細胞膜から人工生体膜チューブを作る仕組みを解明

細胞膜から人工生体膜チューブを作る仕組みを解明

 東京農工大学大学院工学研究院生命機能科学部門の松永是特別招聘教授と新垣篤史准教授、東京工業大学物質理工学院応用化学系の田中祐圭助教の研究グループは、生体膜(細胞膜に代表される、細胞で使われる脂質でできた膜)の形を決める仕組みを解明するとともに、これを利用することで人工生体膜ナノチューブを効率的に合成できることを明らかにしました。本研究で得られた人工生体膜ナノチューブは、生体適合性に優れた新しいワイヤー状の細長い材料です。この中で磁石合成を行うと磁力の強い磁性ロッドを合成できるので、ドラッグデリバリーやバイオイメージングへの利用が期待されます。また、有用ナノ材料(ナノロッドやナノワイヤーなど)を合成するプラットフォームなどとして、バイオナノテクノロジー分野に広く利用されることが期待されます。

本研究成果は、Biotechnology Journal誌12月号(12月3日付)に掲載されます。同号のバックカバーにも採用されました。
・掲載URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/biot.201800087
・DOI: 10.1002/biot.201800087
・報道解禁日:12月3日(月)22時(日本時間)

人工生体膜チューブが作られる仕組み。生体膜(青色と黄色の層)の中にあるカルジオリピンとMamYタンパク質(いずれもピンク色)が相互作用して、生体膜を変形させていることが分かりました。

 ヒトなどの高等生物は細胞の外から中へ様々な分子を取り込むために、細胞膜に対して様々なタンパク質が働きかけることで、平面膜構造からくぼみができ、細胞外の分子を取り込んだ球形の生体膜を細胞内に形作る仕組み(エンドサイトーシス)をもつことが一般に知られています。エンドサイトーシスでは、ある種のタンパク質が細胞膜から膜のくぼみを形成するときに重要な役割を果たすことが知られています。一方で、一般的な細菌は、細胞膜の形を変化させて細胞内に小胞を形成するような仕組みをもちません。しかし、磁性細菌(注)と呼ばれる、体内にナノ磁石を作る細菌では、細胞膜がくびれてできた膜小胞の中にナノ磁石が合成されます。この生体膜構造は細胞膜から作られることが分かっていますが、その仕組みについては不明な点が数多くあります。

 本研究では、磁性細菌が膜小胞を作る際に、平面様の細胞膜から球形の小胞構造へと形を変える仕組みに着目して研究を行いました。その結果、この膜小胞の形成に関して、MamYと呼ばれるタンパク質が陰イオン性脂質の1種であるカルジオリピンと相互作用し、膜小胞の形を決める重要な役割を果たしていることが明らかになりました。また、この成果をもとに、カルジオリピンを添加した球形の人工生体膜(リポソーム)にMamYタンパク質を作用させることで、生体膜構造の変化が誘導されチューブ状構造の人工生体膜ナノチューブが効率的に合成できました(図)。今回確立した新たな人工生体膜ナノチューブは、生体適合性に優れた機能性材料として、今後、医療、診断、環境計測など、様々な分野での応用が期待されます。

図 MamYタンパク質とカルジオリピンとの相互作用による生体膜構造の制御機構の概要

注)磁性細菌
川や海などに生息し、大きさが数十~100ナノメートルの酸化鉄磁性ナノ粒子を合成する細菌。細胞の中に磁性ナノ粒子が一列に整列していることから、磁場に応答する性質を持つ。

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院工学研究院 生命機能科学部門 特別招聘教授
  松永 是(まつなが ただし)
 TEL:042-388-7020 E-mail: tmatsuna(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

プレスリリース(297KB)

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