廃棄物からのリンおよびエネルギー高効率回収に向けて―リンを含む灰粒子が高温条件で付着する現象を解明―

廃棄物からのリンおよびエネルギー高効率回収に向けて
―リンを含む灰粒子が高温条件で付着する現象を解明―

 国立大学法人東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院の堀口元規助教、同大学院工学研究院応用化学部門の神谷秀博教授、ならびに同大学院農学研究院応用生命化学部門の岡田洋平准教授らは、廃棄物焼却灰粒子に含まれるリンがその付着性に与える影響を明らかにしました。同時に、リンが原因で発生する付着トラブルを、わずか3 wt%の酸化鉄ナノ粒子添加で抑制させることに成功しました。この成果により、リンを含む廃棄物を高効率に安定して焼却することが可能となり、リン回収による水環境保護およびリンの再資源化、さらには廃棄物からのエネルギー回収まで、持続可能な社会の実現に向けたプロセスの構築に貢献できます。

本研究成果は、アメリカ化学会ACS Sustainable Chemistry & Engineering誌(10月19日付)に掲載されるとともに、同誌のSupplementary Coverで取り上げられました。
URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acssuschemeng.1c05676

現状
 リンはDNAや骨などに含まれる生物にとって必要不可欠な元素であり、リン資源の確保が重要です。一方で、生命活動から排出される廃棄物にはリンが含まれ、水環境中に放出されたリンは富栄養化により環境へ悪影響を与える場合があります。近年、下水処理技術の高度化により下水からのリン除去率は向上しています。下水から回収されたリンは、下水汚泥とよばれる下水処理由来の固体廃棄物中に取り込まれます。この下水汚泥を焼却処分する際には熱エネルギーが発生するため、エネルギーを回収して発電などに利用できればエネルギーロスを防ぐこともできます。以上のようなリン回収からエネルギー回収に至るプロセスの実現により、「リン資源の確保」「水環境の保護」「廃棄物からのエネルギー回収」の3点を達成でき、持続可能な社会に貢献できます。ところで、下水汚泥をはじめとする廃棄物の焼却過程では、燃え残りの灰粒子が発生し、それが600~1000 °Cの高温のプラント内部に付着して運転上のトラブルを引き起こすことが知られています。付着した灰は熱エネルギー回収効率の低下やガス流路の閉塞を引き起こし、プラントの効率的かつ安定的な運転を妨げます。残念ながら、これらのトラブルはリンにより誘発されている可能性が疑われています。灰粒子中のリンによる高温付着性増加現象を詳細に理解したうえで、適切な付着抑制技術を確立することが強く求められます。

研究体制
 本研究は、東京農工大学の堀口元規(大学院グローバルイノベーション研究院助教)、伊東賢洋(大学院生物システム応用科学府博士後期課程・三機工業株式会社)、伊藤敦貴(大学院生物システム応用科学府博士前期課程2年)、神谷秀博(大学院工学研究院教授)、岡田洋平(大学院農学研究院准教授)の研究チームで実施しました。

研究成果
 我々のグループでは、高温条件で粒子の付着力を定量化できる独自のデバイスを開発し、プラント運転温度における様々な灰粒子の付着力を定量化してきました。これは、粒子の高温付着力を数値化できる独自手法です。さらに、複雑な化学組成を持つ灰粒子の高温付着現象を、化学合成した灰(合成灰)で再現することに成功しています(2021年3月22日プレスリリース、「安定かつ高効率な燃焼プロセスの確立に向けて―高温条件で灰粒子が付着する原因を解明―」)。化学的にシンプルな合成灰は、付着力と組成の関係を詳細に理解するために役立ちます。本研究では「付着力定量化」「合成灰」の2つの独自手法を用いて、リンが付着性に与える影響を評価しました。化学的に安定かつ900 °C以下の条件では付着しないシリカ粒子にリンを加えた合成灰を調製し、その付着性を測定しました。その結果、900 °Cにて付着力が生じることを確認するとともに、その付着力はリン濃度が高くなるほど強くなることを見出しました(図1(a))。これは、リンの存在により高温条件での粒子付着力が増加することを実験的に示した世界初の例です。我々のグループ独自の、熱処理前後で粒子の形態変化を観察可能な特殊な走査型電子顕微鏡を用いて観察したところ、900 °C熱処理後には粒子表面で液体が発生したことが示唆されました(図1(b))。観察された合成灰の付着力増加は、リンを含む成分が高温条件で溶融して粘着性がアップしたことで発生したと結論付けました。リン由来の高温付着力を抑制する手法の開発も行いました。リンを含む合成灰に対し酸化鉄ナノ粒子をわずか3 wt%添加するだけで、900 °Cにおける付着力を96%も低減させることに成功しました(図1(c))。リンと鉄の相互作用の結果高温条件での溶融が起こりにくくなり、付着力が発現しなかったと考えられます。リンが原因で発生する灰粒子付着トラブルを効果的に抑制できる手法を確立することができました。本研究成果は、人類の活動により水環境中に放出されたリンを回収しながら、廃棄物焼却時のエネルギーも効率よく回収する、リンとエネルギーの双方を回収可能なプロセスの実現に貢献します。論文誌を飾るSupplementary Cover(図2)は、このような持続可能なプロセスを「永久機関」にたとえ、表現しています。

図1 リンとシリカから調製した合成灰の高温特性評価結果と酸化鉄ナノ粒子添加による付着抑制効果
図2 論文誌のSupplemental Coverに採択されたグラフィック

今後の展開
 複雑で詳細が不明だった粒子の高温付着性について、本研究結果を含めた我々の成果により体系的な理解が進んでいます。得られた知見を基に、付着性をあらかじめ予測する手法や、多様な燃料由来の灰の付着を適切に制御できる技術を開発し、産業界に貢献していくことを目標としています。

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院農学研究院
応用生命化学部門 准教授
岡田 洋平(おかだ ようへい)
TEL/FAX:042-367-5667
E-mail:yokada@cc.tuat.ac.jp

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