逃げ続ければ生き残る!?外来マングースによって在来カエルの形態・持久力が急速に発達!~島嶼生物が持つ“独自性”への影響~

逃げ続ければ生き残る!?
外来マングースによって在来カエルの形態・持久力が急速に発達!
~島嶼生物が持つ“独自性”への影響~

ポイント
・マングースの影響を受けた地域のカエルは、他の地域と比べて脚が長く、持久力が発達していた。
・マングースによって、わずか数十年の間にカエルの形態・運動機能が急速に進化した可能性。
・外来種は、“逃避能力が低い”という島嶼生物が持つ独自の性質を短期間で変化させる。

本研究成果は、国際誌Biological Invasions誌(1月3日付)に掲載されました。
URL:https://link.springer.com/article/10.1007/s10530-020-02440-0
掲載誌:Biological Invasions
論文名:Rapid responses in morphology and performance of native frogs induced by predation pressure from invasive mongooses(外来マングースの捕食圧による在来カエルの形態・パフォーマンスの急速な応答)
著者名:Hirotaka Komine, Noriko Iwai, Koichi Kaji(小峰浩隆、岩井紀子、梶光一)

概要
 東京農工大学の小峰浩隆特任助教(当時)らは、奄美大島において、絶滅危惧種アマミハナサキガエル(図1a)(以下カエル)の脚の長さと持久力が、侵略的外来種であるフイリマングース(以下マングース)(図1b)によって、わずか数十年の間に急速に発達し、その変化はマングースを駆除してもすぐには戻らない事を明らかにしました(図2)。これは、マングースという本来島にはいなかった追跡型の捕食者(捕食性哺乳類)に応答し、カエルの形態・持久力が急速に進化した可能性を示しています。外来種によって、逃避能力が低いという島嶼生物が持つ独自の性質が変化している事が明らかになりました。

研究背景
 もともと強力な捕食者がいない島の在来種は、“逃げる”という事をあまり行わず、新たに侵入してきた外来の捕食者に簡単に食べられてしまう事が知られています。その中でも、新たな捕食者からうまく逃げられない個体が頻繁に食べられ、少しでもうまく逃げられる個体が生き残りやすいと考えられます。これは、逃げる能力が高いという性質が世代を超えて受け継がれていく可能性がある事を意味します。このことから、外来捕食者の強い影響を受けた島の在来種は、新たな捕食者に応じた逃避能力を発達させることが予想されます。しかしこれまでは、新たな外来の捕食者に対して在来種がどのように応答しているのか、その詳細は知られていませんでした。
奄美大島に1979年に導入されたマングースは、島全域には拡大しなかったものの、導入地点に近い地域では多くの在来種を減少させました。その後、環境省の駆除活動によってほとんどのマングースは駆除されましたが、もし在来種の逃避能力がマングースの捕食圧によって進化したのであれば、マングースがいなくなっても、その変化が持続している事が予想されます。また、奄美大島には在来の捕食者としてヘビ類がいます。ヘビ類は待ち伏せ型の捕食者ですが、マングースは追跡型の捕食者です。ヘビ類などの待ち伏せ型の捕食者から逃げるためには瞬発的に逃げれば良いですが、マングースなどの追跡型の捕食者(捕食性哺乳類)から逃げるためには、逃げ続ける能力(持久力)が必要であると考えられます。著者らは、この捕食者のタイプの変化に在来種のカエルがどのように応答しているのかを調べるため、2015,2016年6-8月にマングースの影響が異なる地域において、逃避に関わる脚の長さや、持久力の指標となるジャンプ可能回数等を計測しました(図2)。脚の長さはノギスを用いて計測し、ジャンプ可能回数は、手持ち網の中で何回までジャンプを繰り返す事が出来るのか、その上限を計測しました。

研究成果
 その結果、マングースの影響が強かった地域のカエルは、他の地域と比べて、相対的な脚の長さが長く、ジャンプ可能回数が多い事が明らかになりました(図3)。これは、マングースという追跡型の捕食者に応答し、わずか数十年の間にカエルの形態や持久力が発達した事を示しています。また、この調査を行った時点では、環境省によってほとんどのマングースが駆除されています。このことから、マングースがいなくなっても、一度発達した形態や持久力はすぐには戻らない事が示されました。これは、マングースによってカエルの形態や持久力がわずかな時間で急速に進化し、世代を超えて受け継がれた可能性を示す結果です。外来種は、“逃避能力が低い”という島嶼生物ならではの性質を、短期間のうちに変化させている事が明らかになりました(図4)。

今後の展開
 外来種による在来種の減少についてはとても多くの報告がありますが、形態や運動機能といった性質への影響は解明が始まったばかりです(行動への影響は2019/9/17に報道発表*)。この性質の変化という観点で外来種と在来種の関係を見てみると、他の多くの生物でこれまで知られていなかった影響が明らかになるかもしれません。例えば、外来種と問題なく共存しているように見える在来種も、実際は、本来持つ様々な性質が外来種によって変化しているかもしれません。また、外来種を駆除する事で数が回復した在来種も、その性質は本来持っていた性質とは異なるかもしれません。とりわけ、これまで多くの島嶼生物が外来種によって絶滅してきた事が知られていますが、たとえ絶滅に至っていない場合でも、本来の性質が変化している可能性が考えられます。島嶼生物の性質は、強力な捕食者がいないという特殊な環境で独自に進化してきた歴史を反映しています。進化の独自性を反映する性質への影響を評価する事で、外来種による在来種への影響の実態や根深さが、明らかになると期待されます。

図1 (a) アマミハナサキガエル(撮影:小峰浩隆):奄美大島及び徳之島の固有種。環境省のレッドリスト絶滅危惧種Ⅱ類、県の天然記念物に指定されている希少種。(b) フイリマングース(撮影:小原祐二):南アジア原産。世界各地に導入され、在来の生態系に深刻な影響を与えている。世界の侵略的外来生物ワースト100に指定。
図2 研究の概要
図3 形態・持久力とマングースの影響(マングース導入地点からの距離)との関係図。マングースの影響が強かった地域では、形態・持久力が発達している事が明らかになりました。
図4 マングース導入前後の捕食-被食関係と逃避戦略の変化。

*行動への影響に関する2019/9/17の報道発表はこちら
〔2019年9月17日リリース〕ビビりなやつほど生き残る!?外来マングースによって在来カエルの逃避行動が急速に発達!~外来種による在来種への影響の新たな側面~ 

研究体制
本研究は、国立大学法人東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院の小峰浩隆特任助教(当時。現所属:国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所)、農学研究院の梶光一名誉教授、岩井紀子准教授らの研究グループによって行われました。本研究はJSPS科研費15J08743の助成を受けたものです。

◆研究に関する問い合わせ◆
国立大学法人 東京農工大学大学院
グローバルイノベーション研究院
特任助教 小峰浩隆(当時。 現所属:国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所)
E-mail:komitorihiro(ここに@を入れてください)gmail.com

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