指輪型ウェアラブルデバイスで脳卒中患者の日常生活下の手指使用量を常時計測し、臨床評価に活用

指輪型ウェアラブルデバイスで脳卒中患者の日常生活下の手指使用量を常時計測し、臨床評価に活用

 国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院先端情報科学部門の近藤敏之教授と同大学院工学府電子情報工学専攻博士後期課程在籍で湘南慶育病院理学療法士の山本直弥氏らは、手指の使用量を常時計測可能な指輪型ウェアラブルデバイスを開発し、脳卒中片麻痺患者の日常生活下の手指使用量と脳卒中リハビリテーションで一般的に用いられる複数の臨床評価指標の関係について調査しました。本研究の成果は、患者や療法士の主観に偏らないリハビリテーション介入戦略を検討する上で重要な評価指標の提供につながる可能性が期待されます。

本研究成果は、Journal of NeuroEngineering and Rehabilitation(6月6日付)に掲載されました。
論文タイトル:Quantitative measurement of finger usage in stroke hemiplegia using ring-shaped wearable devices
URL:https://doi.org/10.1186/s12984-023-01199-4

現状
 脳卒中患者のリハビリテーションでは、日常生活における麻痺肢の積極的な使用が機能回復に重要であることが知られています。実際、リハビリテーションの現場では、訓練が日常生活動作の改善にどの程度寄与しているかを定量評価するために、腕時計型の加速度計を両手首に装着して麻痺側・非麻痺側の上肢使用量を計測・評価するシステムが導入されています。しかしながら、つまむ、握る、つかむなど日常生活動作の改善に重要と考えられる手指使用量については、低拘束に常時計測する方法がありませんでした。

研究体制
 本研究は、東京農工大学の近藤敏之教授(大学院工学研究院先端情報科学部門)、山本直弥氏(大学院工学府電子情報工学専攻博士後期課程在籍、湘南慶育病院)、松本崇斗氏(大学院工学府情報工学専攻博士前期課程修了)、須藤珠水特任助教(大学院工学府)、宮下恵助教(大学院工学研究院先端情報科学部門)により実施されました。本研究は、JSPS科研費新学術領域研究19H05727、基盤研究(B) 20H02111の支援を受けて行われました。

研究成果
 本研究では、手指使用量を常時計測するために、第2関節の屈曲角度を赤外線近接センサーで計測する指輪型ウェアラブルデバイスを開発しました(図1参照)。本研究は、湘南慶育病院の回復期病棟に入院中の亜急性期脳卒中片麻痺患者20名(全員右利き、うち右麻痺10例、左麻痺10例)の協力の下に実施されました。対象者は左右の手に指輪型デバイスを装着し、リハビリテーション訓練時を除く終日(9時間)に渡って左右の手指と上肢の使用量を常時計測するとともに、脳卒中リハビリテーションで臨床評価指標として一般的に用いられるFMA-UE(注1)、STEF(注2)、ARAT(注3)、MAL(注4)による評価を併せて実施しました。計測データの解析には、手指や上肢をどれだけ動かしていたかを反映する「使用量」に加えて、使用量の個人差を正規化するために健常側に対する麻痺側の使用量の比率である「使用率」を用いました。実験の結果、指輪型デバイスで計測した手指使用率と運動機能検査に基づく臨床評価指標であるFMA-UE、STEF、ARATの間に有意な正の相関を確認しました(表1、図2左)。一方、インタビュー形式による患者の主観報告に基づく臨床評価指標であるMALとの間には手指使用量・使用率ともに相関が認められませんでした(表1、図2右)。また、手首の加速度計で求めた上肢使用率よりも、今回開発した指輪型デバイスで計測した手指使用率の方が、臨床評価指標のFMA-UE、STEFとより強い相関を示すことが示されました(表1、図2、図3参照)。以上の結果は、開発した指輪型デバイスで計測される手指使用率を用いることで、運動機能検査に基づく臨床評価指標(FMA-UE、STEF、ARAT)をより正しく推測できる可能性を示しています。

今後の展開
 脳卒中麻痺患者の日常生活における手指使用量を低拘束に常時計測することは、今後の脳卒中リハビリテーションの現場において、患者や療法士の主観に偏らないリハビリテーション介入戦略を検討する上で重要な評価指標の提供につながる可能性が期待されます。

用語解説
注1)FMA-UE (Fugl-Meyer Assessment for Upper Extremity): 脳卒中後の上肢運動機能評価の標準的方法
注2)STEF (Simple Test for Evaluating Hand Function):「つまむ」と「移動作業」による上肢機能検査法
注3)ARAT (Action Research Arm Test): 4種の運動(つかむ、握る、つまむ、粗大運動)19項目からなる上肢機能検査法
注4)MAL (Motor Activity Log): 14の日常生活動作についてインタビュー形式で回答を求める上肢麻痺の重症度評価法

図1 (A)指輪型ウェアラブルデバイスと(B)装着状態

表1 計測データに基づく麻痺側手指・上肢の使用量(率)と臨床評価指標の相関係数

図2 (A)麻痺側手指使用率とSTEFの相関関係、(B)麻痺側手指使用率とMALの相関関係
図3 (A)麻痺側上肢使用率とSTEFの相関関係、(B)麻痺側上肢使用率とMALの相関関係

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院工研究院
先端情報科学部門 教授
近藤 敏之(こんどう としゆき)
 TEL/FAX:042-388-7382
 E-mail:t_kondo(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

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