タンパク質の構造形成を助ける薬剤の開発に成功 インスリンや抗体など健康維持に必須なタンパク質の高効率生産への応用に期待

タンパク質の構造形成を助ける薬剤の開発に成功
インスリンや抗体など健康維持に必須なタンパク質の高効率生産への応用に期待 

 国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院応用化学部門の村岡貴博准教授、岡田隼輔大学院生と東北大学学際科学フロンティア研究所の奥村正樹助教、松﨑元紀学術研究員、東北大学多元物質科学研究所の稲葉謙次教授らは、タンパク質が正しく機能するために必要不可欠な酸化的フォールディングというステップを、細胞内で使用されているグルタチオンよりも高い効率で促進する低分子「グアニジンチオール(GdnSH)」を開発しました。GdnSHのような薬剤は、今後インスリンや抗体などジスルフィド結合を含むタンパク質の高効率生産に役立つと期待されます。
 

本研究成果は、英国王立化学会のChemical Communications誌電子版(11月27日付, doi: 10.1039/C8CC08657E)に掲載されました。
URL: https://pubs.rsc.org/en/content/articlehtml/2018/cc/c8cc08657e

 
現状
細胞内では、免疫グロブリンやインスリンをはじめ生体機能維持に重要なタンパク質が大量に生産されます。タンパク質が正しく機能するためには、酸化的フォールディングと呼ばれる、ジスルフィド結合(注1)形成を伴う立体構造の形成が欠かせません。しかし、酸化的フォールディングはうまく行かないことがあり、インスリンや抗体などジスルフィド結合を含むタンパク質の高効率な生産が困難であるケースが知られていました。細胞内ではこの酸化的フォールディングを促進するため、グルタチオンという低分子が広く使われますが、インスリンや抗体など健康維持に必須なタンパク質の高効率な生産に対処するためにより促進効果が高い薬剤が待ち望まれていました。

研究体制
東京農工大学大学院工学府応用化学専攻の岡田隼輔大学院生(修士1年)、東京農工大学大学院工学研究院応用化学部門の村岡貴博准教授、東北大学学際科学フロンティア研究所の奥村正樹助教、松﨑元紀学術研究員、および東北大学多元物質科学研究所の稲葉謙次教授らが共同で実施しました。本研究は、科学研究費助成事業若手研究(A) (17H04885)、連携型博士研究人材総合育成システム、物質・デバイス領域共同研究拠点の共同研究プログラムなどによって実施されました。
 
研究成果
グルタチオンに変わる低分子グアニジンチオール(GdnSH)を開発しました(図1)。このGdnSHは、グアニジノ基(注2)とチオールを組み合わせたことで、グアニジノ基の正電荷が、チオール(SH)を負電荷のチオレートアニオン(S-)(注3)に変化させやすくしていました(図2)。この性質によって、GdnSHが高効率な酸化的フォールディング促進剤として働くことを突き止めました。
 
今後の展開
GdnSHのような薬剤は、小胞体内の酸化的フォールディング効率を大きく高めることで、今後インスリンや抗体などジスルフィド結合を含むタンパク質の高効率生産に役立つことが期待されます。

 
注1)ジスルフィド結合
システイン残基の側鎖に存在するチオール(SH)の硫黄原子同士が酸化され、共有結合でつながったもの(-S-S-)で、SS結合とも呼ばれています。タンパク質中では構造の安定化や酵素の活性制御などに関わっています。
R-SH + HS-R → R-S-S-R

注2)グアニジノ基
–HN(C=NH)NH2で表される原子団で、強い塩基性を持つことが知られています。

注3)チオレートアニオン(S-)
チオール(SH)の水素が電離し、陰イオンとなったもの(S-)を指します。負電荷を帯びることで、相対的に正電荷を帯びているジスルフィド結合(-S-S-)との架け替え反応を起こしやすくなることが知られています。
R1-S- + R2-S-S-R3 → R1-S-S-R2 + -S-R3

図1. GdnSHの構造と高効率な酸化的フォールディング促進剤としての働き
図2. GdnSHの反応性が高まる仕組み

参考情報
・論文名:Coupling effects of thiol and urea-type groups for promotion of oxidative protein folding
・掲載誌:Chemical Communications(英国王立化学会)
・電子版掲載年月日:2018年11月27日
・著者名:S. Okada, M. Matsusaki, K. Arai, Y. Hidaka, K. Inaba, M. Okumura, T. Muraoka
・URL: https://pubs.rsc.org/en/content/articlehtml/2018/cc/c8cc08657e 
・doi:10.1039/C8CC08657E

 
◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院(大学院工学研究院応用化学部門) 准教授
村岡 貴博(むらおか たかひろ)
TEL/FAX:042-388-7052
E-mail:muraoka(ここに@を入れてください)go.tuat.ac.jp
村岡研究室のホームページ:https://www.muraoka-lab.com  

東北大学多元物質科学研究所 教授
稲葉 謙次 (いなば けんじ)
Tel: 022-217-5604
E-mail: kinaba(ここに@を入れてください)tagen.tohoku.ac.jp

東北大学学際科学フロンティア研究所
新領域創成研究部 助教
奥村 正樹(おくむら まさき)
TEL/FAX:022-217-5628
E-mail:okmasaki(ここに@を入れてください)tohoku.ac.jp

 

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