作りづらい化合物が優先??炭素中員環合成の新手法

作りづらい化合物が優先??
炭素中員環合成の新手法

 

 国立大学法人 東京農工大学大学院工学研究院応用化学部門の森啓二准教授は、化学反応が起こりにくい炭素-水素結合の変換反応を用いることで、様々な生理活性化合物中に数多く見られる炭素中員環構造の簡便合成法の開発に成功しました。この成果により、より効率的な含炭素中員環医薬品候補化合物の供給の道が拓けることが期待されます。

本研究成果は、イギリス化学会Chemical Communications誌(10月25日付)に掲載されました。
URL: https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2019/cc/c9cc08074k#!divAbstract


現状
 炭素7員環、8員環構造は、様々な生理活性天然物中によく見られる構造単位です。例えば、7員環構造を持つKomaroviquinoneはシャーガス病治療薬(抗トリパノソーマ活性)のリード化合物として有望であり、8員環構造を有するTaxolは顕著な抗がん活性を示します。しかし、立体的な歪みを有するためにこれら環構造の構築は一般的には容易ではありません。また、たとえ構築できたとしても、分子間反応の競合を抑えるために高希釈条件(注1)を必要とすることが多く、実用性の点で課題を残していました。

研究体制
 本研究は、東京農工大学 大学院工学府 応用化学専攻 大多和 柚奈学士、工学研究院 応用化学部門 森啓二准教授により行われました。また、本研究は内藤記念科学振興財団の助成により行われました。
 
研究成果
 本研究では、高希釈条件を必要としない簡便な炭素7員環、8員環構造の構築法の実現を目指しました。この方法論の開発にあたり森准教授らは、同氏の研究グループで精力的に研究を進めている分子内ヒドリド転位(注2)を介する炭素—水素結合変換法(注3)の二つの有用な特徴(分子内でのみ反応が進行する、高濃度条件での反応が可能)に着目し、これに立脚した合成法の開発に取り組みました。この戦略は功を奏し、目的の反応分子と触媒を混合して加熱するだけの簡便な反応操作、かつ高濃度条下(0.5 mol/L)による炭素7員環、8員環化合物合成を実現することができました。合成しやすい5員環や6員環生成が競合する可能性があるにもかかわらず、困難な炭素7員環、8員環生成が優先する、従来の有機化学の概念を逸脱した反応です。
 
今後の展開
 今回は単一の炭素中員環構造の構築に焦点をあてましたが、開発した方法論を逐次的に利用することで従来法では合成できなかった炭素中員環構造を複数含む複雑な有機化合物を合成することが可能となります。新たな医薬品候補化合物の提供につながることが期待できます。
 
注1)高希釈条件
反応の原料を大量の有機溶媒に溶かして行う条件のこと。従来法では0.05 mol/L以下の濃度で行うことが多い。
注2)分子内ヒドリド転位
負電荷を持った水素原子が分子内で移動すること。
注3)炭素—水素結合変換法
化合物中に偏在する炭素—水素結合を炭素—原子団(水素原子以外)結合へと変換する手法のこと。

◆研究に関する問い合わせ◆

東京農工大学大学院工学研究院
応用化学部門 准教授
森 啓二(もり けいじ)
TEL/FAX: 042-388-7034
E-mail: k_mori(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

 

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