ナノ粒子の特性を発揮させる“オーダーメイドな”分散剤を開発

ナノ粒子の特性を発揮させる
“オーダーメイドな”分散剤を開発

国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院応用化学部門の岡田洋平助教、同神谷秀博教授らは、ナノテクノロジーの鍵として現在様々な応用研究が進められている金属酸化物のナノ粒子を“水にも油にも”安定に分散させることに成功しました。溶媒(液体)中に安定的に分散させることでナノ粒子がお互いにくっついて大きな塊とならず、極めて小さな粒子の状態が維持されます。分散性を向上させるためナノ粒子に取り付ける“分散剤”に着目し、性質の異なる様々な溶媒中でも安定に分散できる分散剤を開発しました。この分散剤は溶媒の性質に応じて、オーダーメイドに合成することが可能です。

本研究成果は、Chemistry - A European Journal誌に掲載されるのに先立ち、
11月30日にWEB上で公開されるとともに、同誌のCover Pictureとして取り上げられました。
URL: http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/chem.201704306/full(別ウィンドウで開きます)

 

Chemistry - A European Journal誌のCover Picture

現状 : ナノテクノロジーは、ナノサイズとよばれる100ナノメートル(1 cmの10万分の1)より小さなサイズで起こる特有の性質を利用した技術です。ナノサイズでは、体積に対する表面積の比が極めて大きくなるため、同じ物質であっても全く違う性質を示すようになります(表1参照)。
ナノテクノロジーでは、さまざまな材質からナノサイズの粒子(ナノ粒子)を作り、その性質を調べ、応用します。この際、ナノ粒子はお互いにくっついてすぐに大きな塊になってしまうため、作ったナノ粒子をナノサイズのままで安定に保つ、すなわち“分散状態”を維持することが極めて重要になります。分散性を向上させるためにナノ粒子の表面に取り付ける(吸着させる)有機化合物を分散剤と呼びますが、作ったナノ粒子や、ナノ粒子を分散させたい溶媒の種類によって、どのような分散剤を用いるべきなのかは試行錯誤を重ねて判断しているのが実情です。

研究体制  : 本研究は東京農工大学の岡田洋平(大学院工学研究院助教)、石川晃大(元大学院生物システム応用科学府博士前期課程)、前田尚也(大学院生物システム応用科学府博士前期課程)、神谷秀博(大学院工学研究院教授)の研究チームで実施しました。

研究成果  : ナノ粒子を分散させたい溶媒にも性質の違いがあります。例えば水と油は互いに混じり合いません。水によく馴染む性質を親水性、油によく馴染む性質を疎水性といいます。本研究では、親水性(もしくは疎水性)の程度が異なる様々な溶媒中にナノ粒子を安定に分散させることを狙って、新たに親水性と疎水性の構造を併せ持つ“両親媒性の”ホスホン酸系の分散剤を設計・合成しました(図1上段)。ホスホン酸は様々な金属酸化物に強く吸着することが知られています。この分散剤を、光触媒作用を中心に広く応用研究が進められている酸化チタンのナノ粒子の表面に取り付けたところ、親水性の高い溶媒の代表格であるメタノールと、疎水性の高い溶媒の代表格であるトルエンに、いずれも安定に分散させることに成功しました(図1)。この2種の溶媒に限らず、メチルエチルケトンやテトラヒドロフランなど汎用性の高い様々な溶媒にも安定に分散させることが可能です。分散剤の親水性と疎水性のバランスを僅かに変化させるだけで、分散剤としての機能に大きな影響を及ぼすことも見出されました。従来の試行錯誤ではなく、目的や使用する有機溶媒に応じて分散剤を合理的に設計・合成することが可能になりました。

表1 立方体の比表面積(単位体積当たりの表面積)比較
図1 本研究で設計・合成した分散剤を用いた酸化チタンナノ粒子の分散の様子

今後の展開   : ナノテクノロジーの研究が飛躍的な発展を遂げた現在では、形や大きさを制御した様々な材質のナノ粒子を製造することが可能になっています。しかし、せっかく精密に製造されたナノ粒子であっても、お互いにくっついて大きな塊になってしまっては本来の特性を発揮することができません。ナノ粒子の材質や用途に合わせた分散剤を“オーダーメイドに”設計・合成することで、作成したナノ粒子の特性を十分に発揮できるようになると期待されます。

注釈  : ナノサイズ:一辺の長さが10 cmの立方体は体積が1000 cm3、表面積が600 cm2になります。ここで一辺の長さを10分の1すなわち1 cmにしてみると、体積は1 cm3なので1000分の1になりますが、表面積は6 cm2なので100分の1にしかなりません。これを体積1 cm3当たりの表面積として表すと、前者は0.6 cm2/cm3であるのに対して後者は6 cm2/cm3ですから、値が10倍になったことがわかります。このような単位体積当たりの表面積を比表面積といい、立方体が小さくなるにつれてその値は大きくなります。特に大きさが1 cmの10万分の1すなわち100ナノメートル(nm)程度以下になると比表面積は極めて大きな値となり、同じ材質であっても全く違う性質を示すようになります(表1参照)。例えば、重力の影響が極めて小さくなり、分子間ではたらく小さな力の影響が大きくなる、などです。


◆研究に関する問い合わせ◆
 東京農工大学大学院工学研究院
 応用化学部門 助教
   岡田 洋平(おかだ ようへい)
   TEL/FAX:042-388-7068
   メール:yokada(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

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