入手容易な光学活性アミノアルコールを骨格とした新世代共役塩基安定化型キラルカルボン酸触媒の開発に成功

入手容易な光学活性アミノアルコールを骨格とした
新世代共役塩基安定化型キラルカルボン酸触媒の開発に成功

 国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院生命機能科学部門の小田木陽助教とフロリダ大学化学科のDaniel Seidel教授は、市販されている光学活性な1,2-アミノアルコールを基本骨格とした新世代共役塩基安定化型キラルカルボン酸触媒の開発に成功しました。1,2-アミノアルコールを基本骨格として用いることで、様々な構造を持つ共役塩基安定化型キラルカルボン酸触媒を迅速かつ効率的に合成することが可能となりました。これにより、従来の触媒では実現困難であった不斉触媒反応の開発が加速されることが期待されます。

本研究成果は、米国化学会が発行するJournal of the American Chemical Societyに掲載されました。
URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.0c07212

研究背景
 DNAやアミノ酸など、からだの中で重要な役割を持つ有機化合物の大半は、光学活性体(キラル化合物)とよばれ、右手と左手のように、鏡に映すと同じですが異なる立体構造が存在します。光学活性体には、右手型と左手型が存在し、融点や沸点などの物性は全く同じですが、からだの中では、それぞれが異なった生理活性を示します。そのため、医薬品などからだの中で効果を発揮する化合物の生産においては、一方の光学活性体を選択的に合成する必要があります。この一方の光学活性体のみを合成するのによく用いられる手法のひとつとして、触媒的不斉反応(注1)が挙げられます。
 Brønsted酸(注2)は、有機反応で最も基本的な触媒のひとつであり、光学活性なBrønsted酸を用いた触媒的不斉反応の開発は、光学活性なリン酸を中心に盛んに行われています。一方で、酒石酸やマンデル酸などの光学活性なカルボン酸は自然界に豊富に存在しますが、触媒的不斉反応にはこれまで使われてきませんでした。これは、単純なカルボン酸の弱酸性が原因と考えられ、活性化できる基質の種類が大幅に制限されてしまうためです。Seidelらは、触媒分子内での共役塩基の安定化によりカルボン酸の高酸性化を実現し、多くの不斉反応に適用可能な新しいタイプの光学活性なカルボン酸触媒【共役塩基安定化型キラルカルボン酸触媒】を報告しました。しかしながら、当初設計した触媒は、光学活性な“1,2-ジアミン”を骨格として用いており、この骨格をもつ化合物は入手が容易でないものが多いため、合成可能な触媒構造が限られていました(図A,B)。

研究体制
 本研究は、東京農工大学の小田木陽助教、フロリダ大学化学科のDaniel Seidel教授、Zhengbo Zhu博士、Nantamon Supantanapong氏、Weici Xu博士及び同大学X線結晶構造解析センターのKhalil A. Abboud博士、タルトゥ大学のIvo Leito教授、Jaan Saame氏、Helmi-Ulrika Kirm氏から構成される国際研究グループによって実施されました。また、本研究は、日本学術振興会の「頭脳循環を加速する戦略的国際研究ネットワーク推進プログラム」(R2801)の助成を受けて実施されました。

研究成果
 本研究では、より簡便に多様な構造の触媒が合成可能な光学活性な“1,2-アミノアルコール”を基本骨格とした、第二世代の共役塩基安定化型キラルカルボン酸触媒の開発を目指しました。市販の光学活性なtrans-2-アミノシクロヘキサノールを出発原料とし、最初にアミノ基をチオウレア基へ変換した後、水酸基にカルボン酸部位を導入し、第二世代の共役塩基安定化型キラルカルボン酸触媒の合成に成功しました(図C)。本触媒は、市販品の出発原料からわずか2工程で、安定かつ大量に合成可能です。また、本触媒の酸性度を測定したところ、最も汎用されている光学活性なリン酸触媒の一つである(S)-TRIPとほぼ同等の酸性度を示すことが明らかとなりました。今回開発した触媒は、サリチルアルデヒド誘導体とホモアリルアルコールを用いた[4+2]付加環化反応において高い触媒活性を発揮し、医薬品中に広く見られる光学活性なクロマン誘導体を、高い選択性で合成することが可能となりました(図D)。

今後の展開
 1,2-アミノアルコールは、非常に多くの光学活性体が市販されているため入手が容易であり、今回の手法を踏襲することで、様々な共役塩基安定化型キラルカルボン酸触媒の合成が可能となります。今回開発した[4+2]付加環化反応に限らず、今後、様々な不斉反応への適用が期待されます。

注1)触媒的不斉合成
触媒として用いたわずかな光学活性体から、用いた触媒以上の量の光学活性な化合物を合成する手法。当該分野の研究に関して、野依良治らが2001年にノーベル賞を受賞している。

注2)Brønsted酸
ブレンステッド・ローリーの定義において、「相手にH⁺を与える分子やイオン」と定義されている。身近なものでは、塩酸や硫酸が知られている。

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院工学研究院
生命機能科学部門 助教
小田木 陽(おだぎ みなみ)
TEL/FAX:042-388-7295
E-mail:odagi(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

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