもの擬人化傾向は、具体的な事物に関するものであり、例えば数字・月日・文字などの抽象的な事物に対しても、擬人化が起こりうるのかは研究されてきませんでした。そこで本研究では、子どもは抽象的な事物に対しても擬人化を行い、それが具象物に対する擬人化傾向と同様、大人になるにつれて消失するとの仮説を立て、これを検証しました。

研究体制
 本研究は、東京農工大学大学院工学研究院情報工学専攻・松田英子研究員 (現:東京大学情報学環 学際情報学圏情報生命・思想学域 助教)、岡山大学大学院教育学研究科・岡崎善弘講師、立教大学現代心理学部心理学科・浅野倫子准教授、東京大学大学院人文社会系研究科・横澤一彦教授らが共同で実施しました。
 
研究成果
 本研究では小学4年生 (9−10歳)、6年生 (11−12歳)、大人に対し、0−9の各数字について、4つの擬人的表現に関する質問 (その数字に直感的に感じる性別、善悪、年齢、社会性の高さ) を行い、3択で回答してもらいました。たとえば性別に関する選択肢は「男性」「女性」「特にない」、善悪の場合は「良い」「悪い」「特にない」の3つであり、このようにどの質問にも「特にない」という選択肢がありました。
 「特にない」という選択肢を選ぶ割合が高いことは、数字を擬人化する傾向が低いことを直接的に示し、逆に、それ以外の2つを選ぶほど擬人化の傾向が強いと言えます。図1はこのような擬人化傾向の強さ(「特にない」以外を選んだ割合)を年齢ごとに示したものです。これより、小学4年生は平均80%近くの数字に、なんらかの擬人化をするような回答をし、大人になるとその傾向が弱まることが分かります。
 また、数字に対して決まった擬人的イメージを強く持っている人であれば、時間が経ってから抜き打ちで同じ質問を繰り返しても同じイメージを安定して答えるはずです。一方、もしその人があまり強いイメージを持たず、その時の気分に基づいてランダムに回答しているのであれば、同じように答えることは難しいはずです。そこで、同じ実験参加者に対して、初回の質問の1ヶ月後にも抜き打ちで同じ質問をし、初回と1か月後の回答(※「特にない」以外を選んだ場合)の一致度、すなわち一貫性を調べました(図2)。その結果、年齢が高くなるにつれて回答の一貫性が減少することが明らかになりました。

 以上のことから、小学4年生は数字に対して何らかの擬人的イメージを強く安定して持つけれども、そのような擬人化傾向の強さは小学6 年生、大人と、成長するにつれて失われると言えます。
 さらに、それぞれの実験参加者が、0-9の数字に対して何種類のキャラクターを割り当てているかを調べました。ここでのキャラクターとは、性別、善悪、年齢、社会性の高さの4つの項目における選択肢の組み合わせのパターンを指します(例:「男性」+「良い」+「年を取っている」+「友達がたくさんいる」で1つのキャラクター)。例えば個々の数字に対してすべて異なるキャラクターを割り当てて
いる実験参加者であれば、0-9の全部で10の数字に対して10種類のキャラクターを答えるはずです。図3は実験参加者が割り当てたキャラクターの種類数の平均を表しています。分析の結果、小学4年生は、0-9の数字に対して平均8 種類近くのキャラクターを回答しており、若い年齢ほど多様なキャラクターを割り当てている一方、年齢が高くなるほど似たようなキャラクターを割り当てる、すなわち数字の擬人化の多様性が失われる傾向が明らかになりました。つまり、若い年齢ほど数字ひとつひとつに多種多様なキャラクターを割り当て、しかも、それにもかかわらず、1か月後に抜き打ちで再び尋ねられても同じキャラクターを一貫して答えられるほど擬人化イメージが強く安定していると言えます。

今後の展開
 本研究では、①擬人化傾向の強さ、②一貫性、③多様性の3つの観点から、発達とともに数字の擬人化傾向が弱まっていくことを示しました。特に4年生と6年生の比較から、小学校高学年の間に変化が見られたことは、9歳〜12歳の子どもが、数字の具体的操作期から形式的操作期へ移行する時期であることに関係していると考えられます。具体的操作期における子ども (7歳以降) は、指を使うことや、りんごやみかんをイメージするなど、具体的なイメージを手助けにして計算を行っています。一方、形式的操作期 (11-12歳以降) になると、複雑な計算問題が解けるようになることから分かるように、それらの具体的イメージがなくても、抽象的なものごとの理解が出来るようになります。本研究では、具体的操作期にある子ども (小学4年生; 9-10歳) ほど、数字に異なるキャラクターを割り当てていました。キャラクターを割り当てることによってそれぞれの数字を特徴づけ、具体的にイメージすることが可能となり、理解の助けになっている可能性が考えられます。一方、小学校6年生 (11-12歳)、成人になるにつれて、それらのイメージが不要になり、擬人化傾向が消失するのではないかと考えられます。今後は、ものごとの抽象的理解と擬人的表現に関する個人差をさらに定量的に明らかにしていく予定です。

図1: 擬人化傾向の強さ (選択肢「特にない」以外を選んだ割合の高さ)
図2: 擬人化傾向の時間的な一貫性.
図3: 割り当てられたキャラクターの数.

◆研究に関する問い合わせ◆
東京大学情報学環 学際情報学圏
情報生命・思想学域 助教
松田 英子(まつだ えいこ)
TEL:03-5841-2381
E-mail:eikot(ここに@を入れてください)iii.u-tokyo.ac.jp

岡山大学大学院教育学研究科 講師
岡崎善弘 (おかざき よしひろ)
TEL: 086-251-7713
FAX: 086-251-7755
Email: okazakiys(ここに@を入れてください)okayama-u.ac.jp

 

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