アレルギー性鼻炎(花粉症)原因物質、スギ・ヒノキ花粉飛散量の日本列島広域における同期状態の可視化に成功

アレルギー性鼻炎(花粉症)原因物質、スギ・ヒノキ花粉飛散量の
日本列島広域における同期状態の可視化に成功

 東京農工大学大学院農学府自然環境保全専攻石橋顕大学院生(修士2年)、農学研究院農業環境工学部門の酒井憲司教授らは、花粉症の原因物質であるスギ・ヒノキ花粉散布量の日本列島広域における同期状態の可視化に成功しました。環境省花粉観測システム“はなこさん”による全国120か所の観測データを用い、位相同期理論基づいて花粉量変動の増減のみに着目したものです。本研究で提案した手法は、花粉飛散量予測精度の向上だけではなく、農業、林業他の様々な植物の繁殖同期現象の解明や、広域の環境変動の可視化にもつながることが期待されます。

本研究成果は、Scientific Reports(8月7日付)に掲載されました。
論文名:Dispersal of allergenic pollen from Cryptomeria japonica and Chamaecyparis obtuse: characteristic annual fluctuation patterns caused by intermittent phase synchronisations
URL:https://www.nature.com/articles/s41598-019-47870-6  
DOI: 10.1038/s41598-019-47870-6

<現状>
 アレルギー性鼻炎(花粉症)は世界中で問題となっています。わが国では戦後の大規模造林によって国土の約20%をスギ林とヒノキ林が占めているため、人口の約17%(2,000万人以上)がスギ花粉等によるアレルギー性鼻炎(花粉症)に罹患しています。花粉症対策にはタイムリーかつ正確な花粉予測が不可欠となります。一方、樹木の種子生産や花粉生産には豊凶の複雑な同期現象が知られています。しかし、花粉散布量の正確な予測に重要な花粉飛散量の空間同期パターンについて、これまで明らかにされていませんでした。

<研究体制>  
 酒井教授の研究グループでは、自然環境保全部門の星野義延教授、インドデリー大学天体及び理論物理学部門のPrasad博士らと連携し、多年生植物の豊凶現象をはじめ様々なカオス同期現象についての学際研究を展開しています。

<研究成果>
 環境省花粉観測システム“はなこさん” (http://kafun.taiki.go.jp/)は2003年から運用開始され、沖縄県を除く全国の観測地点における花粉量観測データが公開されています。本研究では公開データに必要な処理を加えて解析に用いました。

 花粉量は120地点で大きく変動していますが〈図1〉、地区内の同期強度や観測地点間の同期強度などについてはこのままでは判別できません。図2は、A(北海道)からH(九州)までの120地点のすべての組み合わせにおいて、花粉量の増減を可視化したものです。黄色を同相(2地点の花粉量の増減方向が同じ)、青色を逆相(2地点間の花粉量の増減方向が逆)と呼びます。2009年から2010年では全面に黄色で、120地点全で完全な同相同期となっています。北海道と鹿児島の測定地点間距離は1,613kmであり、このような超長距離相関が確認されたことは驚くべきことです。逆に、2015年から2016年では、近接地点間ですら逆相が多く見られ、ほぼ完全な脱同期状態となっています。これらの結果は、日本列島もしくはそれより広域でのなんらかの環境変化を反映している可能性を示唆しています。さらに、非線形物理の分野で注目されている同期理論やネットワーク理論の立場から、今後注目される自然現象といえます。

<今後の展開>
 今回開発された手法は、花粉飛散量予測の改善だけではなく、様々な同期現象に広く適用できる手法です。果樹の隔年結果予測、ドングリの豊凶予測、野生動物被害予測、また、広域の環境変動の可視化など、数理科学分野との連携によるオープンデータサイエンスとしての展開を目指しています。

◆研究に関する問い合わせ◆
 東京農工大学大学院農学研究院
 農業環境工学部門 教授
   酒井 憲司(さかい けんし)
   TEL/FAX:042-367-5755
   E-mail:ken(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

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•東京農工大学 酒井憲司教授 研究者プロフィール
•酒井憲司教授が所属する 東京農工大学農学部地域生態システム学科

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