繊毛運動のパターンを決める構造をマウスで解明

繊毛運動のパターンを決める構造をマウスで解明

 国立大学法人東京農工大学工学研究院生命機能科学部門 餘家博特任助教(現・基礎生物学研究所)、篠原恭介特任准教授、工学部生命工学科 酒井敬史氏(学部4年生)、国立大学法人愛知教育大学 上野裕則准教授、国立大学法人名古屋大学 成田哲博准教授らのグループは、モデル動物であるマウスを用いて、体内の繊毛運動のパターンを制御するしくみを明らかにしました。クライオ電子顕微鏡解析・免疫組織学・ノックアウトマウスの技術を用いてこれまでに知られていなかった哺乳類の運動繊毛が持つラジアルスポークの詳しい構造と、その構造を作る上で必須な遺伝子の機能を解明しました。この成果は、繊毛運動の不具合で発症する原発性繊毛運動不全症の治療法開発に貢献することが期待されます。

本研究成果は、米専門誌プロスジェネティクス (PLoS Genetics)(3月23日付)にオンライン掲載されました。
URL:https://journals.plos.org/plosgenetics/article?id=10.1371/journal.pgen.1008664

現状
 私達の体は様々な場所に繊毛と呼ばれる長さ数マイクロメートルの構造を持つ細胞を持っています。繊毛には、動く事により水の流れを発生させる運動繊毛と動かずに細胞外の環境のセンサーとして働く一次繊毛の2種類のタイプがあります。運動繊毛は気管・脳・卵管・精子などにありそれぞれ、ウィルスや細菌の除去・脳髄液の循環・受精を担っていると考えられています。また、繊毛の運動に不具合が生じると呼吸器の障害や不妊の症状が出る事も知られています。繊毛は平面打運動と呼ばれる往復する運動パターンにより水流を一方向に発生させます。以前の私達の研究で、ヒトの繊毛運動不全症の患者のゲノムで変異がみつかったRsph4a遺伝子を喪失させたノックアウトマウスを作出したところ、通常観察される平面打運動が回転運動に変化してしまう事が分かっていました [Shinohara et. al. .Dev. Cell (2015)]。一方で、このRsph4a遺伝子のノックアウトマウスにおいて運動繊毛の構造や性質がどのように変わり、本来の運動パターンを失うのかは不明なままでした。

研究体制
 本研究は、東京農工大学の篠原恭介特任准教授(大学院工学研究院/グローバルイノベーション研究院)のグループと愛知教育大学の上野裕則准教授(教育学部)、名古屋大学の成田哲博准教授(理学研究科)、理化学研究所の濱田博司チームリーダー(生命機能科学研究センター)との共同研究により実施されました。 本研究は科学技術振興機構・戦略的創造研究推進事業CREST (JPMJCR13W5)と旭硝子財団の助成を受け実施されました。

研究成果
 今回、生物試料を元に近い状態(周囲に水がある状態)で解析できるクライオ電子顕微鏡を用いてマウス気管繊毛の3次元構造を決定しました。結果、通常のマウス(野生型マウス)と異なりRsph4a遺伝子ノックアウトマウスでは繊毛内部のラジアルスポークという構造に異常がある事が分かりました。運動繊毛内部は96 nm毎に同じ構造が繰り返す事は既に知られており、この繰り返し単位構造内部には3種類のラジアルスポークが存在します(図1)。Rsph4a遺伝子ノックアウトマウスではこの3種類全てのラジアルスポークの先端部にあたるヘッドと呼ばれる部位とネックと呼ばれる部位が失われている事がクライオ電子顕微鏡解析により分かりました。また、免疫組織学の技術によりアミノ酸配列の相同性からラジアルスポークのヘッドとネックを構成すると考えられる複数のタンパク質の細胞内局在を調べました。野生型マウスではヘッドとネックのタンパク質が気管繊毛における局在が観察されたのに対して、Rsph4a遺伝子ノックアウトマウスではこれらの局在が失われていました。この事から、Rsph4a遺伝子からつくられるタンパク質は繊毛運動のパターンを決めるラジアルスポークが本来の構造を作り正しく機能する上で、不可欠な役割を担っている事が分かりました。
 
今後の展開
 今回ラジアルスポークの先端部が繊毛の運動パターンの制御にとって必須である事が分かりました。今後、この部位に近接する別の構造(中心対微小管)とラジアルスポーク最先端部の相互作用がどのようにして運動パターンを制御するのかを明らかにしていく事により病気の発症するしくみのさらなる解明と治療法開発に繋がると考えられます。

図1:マウス気管運動繊毛のラジアルスポーク構造と運動パターンの変化

◆研究に関する問い合わせ◆

東京農工大学大学院工学研究院
生命機能科学部門 特任准教授
 篠原 恭介(しのはら きょうすけ)
 TEL/FAX:042-388-7793
 E-mail:k_shino(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

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