レーザー光によりガラス表面を簡単にナノ加工できる技術を開発~光学部品に新しい機能付加の可能性~

レーザー光によりガラス表面を簡単にナノ加工できる技術を開発
~光学部品に新しい機能付加の可能性~

ポイント

  • シリコン亜酸化物表面にフェムト秒レーザーパルスを照射すると、周期が200~330 nmの微細構造体を直接形成できることを発見した。
  • この材料は、酸素中で加熱すると二酸化ケイ素に、窒素中で加熱するとシリコンナノ結晶に変化するため、屈折率を変化させることができる。
  • 他のガラス材料を使ったナノ加工はこれまでに行われてきたが、高いエネルギーが必要であったため加工形状や大きさを制御できなかった。
  • 光の波長サイズの構造体は光の反射・吸収・透過特性を変化させることができる。本成果は、光学部品の材料として一般に用いられているガラス表面に簡単に微細構造体を形成できることから、新しい機能を持った光学部品・光デバイスを製作できると期待されている。

 国立大学法人東京農工大学 大学院工学研究院の宮地 悟代 准教授とゲッチンゲン・レーザー研究所(Laser-Laboratorium Göttingen、ドイツ)のJürgen Ihlemann博士の研究チームは、同大学大学院生の髙谷 竜禎 氏と高橋 一世氏、同研究所のLukas Janos Richter博士とともに、ガラスの一種である「シリコン亜酸化物」表面に、高強度のフェムト秒レーザーパルス[注1]を照射するだけで、周期が200~330nmのナノ構造体を表面から直接削り出だせることを発見しました。この現象をうまく利用すると、一般的に光学部品の材料として使われているガラス表面に、これまでにない光制御機能を与えることができると期待されます。

掲載誌:nanomaterials
出版日:2020年7月30日付(電子版のみ)
論文名:Fabrication of Periodic Nanostructures on Silicon Suboxide Films with Plasmonic Near-Field Ablation Induced by Low-Fluence Femtosecond Laser Pulses
著者名:Tatsuyoshi Takaya, Godai Miyaji, Issei Takahashi, Lukas Janos Richter, and Jürgen Ihlemann
DOI :10.3390/nano10081495
URL    : https://www.mdpi.com/2079-4991/10/8/1495

研究背景
 光の波長と同程度の大きさかそれよりも小さい構造体によって、光が反射・吸収・透過する量が変化すること、偏光面が回転することはよく知られており、それらを利用することによって、無反射表面や色素を使わなくても色彩を出すことができる構造色のような「機能を持った光学表面」を実現できます[注2]。光学素子の材料として一般的に使われているガラスの表面に、直接このナノ構造体を作ることができれば、複雑な光学系を使う必要がないため、取り扱い易くて高機能な光学素子が実現できると期待されています。しかし、ナノメートルサイズの加工を行うためには、これまでは半導体デバイス製造に使われている技術を使う必要があるため、製作工程が複雑であるという課題がありました。
 一方、フェムト秒レーザーパルスを複数パルス照射することによって、ガラス表面または内部にナノメートルサイズの周期構造体を直接形成する技術はありましたが、顕微鏡で使われるような高い倍率かつ短焦点のレンズによって集光する必要があるため、加工できる面積が小さく、加工に時間がかかるのに加え、加工材料とレンズ間の距離が短いため、加工形状や大きさを制御することができませんでした。

研究体制
 本研究は、国立大学法人東京農工大学 大学院工学研究院の宮地 悟代 准教授、同大学大学院生の髙谷 竜禎 氏と高橋 一世氏、ゲッチンゲン・レーザー研究所(Laser-Laboratorium Göttingen、ドイツ)のJürgen Ihlemann博士とLukas Janos Richter博士が共同で実施しました。

研究成果
 私たちは、ガラスの一種である「シリコン亜酸化物」薄膜を溶融石英基板上に堆積させた加工試料(図1参照)を作製しました。次に、この試料表面に高強度のフェムト秒レーザーパルスを長焦点のレンズを用いて集光・照射しました。その結果、集光スポット中心付近全体に周期が200~330nmのナノ構造体が自己組織化的に形成できることを観測しました(図2参照)。このとき、レーザー照射部は他のガラス材料の場合と比べて一桁以上小さいエネルギー密度でした。さらに、この現象の仕組みを調べたところ、高強度のフェムト秒レーザーパルスによって、シリコン亜酸化物表面内に高密度の電子が発生し、それによって電子の集団振動(表面プラズモン・ポラリトン[注3])が励起され、それに付随して生じる高強度の光近接場によって固体表面が直接削り取られることを、実験と理論計算の結果により明らかにしました。

図1 シリコン亜酸化物薄膜を堆積させた溶融石英基板。
図2 レーザー照射部全体に形成されたナノ周期構造の電子顕微鏡画像。Eはレーザー電場の偏光方向を示す。

今後の展開
 今回発見した現象を利用すると、ガラス表面にフェムト秒レーザーパルスを照射するだけで数10 nmから数100 nmの溝や穴を掘ることができるため、複雑なプロセスや薬剤が不要な微細加工技術の実現が期待されます。また、レーザー光を照射する位置を変えるだけで加工部分を移動できるため、加工材料の大きさに制限がなく、メートルサイズの領域へのナノ加工も容易です。このような大面積領域にナノメートルサイズの微細加工を行える技術は他にはなく、例えば、メタマテリアル表面形成、構造色表面加工、MEMS用表面加工、広帯域の無反射表面形成、照明光源の指向性表面形成、X線用光学素子作製、構造化光発生用素子作製などへの応用も期待されます。

用語解説
注1: フェムト秒レーザーパルス
1フェムト秒以上1ピコ秒未満の間にのみ存在するレーザー光のこと。1フェムト秒とは10の(-15)乗秒で、1ピコ秒とは10の(-12)乗秒。レーザー技術の進歩によって、近年容易に利用できるようなった。
注2: 詳しくはJST新技術説明会での説明資料を参照(https://youtu.be/9EDYUSmqkfQ)。
注3: 表面プラズモン・ポラリトン
電子の粗密振動波。2つの物質の境界面に存在し、電磁波と結びついている。波長は2つの物質の誘電率に依存するため、レーザー光の波長よりも短くすることができる。

謝辞
 本研究の一部は科研費 基盤研究B(18H01894)、京都大学エネルギー理工学研究所ゼロエミッションエネルギー研究拠点 共同利用・共同研究(ZE30C-02, ZE31C-01)の支援を受けて実施されました。

◆ 研究に関する問い合わせ ◆
国立大学法人 東京農工大学大学院工学研究院 先端物理工学部門 准教授
宮地 悟代(みやじ ごだい)
TEL:042-388-7153
E-mail:gmiyaji(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

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