意識して聞かなくても、知らない曲に脳が強く反応している事を発見
意識して聞かなくても、知らない曲に脳が強く反応している事を発見
国立大学法人東京農工大学グローバルイノベーション研究院/大学院工学研究院先端電気電子部門の田中聡久研究室では、流れる音楽に集中していなくても、知っている曲と知らない曲で脳活動に違いが現れることを発見しました。この成果により、今後、音楽に関する認知機構のさらなる解明だけでなく、BGMに使える音楽の選定などへの応用が期待されます。
本研究成果は、Frontiers in Human Neuroscience誌(11月6日付)に掲載されました。
URL:https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fnhum.2018.00444/
現状 :聞いている曲を知っているか知らないか(馴染み度)で、脳の活動に違いがあることは幾つかの研究で知られていました。故意に音をずらしたときの脳波や、さまざまな音楽を聞いているときの脳波を測定すると、馴染み度によって脳の反応が異なります。田中聡久教授のグループでも、2017年の論文で、馴染みのない曲のとき、脳波と聴いている音楽には強い相関があらわれる(脳波が曲に同調する「引き込み」と呼ばれる現象が現れる)ことを示していました。しかし、知らない曲に対してはより集中しているから反応が異なる、つまり馴染み度ではなく集中度の違いではないかとの疑問も生まれていました。
研究体制 :研究室学生の熊谷優惟子さん(3月に博士前期課程を修了)、松井亮祐さん(現在博士前期課程)および田中教授のチームで研究を実施しました。本研究は、JSPS科研費 JP16K12456の助成を受けたものです。
研究成果
:本研究では、15名の実験参加者を対象に、動画(音を消したTVコマーシャル)と音楽(クラシックのピアノ曲)を同時に流しながら、動画に注意を向けている(音楽への集中度が低い)ときと、音楽に注意を向けている(音楽への集中度が高い)ときのそれぞれの場合で、同時に脳波(注1)を測定しました。音楽は40種類のピアノ曲を使い、実験参加者には、聴いた後に使った曲を知っているか知らないかを答えてもらいました。
まず、人工知能(AI)に脳波を分析・学習させた結果、2種類の集中度の違いをスコア化できることがわかりました。次に、音楽と脳波の間の相互相関関数(注2)を測定し、相関の強さ(曲と脳波が同調しているか)を測定し、馴染み度と集中度による影響を調べました。すると、馴染み度(知っている/知らない)は有意に相関値に影響している一方で、集中度(音楽に集中している/していない)による影響は有意に現れませんでした。このことから、知らない曲だからより集中して聴くことになり、その結果脳活動に違いが現れるわけではなく、“「曲を知っている/知らない」ことが無意識に脳の活動に影響を与えている”ことを示唆していると言えます。
今後の展開
:今回観測した現象が脳のどの部位で起きているのか、脳波だけでは調査に限界があります。今後は機能的磁気共鳴画像法(fMRI)等を併用して、音楽の馴染み度によって脳の情報処理がどうなっているのか、より深く調べていく必要があります。また、より脳活動にダイレクトに働きかけることができる音楽を選んだり、さらには作曲したりするような事が可能になるかもしれません。
注1)脳波
頭皮脳波とも呼ばれ、頭皮上の電圧の変化を測定したもの。神経細胞(ニューロン)集団の活動変化を大局的に捉えることができる一方、活動の位置の特定は非常に難しい。
注2)相互相関関数
2つの信号の間の類似度を定量化した指標。
【参考情報】
・論文名:Familiarity Affects Entrainment of EEG in Music Listening
(音楽を聴くとき、馴染み度が脳波の同調に影響する)
・掲載誌:Frontiers in Human Neuroscience
・掲載年:2017年
・著者名:Yuiko Kumagai, Mahnaz Arvaneh and Toshihisa Tanaka
・URL:https://doi.org/10.3389/fnhum.2017.00384
※本論文は東京農工大学の「学長裁量経費による国際共著論文掲載料補助」により、無料で閲覧可能です。
◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学グローバルイノベーション研究院/大学院工学研究院
先端電気電子部門 教授
田中 聡久(たなか としひさ)
TEL/FAX:042-388-7123
E-mail:tanakat(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp