尿カテーテルを使って健康な犬から「シン・ボウコウ」の作出に成功~膀胱がん発症メカニズムの解明やがんの早期診断法開発への利用に期待~

2022年5月23日

尿カテーテルを使って健康な犬から「シン・ボウコウ」の作出に成功
~膀胱がん発症メカニズムの解明やがんの早期診断法開発への利用に期待~

 国立大学法人東京農工大学大学院農学研究院のモハメド・エルバダウィー訪問研究員、同大学農学部共同獣医学科の藤坂航大氏(当時 学部6年)、同大学大学院農学府共同獣医学専攻の山本晴氏(博士課程2年)、同大学大学院農学研究院の佐々木一昭准教授、臼井達哉特任講師らは、尿カテーテルを用いて回収した正常犬の尿中に含まれる細胞から3次元(3D)オルガノイド培養を行い、膀胱粘膜組織の特徴を再現可能な犬正常膀胱オルガノイドを作出することに成功しました。本成果は、膀胱組織の新たな実験モデル(シン・ボウコウ)として現在治療が困難とされている犬の膀胱がんに対する早期診断法の開発やがん発症メカニズムの解明への活用が期待されます。

本研究成果は、「Biomedicine & Pharmacotherapy」に2022年5月20日(金)にオンライン掲載されました。
論文名:Establishment of an experimental model of normal dog bladder organoid using a three-dimensional culture method
URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0753332222004942

現状
 犬の膀胱がんの多くは悪性度が高いとされている筋層浸潤型であり、化学療法での治療効果が乏しく、さらに外科的に病変部を完全に切除することが難しいことから、難治性のがんとして知られています。また、ヒトや犬の膀胱がんの発症原因として化学物質の慢性暴露が知られていますが、正常膀胱細胞の長期培養が困難なため、詳細な発がんメカニズムは分かっていません。近年、生体内の上皮組織構造や遺伝子発現パターンなどを培養ディッシュ上で再現可能な3Dオルガノイド培養法が注目されています。本研究チームはこれまでに膀胱がん罹患犬の尿サンプルを用いて非侵襲的に3Dオルガノイドを作製する技術を確立し、個々の抗がん剤感受性を判定可能であることや、ヒトの筋層浸潤性膀胱がんの自然発症モデルとして研究に活用できることを明らかにしてきました(Elbadawy and Usui et al., Cancer Sci. 2019)。しかしながら、健康な犬については尿中にがん細胞が存在しないため、がん罹患犬と同様の方法で膀胱オルガノイドを作製することができませんでした。そこで、犬における膀胱がんの病態進行メカニズムの解明やオルガノイドを用いた化学物質発がん毒性評価モデルなどへの応用を目的として、犬の正常膀胱オルガノイド作製方法を考案し、その有用性について検証を行いました。

研究体制
 東京農工大学、山口大学、岐阜大学、北里大学の研究グループの共同研究として実施されました。

著者
 モハメド・エルバダウィー1、藤坂航大1、山本晴1、恒富亮一2、永野浩昭2、菖蒲裕美1、石原勇介1、森崇3、呰上大吾1、打出毅1、福島隆治1、アミラ・アブゴマー1、山脇英之4、篠原祐太1、金田正弘1、大松勉1、水谷哲也1、臼井達哉1、佐々木一昭1
1東京農工大学、2山口大学、3岐阜大学、4北里大学

研究成果
 健常ビーグル犬5頭から尿道カテーテルを用いて膀胱粘膜を軽くかきとることで、膀胱粘膜細胞を採取し、その細胞成分からオルガノイドの作製を試みました。形成されたオルガノイドを用いて尿路上皮細胞マーカーの発現や、電子顕微鏡による微細構造の観察、薬剤感受性試験を行いました。次に、作製した正常膀胱オルガノイドと、膀胱がん罹患犬から作製した犬膀胱がんオルガノイドを用いて、病理組織学的な構造やがん関連遺伝子発現パターンの比較解析を行いました(図1)。その結果、5頭全頭から正常膀胱オルガノイドが作製され、いずれも充実性かつ球状の形態が観察され、継代後も持続的な増殖がみられました。作製した正常膀胱オルガノイドにおいて尿路上皮の層構造や尿路上皮マーカーの発現が確認され、生体内の膀胱粘膜組織と類似する構造を示しました。興味深いことに、各正常膀胱オルガノイドは、異なる薬剤感受性を示し、先天的な薬剤感受性の違いを反映している可能性が示唆されました。また、膀胱がん罹患犬由来のオルガノイドは正常犬由来のオルガノイドと比較して、核分裂、細胞増殖マーカーki67発現、EMTシグナルの活性化が亢進していることや、がん抑制遺伝子p53シグナル活性が低下していることがわかりました。さらに、p53シグナル活性化剤であるRITAやアクチノマイシンDが犬膀胱がんオルガノイドの増殖抑制に有効であることが明らかになりました(図2)。
 
今後の展開
 本研究チームは、正常犬から非侵襲的に正常膀胱オルガノイドを作製し、長期間の培養が可能であることを明らかにしました。正常膀胱オルガノイドは、病理学的・遺伝学的特徴などにおいて膀胱がん罹患犬由来のオルガノイドとの明確な違いが示され、p53シグナルの活性化剤が犬膀胱がん治療に有用である可能性が明らかとなりました。今後、犬正常膀胱オルガノイドが犬膀胱がんの病態進行メカニズムの解明に加えて、犬の発がんリスク評価法の確立や、ヒト膀胱がんにおける化学物質の発がん毒性評価法の確立にむけた実験ツールとして活用されることが期待できます。

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院農学研究院 動物生命科学部門 特任講師
 臼井 達哉(うすい たつや)
 TEL/FAX:042-367-5770
 E-mail: fu7085(ここに@を入れてください)go.tuat.ac.jp
 ウェブサイト:http://vet-pharmacol.com/

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