東京農工大学の研究成果を使用した化粧品機能性成分の皮膚浸透評価の受託試験がスタート

2023年3月15日

東京農工大学の研究成果を使用した化粧品機能性成分の皮膚浸透評価の受託試験がスタート

 東京農工大学大学院工学研究院 伊藤輝将准教授と三沢和彦教授(東京農工大学 副学長)らの研究グループが独自に開発した、新たなレーザー走査型顕微鏡装置を使用した試験受託業務を、株式会社マツモト交商(本社:東京都中央区、代表取締役社長:松本俊亮)が2023年3月13日から受注開始いたしました。この受託試験では、化粧品に配合される機能性成分の皮膚モデルへの浸透性を非標識で直接的に評価することができ、化粧品製剤や化粧品原料の開発への貢献だけでなく化粧品浸透性評価の新たな標準方法につながることが期待されます。
 本顕微鏡装置は、JST研究成果展開事業 産学共創プラットフォ-ム共同研究推進プログラム(OPERA)の光融合科学から創生する「命をつなぐ早期診断・予防技術」研究イニシアティブ(領域統括:東京農工大学 三沢和彦)において開発が終了した技術を実用化したものです。

皮膚浸透評価の現状
 皮膚は外界にさらされた組織であり、外部からの異物の侵入や体内からの水分蒸散を防ぐ重要なバリア機能を担っています。それにより、化粧品などを皮膚の外から適用しても、十分量を皮膚に浸透させることは困難とされます。化粧品中の成分がどの程度皮膚に浸透したかを評価するためには、これまでは検出感度の高い蛍光物質などで実際の成分を代替したり、標識したりすることで評価をしてきましたが、実際に配合される成分を直接検出することは困難でした。これまでラマン散乱顕微鏡と呼ばれる分子特異的な信号を利用した成分検出技術が開発されてきましたが、皮膚中の化合物検出においては皮膚由来の成分に起因する背景信号との分離が難しく、検出できる成分濃度には限界がありました。

事業の位置づけ
 東京農工大学とマツモト交商は波形整形パルスを用いた位相変調誘導ラマン散乱(PM-SRS)顕微鏡を応用した皮膚浸透動態観察技術の共同研究の成果を情報開示してきました。これまでの化粧品製剤や薬剤の皮膚浸透動態の観察をする研究から試験方法を確立し、マツモト交商にて PM-SRS 顕微鏡を用いた試験受託業務を開始し、化粧品製剤や化粧品原料の開発に貢献する情報を提供していきます。

研究成果の概要
 本受託試験では、東京農工大学のPM-SRS顕微鏡(図1)の技術〔2017年4月25日東京農工大学プレスリリース〕を応用する事で、従来のラマン散乱顕微鏡よりも高い感度で化粧品中の成分を非標識検出することを可能にしました。図2は、皮膚モデルとカフェイン水溶液のラマン散乱スペクトルを、従来のラマン散乱法とPM-SRS法とで測定した結果を比較したものです。従来の測定法では、測定対象物質であるカフェイン固有の信号以外にも皮膚モデルや水溶液から発生する背景信号が検出され、その結果、目的信号と背景信号との比率が悪くなってしまいます。                          
 それに対してPM-SRS法では、皮膚モデルや水溶液からの背景信号が大きく抑制され、測定対象物質に対する高い感度が得られます。さらに、図3では、皮膚モデルの表面に塗布したカフェイン分子が時間経過とともに、皮膚の内部に浸透していく様子を可視化したものです。この可視化は、非標識・非接触・非破壊で観測できるという特長を持つラマン散乱顕微鏡において、背景信号を抑制し目的信号のみが取り出せるPM-SRS法によって初めて可能になりました。

図1 位相変調誘導ラマン散乱(PM-SRS)顕微鏡
図2 皮膚モデルとカフェイン水溶液のラマンスペクトル測定(A)従来のラマン散乱法、(B)位相変調誘導ラマン散乱(PM-SRS)法
図3 皮膚モデルに対するカフェインの浸透(左)カフェイン水溶液塗布10分後 (右)カフェイン水溶液塗布360分後 スケールバー=50µm

用語解説

  • 波形整形パルス
    レーザーパルスを回折格子等を使って光の波長ごとに分割し、液晶素子等を用いて波長ごとに光の位相を制御することで、目的の時間波形を持つ光パルスを生成する技術。
  • 誘導ラマン散乱顕微鏡
    集光したレーザーを試料に走査して画像を得るレーザー顕微鏡の一種。瞬間的に光るパルスレーザーを試料に照射して分子振動を強制的に開始させ、そこにさらにもう1つのレーザーを照射すると、分子の振動数の分だけ周波数がずれた新しい信号光が放出される。この信号光の周波数から分子固有の振動数を、信号の強さから濃度をそれぞれ測ることができる。染色が不要なラマン顕微鏡の中でも、特に高い分子識別能と感度を持つ。

参考情報
〔2017年4月25日東京農工大学プレスリリース〕
染色不要小さな分子の濃度分布を撮影できる顕微鏡を開発 ~レーザ1台で動作するコヒーレントラマン顕微鏡の撮影速度を200 倍以上高速化~

〔2018年7月30日東京農工大学プレスリリース〕
光パルスの整形技術で非染色分子イメージングの検出濃度限界を打破~生体中に埋もれた低濃度の薬剤が検出可能に~

〔2021年10月8日東京農工大学プレスリリース〕
細胞や生体組織構造とその中にある小分子の局在や輸送・代謝の動態解析を容易とする新たなレーザー走査型顕微鏡を実用化

〔2021年10月11日東京農工大学プレスリリース〕
非標識でリアルタイムに観察可能な化粧品機能性成分の皮膚浸透評価系を確立

公開特許情報
WO2019/220863 光パルス対生成装置、光検出装置、および光検出方法
WO2021/140943 光検出装置、光検出方法
WO2021/177195 光検出装置、および光検出方法

  • JST研究成果展開事業 産学共創プラットフォ-ム共同研究推進プログラム(OPERA)

 産業界との協力の下、大学等が知的資産を総動員し、新たな基幹産業の育成に向けた「技術・システム革新シナリオ」の作成と、それに基づく学問的挑戦性と産業的革新性を併せ持つ非競争領域での研究開発を通して、基礎研究や人材育成における産学パートナーシップを拡大し、我が国のオープンイノベーションを加速することを目指す事業です。光融合科学から創生する「命をつなぐ早期診断・予防技術」研究イニシアティブは、東京農工大学が参画機関(一橋大学、東京医科歯科大学、日本赤十字社)、参画企業(34社※2023年2月現在)との協力の下、日本発の革新的医薬品、医療機器、機能性食品等の創出を目指しています。

◆受託試験に関する問い合わせ◆

株式会社 マツモト交商 安全試験部
TEL:03-3241-5162
E-mail:safety(ここに@を入れてください)matsumoto-trd.co.jp

◆研究に関する問い合わせ◆

東京農工大学大学院工学研究院 准教授
伊藤 輝将(いとう てるまさ)
E-mail:teru-ito(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

東京農工大学大学院工学研究院 教授/東京農工大学 副学長
三沢 和彦(みさわ かずひこ)
E-mail:kmisawa(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

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