天然物や医薬品などの合成反応工程の省力化と廃棄物削減に貢献する「触媒的鎖状交差二量化」に関する先端研究を紹介

天然物や医薬品などの合成反応工程の省力化と廃棄物削減に貢献する
「触媒的鎖状交差二量化」に関する先端研究を紹介

 国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院応用化学部門の平野雅文教授による本学発であり世界初となる錯体触媒反応による置換アルケンの不斉鎖状交差二量化反応をはじめ、触媒的な鎖状分子の構築法の紹介と、天然物や医薬品合成への展開について解説するレビュー論文が発表されました。

本研究成果は、アメリカ化学会の専門誌「ACS Catalysis」(1月4日付:日本時間1月5日)に掲載されました。
URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acscatal.8b04676 

現状
  アルケン(炭素-炭素の二重結合をもつ不飽和化合物)などの炭素―水素結合に異なる種類のアルケンを挿入する鎖状交差二量化反応は、廃棄物を出さずに鎖状炭素骨格を直接構築できる優れた方法です(図1)。しかし、性質のよく似た2種類のアルケン分子を触媒分子が識別することが必要であり、さらに望んだ立体構造を生成する不斉反応とするためには、アルケンの面選択性や結合形成の位置選択性など、克服すべき課題が多いため、一部の反応を除いては非常に難しい反応でした。

研究体制
 本論文は、東京農工大学大学院工学研究院応用化学部門 平野雅文教授により発表されました。また、本研究は、JST ACT-C JPMJCR12Z2、科学研究費補助金 基盤研究(B) 17H03051、および新学術領域研究「3D活性サイト科学」 26105003の助成などにより行われました。

研究成果
  平野教授は、9年前に本研究の開発に着手し、錯体触媒を用いて世界初のエナンチオ(不斉)選択的な鎖状交差二量化反応の開発に成功(図2)するなど本反応の開発を牽引しています。触媒的な鎖状交差二量化反応は、原料としてエチレン、置換アルケンおよびアルキン(炭素―炭素の三重結合をもつ不飽和化合物)などを用いた例が知られていますが、それぞれの反応に用いられる触媒と反応機構は異なっており、それらを分類し、歴史的な反応も含めて紹介しました。
 これらの反応が生成する鎖状分子は、生理活性物質や材料としても有用ですが、最近ではより複雑な構造を持つ天然物の合成方法に使われており、反応経路の大幅な短縮につながっています。これらの反応に用いられる分子触媒としては、主に鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケルやパラジウムなどの後周期遷移金属化合物が用いられますが、この論文ではそれぞれの反応性や選択性の特徴を反応機構とともに解説しています。
 
今後の展開
 本反応を用いた天然物の全合成なども報告されつつあり、不斉炭素原子を持つ天然物や医農薬品などの生理活性物質の合成に広く使われる反応となることが期待されます。

(図1)2種類の異なる不飽和分子から1分子の鎖状分子が生成。この際にすべての原子が生成物に取り込まれるため反応からは廃棄物が発生しません。
(図2)錯体分子触媒を用いた世界初の不斉鎖状交差二量化反応
(図3)鎖状交差二量化反応による不飽和ヘテロ5員環のC3位選択的置換基導入。これまでにヘテロ原子からかぞえて3番目の位置(C3位)に置換基を持つ化合物には生理活性を有する物質が多く知られていましたが、この位置に直接置換基を導入する方法は知られていませんでした。

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院工学研究院 応用化学部門 教授
平野 雅文(ひらの まさふみ)
TEL/FAX:042-388-7044

 

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