骨格で支えられた人工細胞の形成に成功~薬用カプセルや化粧品などの応用に耐える補強が実現~

骨格で支えられた人工細胞の形成に成功
薬用カプセルや化粧品などの応用に耐える補強が実現

【ポイント】
・骨格で支えられた人工細胞の形成に成功しました。
・骨格により耐久性が向上した人工細胞は、医薬品や化粧品への応用が期待されます。

 東京農工大学大学院工学研究院先端物理工学部門の柳澤実穂テニュアトラック特任准教授、大学院生の黒川知加子、東京工業大学情報理工学院情報工学系の瀧ノ上正浩准教授ら、慶應義塾大学理工学部生命情報学科の藤原慶専任講師、東北大学大学院工学研究科ロボティクス専攻の村田智教授らのグループは、人工的に創られた細胞モデル(リポソーム(注1)、もしくは人工細胞)に骨格を持たせ、現実の細胞並みに硬くすることに成功しました。我々の体を構成する細胞は、細胞骨格と呼ばれるネットワーク構造により非常に安定になっています。リポソームは薬の輸送用カプセルや化粧品の材料として使われてきましたが、細胞骨格のような構造が無いため、わずかな刺激により壊れてしまう問題がありました。今回、DNAナノテクノロジー(注2)と呼ばれる技術によって人工的な細胞骨格を作製し、リポソームに付与しました。この人工細胞骨格を持つリポソームは、従来の骨格を持たないリポソームが壊れてしまうような刺激に対しても崩壊せず、その形を維持しました。リポソームの耐久性を高めることは、薬用カプセルや化粧品などへ応用する上での最も大きな課題でしたが、今回の成果によりこの問題が克服される可能性があります。

本研究成果は、米国科学アカデミー紀要(英語:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(略称PNAS))オンライン版(6月26日付:日本時間6月27日)に掲載されます。
【※報道解禁:6月27日午前4時(日本時間)】
掲載誌:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
論文名:DNA cytoskeleton for stabilizing artificial cells
著者名:Chikako KUROKAWA, Kei FUJIWARA,Masamune MORITA, Ibuki KAWAMATA, Yui KAWAGISHI, Atsushi SAKAI, Yoshihiro MURAYAMA, Shin-ichiro M. NOMURA, Satoshi MURATA, Masahiro TAKINOUE,Miho YANAGISAWA
URL: http://www.pnas.org/content/early/recent

現状 :リポソームは、基礎研究だけでなく、薬用カプセルや化粧品など多くの日用品に応用されています。しかし、膜が壊れやすく、内包物が漏れやすいという問題がありました。壊れにくくし、さらにその強度を自在に変化できれば、カプセルとしての機能を大幅に向上できるため、その手法が渇望されていました。

研究体制 :本研究は、東京農工大学・柳澤実穂特任准教授、東京工業大学・瀧ノ上正浩准教授,東京農工大学大学院生・黒川知加子氏、慶應義塾大学・藤原慶専任講師、東京工業大学・森田雅宗研究員、東北大学・村田智教授、野村M.慎一郎准教授、川又生吹助教、川岸由研究員、東京農工大学大学院生・酒井淳氏、東京農工大学・村山能宏准教授が共同で実施しました。

研究成果 :リポソームの強度を上げるため、細胞骨格のように膜を支えるネットワーク構造をDNAナノテクノロジーにより構築しました(図1・A)。本研究で用いたDNAは、温度低下に伴い、分岐を維持しながら互いに結合してネットワーク状の構造を作ります(図1・B)。またDNAはマイナスの電荷を帯びているため、リポソームの中のみにプラスの電荷を帯びさせることで、プラスとマイナスの引き合いにより膜直下へDNAの骨格を形成させることができました。リポソームは通常わずかな浸透圧差で崩壊してしまいますが、DNAからなる骨格を持つことにより体内で想定される浸透圧変化環境においても崩壊しないことを確認しました(図2)。この補強機能は、DNAが互いにネットワークを組むことに由来し、さらにその強度はDNAの塩基配列(注3)により決定されています。そのため、DNA構造を設計することによる強度制御が期待されます。

今後の展開 :今回形成した人工細胞骨格は、リポソームの内側に存在するため、外部との接触無しに膜を補強することができます。この成果により、リポソームのカプセルとしての機能強化が見込まれます。また、DNAで形成されているため、DNAの化学反応に基づく膜崩壊の誘発と内包物の放出制御など、多様な機能付与が期待されます。

図1:(A)DNA骨格を備えたリポソームの断面像と(B)DNAのネットワーク化を示す模式図。
図2:DNA骨格あり(左)となし(右)のリポソームに対し浸透圧変化を与えた際の生存割合。

語句解説
注1) リポソーム:主に脂質からなる人工的な脂質二重膜小胞のこと。同じく脂質二重膜を基本構造とする細胞膜のモデル研究や、薬用カプセル・化粧品など、様々な分野で利用されている。
注2) DNAナノテクノロジー:DNAが二重らせんをとる性質を利用し、ナノサイズ(1mmの百万分の1)の形を自在に創り出す技術。本研究では、ネットワーク構造を作るDNAを作製し利用した。
注3)  塩基配列:DNAはアデニン、グアニン、シトシン、チミンの4種類の塩基から出来ている。その配列のこと。


◆ 研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院工学研究院
先端物理工学部門 特任准教授
柳澤 実穂(やなぎさわ みほ)
TEL/FAX:042-388-7113
メールアドレス:myanagi(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

東京工業大学情報理工学院
情報工学系 准教授
瀧ノ上 正浩(たきのうえ まさひろ)
TEL/FAX:045-924-5680
メールアドレス:takinoue(ここに@を入れてください)c.titech.ac.jp

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