ツキノワグマは木を見て森も見ていた~クマが木に登ってドングリを食べる条件~

ツキノワグマは木を見て森も見ていた
~ クマが木に登ってドングリを食べる条件 ~

ポイント

  • ツキノワグマは結実量が多い木を選んで登ってドングリを食べ、クマ棚とよばれる鳥の巣のような外見の食べ跡を残す。
  • ツキノワグマは地域の森林が全体的に凶作の年には、普通の年には見向きもしないような結実の少ない木にも登ってドングリを食べる。
  • ツキノワグマは木一本一本の結実量や地域の森林全体の結実量に応じてドングリの探し方を変え、無駄な行動をしないようにしている。

 

本研究成果は、イギリスの動物学誌(英語:Journal of Zoology(略称J. Zool.))オンライン版(6月3日付)に掲載されました。

掲載誌:Journal of Zoology
論文名:Detection of arboreal feeding signs by Asiatic black bears: effects of hard mast production at individual tree and regional scales
著者名:Kahoko Tochigi, Takashi Masaki, Ami Nakajima, Koji Yamazaki, Akino Inagaki and Shinsuke Koike
URL:https://zslpublications.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/jzo.12564

概要
国立大学法人東京農工大学と国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所の共同研究チームは、ツキノワグマ(以下、クマ)が樹上でブナ科堅果(以下、ドングリ)を食べる行動は、個々の木の結実量や地域の森林全体の結実の豊凶によって影響を受けることを明らかにしました。木の結実量が多いほど、地域が全体的に凶作年であるほど、採食痕跡であるクマ棚(注1)がより多く作られるという傾向が見られました。この結果から、採食のために登る木の選択基準や採食効率の確保といったクマの採食生態に関する新たな知見が得られました。

研究背景
クマは木に登って果実等を採食し、クマ棚とよばれる採食痕跡を残します(図1)が、樹上での採食行動に関しては不明な部分が多く残されています。そこで、どのような結実状況の時に、クマはわざわざ木に登ってドングリを採食するのかを明らかにすることを目的に、ドングリが実る3樹種(ミズナラ、コナラ、クリ)を対象に、クマ棚の形成と結実量の関係を調べました。調査は2008年から2014年にかけて、栃木県・群馬県にまたがる足尾・日光山地において行われました。3樹種計371-481本の調査木の毎年の結実量と、各年の3樹種をすべて合わせた地域全体の結実状況、そして各調査木へのクマ棚の形成の有無を調べました。

研究成果
いずれの樹種においても、結実量の多い木ではクマ棚が形成されやすいこと、そして特に地域の森林が全体的に凶作の年にはクマ棚が形成されやすくなることがわかりました(図2)。興味深いことに、凶作年には、豊作年には無視されるような結実量の少ない木にもクマ棚が形成されることがわかりました。なお、3種の中の特定の樹種への選り好みは認められませんでした。
これらのことから、クマは樹種を問わずより多くのドングリが実った木を探し出し、一度に短時間で大量のドングリを食べようとしていること、特に凶作年には、より多くの木に登ってできるだけ多くのドングリを食べようとしていることが考えられます(図3)。

今後の展開
本結果より、クマはやみくもに木に登ってドングリを採食しているのではなく、効率よく食物資源を得るために登る木を厳選していることがわかりました。これは逆に、クマにとって木登りは体力を要する行動であることを示しています。また、地域の森林全体の結実状況に応じてもこういった採食行動を変化させ、採食効率を高めていると考えられます。

なお、本研究はJSPS科研費 JP22-7646、JP25850103、JP25241026、JP17H00797、JP17H05971の助成を受けたものです。


用語説明
注1)クマが樹上で枝先の果実や葉などを食べる際、クマは枝先まで移動することが出来ない。そのため、樹上で果実が結実した枝を手元にたぐり寄せて、枝先の果実を採食する。その際、折れた枝が樹上に残り、積み重なり、鳥の巣のようになったもの。

 

図1:(左)ツキノワグマが樹上で果実を採食している様子(撮影:横田博)。(右)ミズナラのドングリを食べた際に形成されたクマ棚
図2:(左)個々の木の結実量とクマ棚のできる確率の関係図。木の結実量が多いほどクマ棚が形成されやすくなる傾向がありました。(右)ブナ科3樹種を合計した地域の森林全体の結実量(ヘクタールあたりに換算しています)とクマ棚のできる確率の関係図。地域全体で凶作となるほどクマ棚が形成されやすくなる傾向がありました。
図3:ツキノワグマによる樹上での採食行動のパターンの模式図。結実量が多い木にクマ棚が形成されやすく、凶作年の方がクマ棚は多く形成されやすいことがわかりました。

◆研究に関する問い合わせ◆

 東京農工大学大学院農学研究院
 自然環境保全学部門 准教授
     小池 伸介(こいけ しんすけ)
      TEL:042-367-5630
  
 森林総合研究所 
 企画部 研究企画科 科長
     正木 隆(まさき たかし)
      TEL:029-829-8113

CONTACT