太陽の100億倍明るい「放射光」を用いてこれまで未解明であった触媒的酸化反応の機構を完全解明:芳香族ポリイミド原料などの効率的合成に期待

太陽の100億倍明るい「放射光」を用いてこれまで未解明であった触媒的酸化反応の機構を完全解明:
芳香族ポリイミド原料などの効率的合成に期待

 国立大学法人東京農工大学大学院工学府応用化学専攻 金沢優輝(2020年3月修了生)、同大学院工学研究院応用化学部門 平野雅文教授、大阪大学大学院基礎工学研究科 満留敬人准教授、および京都大学化学研究所 高谷 光准教授は、放射光を用いて触媒反応溶液を直接観測することで、工業生産にも利用されていながらこれまで未解明であったパラジウム/銅錯体触媒による酸化反応の反応機構の完全解明に成功しました(図1)。この成果により高強度プラスチックや、印刷技術により電子装置を作成するプリンテッドエレクトロニクスの基盤などに使われる芳香族ポリイミド原料などの効率的な合成が期待されます。

本研究成果は、米国化学会ACS Catalysis誌(5月6日付電子版)に掲載されました。
論文名:Pd/Cu-Catalyzed Dehydrogenative Coupling of Dimethyl Phthalate: Synchrotron Radiation Sheds Light on the Cu Cycle Mechanism
URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acscatal.0c00918

現状
 パラジウム錯体と銅錯体の組み合わせによる触媒的酸化反応は、溶媒を用いることなく空気を酸化剤として用いることができるため、工業的にも非常に多くの酸化反応に利用されています。特に芳香族化合物どうしを炭素―水素結合の切断により直接的に二量化する反応は、耐熱性や機械的強度に優れたエンジニアリングプラスチックや、印刷技術を用いて電子装置を作成するプリンテッドエレクトロニクスにおいて基盤フィルムとして用いられる芳香族ポリイミド原料の合成に重要な反応です(図2)。これらの反応では、パラジウム錯体と銅錯体の両方の触媒が重要ですが、2種類の金属錯体が共存していること、特に常磁性の銅錯体の分光学的分析は困難であること、200˚C程度の高温と希薄な触媒濃度の条件下でないと反応が効率的に進行しないなどの理由のため解明が難しく、これまで反応機構は推定に留まっていました。

研究体制
 本研究は、東京農工大学大学院工学府応用化学専攻 金沢優輝(2020年3月修了生)、同大学院工学研究院応用化学部門 平野雅文教授、大阪大学大学院基礎工学研究科 満留敬人准教授、京都大学化学研究所 高谷 光准教授らにより行われました。また、本研究は、科学研究費補助金 新学術領域研究「3D活性サイト科学」(No. 26105003)の助成などにより行われました。
研究成果:本研究では、芳香族ポリイミド原料などの製造のため工業化されているフタル酸ジメチルの脱水素アレーンカップリング反応をとりあげ、酢酸パラジウム/酢酸銅/配位子の組み合わせによる反応を検討しました。この反応では、パラジウム錯体と銅錯体による2つの触媒反応が、2つの歯車のように噛み合って進行していると考えられますが、パラジウム錯体による触媒反応機構は、我々のグループが2018年に解明に成功し、報告しています(文献1)。 
 今回は2つの触媒反応のうち、これまで未解明であった銅錯体による触媒反応に焦点をあて、2つの触媒機構の完全解明を実現しました。このパラジウム錯体と銅錯体による酸化反応は今回の反応に留まらず、多くの酸化反応に用いられている触媒反応です。
本研究は、大型放射光施設SPring-8において、太陽の100億倍明るい「放射光」という光を使い、銅原子の原子核を選択的に観測・追跡することで触媒反応中の銅錯体の挙動を明らかにしました。しかし、以前のパラジウム錯体の検出に比べて銅錯体の感度が低く、希薄な触媒濃度においても観測を可能とする必要があることから、銅の原子核から放出される蛍光を固体半導体検出器により観測しました。この方法でパラジウム錯体と銅錯体が共存する触媒反応溶液中の銅錯体を直接かつ選択的に観測し、得られたスペクトルの高度な波形解析技術、触媒反応の各段階における化学反応、触媒反応および反応により生成する触媒の単結晶X線構造解析により解明を行いました。従来困難であった触媒反応の機構解析が、これらの最先端の研究手法の組み合わせにより、はじめて可能になりました。 
 その結果、反応当初は二核構造をしていた酢酸銅(II)錯体が、触媒反応溶液中で単核の酢酸銅(II)二水和物に変化していること、2当量の酢酸銅(II)が0価のパラジウムを酸化して2価の酢酸パラジウムを再生していること、その際に生成する酢酸銅(I)が反応溶液中にある酢酸と酸素存在下で反応して2価の酢酸銅(II)が再生することを世界ではじめて実験的に証明しました(図3)。また、配位子はパラジウム錯体には必須ですが、銅錯体に配位すると反応を抑制してしまうことが明らかとなり、事前に配位子と酢酸パラジウムを反応させたパラジウム錯体を触媒とすることが有効であることがわかりました。

(文献1)M. Hirano, K. Sano, Y. Kanazawa, N. Komine, Z. Maeno, T. Mitsudome, H. Takaya, ACS Catalysis, 8, 5827 (2018). DOI: 10.1021/acscatal.8b01095
 
今後の展開
 パラジウム錯体と銅錯体による触媒的酸化反応は、フタル酸ジメチルの脱水素アレーンカップリングにとどまらず、工業的にも多く用いられている反応であるため、今回の知見を活かした触媒開発などが期待されます。特に半導体やプリンテッドエレクトロニクス用の芳香族ポリイミドの需要は今後増大が見込まれるため、本研究は原料の製造における重要な知見を与えると考えられます。

図1. 太陽の100億倍明るい放射光を使ってパラジウム/銅錯体触媒による酸化反応機構の完全解明に成功
図2. 酢酸パラジウム/酢酸銅によるフタル酸ジメチルの脱水素アレーンカップリング反応
図3. 赤の部分が今回解明した銅錯体触媒の反応機構、青の部分は2018年に我々が報告しているパラジウム錯体触媒の反応機構。今回、2つの触媒反応機構が解明されたことで完全解明に成功

◆研究に関する問い合わせ◆

東京農工大学大学院工学研究院
応用化学部門 教授
 平野 雅文(ひらの まさふみ)
 TEL/FAX:042-388-7044
 E-mail:hrc(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

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