プラズモン熱と熱電変換を組み合わせた新しい光検出器を開発

プラズモン熱と熱電変換を組み合わせた新しい光検出器を開発

国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院先端電気電子部門の久保若奈特任准教授、工学府電気電子工学専攻博士前期課程(当時)の近藤柾樹氏、工学府電気電子工学専攻博士前期課程学生の三輪魁斗氏らは、金属ナノ構造体の電子が光によって集団振動する際に生じる熱(プラズモン熱)と熱電変換を組み合わせた新しい光検出技術を実現しました。この成果は、金属ナノ構造体の形とサイズだけで、応答波長を制御できる光検出器が実現できることを示しており、今後、ナノサイエンス分野へ貢献すると期待できます。将来的には、ナノピクセル光検出器の実現につながると期待しています。

本研究成果は、Journal of Physical Chemistry C(8月23日付:日本時間8月24日)に掲載されます。
報道解禁日:8月24日(土)13:00(日本時間)
URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.jpcc.9b03332

現状
光検出器の多くは、半導体で構成されています。これは、半導体が光のエネルギーを吸収することで電子の運動が変化する(光を電気に変える)性質を利用したものです。半導体が吸収できる光の波長(応答波長)は、半導体の種類によって決まるため、光検出器の応答波長を制御するためにはカラーフィルターを装着して入射光の波長を制限する必要があります。また半導体の応答波長域を変えるために、半導体の組成や構造を制御するのは容易なことではありません。

研究成果
研究グループは、長さ150 nm(ナノメートル:1ミリメートルの100万分の1)幅70 nmの銀ナノロッド(図1)のプラズモン(注1)と有機熱電変換材料を組み合わせた、新しい機構で駆動する光検出器の実現に成功しました。この光検出器の特徴は、銀ナノロッドのプラズモン共鳴波長(金属中の電子が集団振動する光の波長)において顕著な電流発生が起こることです。銀ナノロッドのプラズモン共鳴波長は、銀ナノロッドの形やサイズによって容易に制御できるので、カラーフィルターが不要な光検出器と言えます。実際に、銀ナノロッドの長軸および短軸偏光下におけるプラズモン共鳴波長は異なりますが、それぞれの共鳴波長において、生成する電流値、つまり外部量子効率 (External quantum efficiency (EQE))が最大となりました。(図2)

この光検出器が光を検出する機構は次の通りです。プラズモンが励起されると、銀ナノロッドは発熱することが知られています。そのため、光照射時は、ナノサイズの熱源として機能する銀ナノロッドから、周囲の熱電材料に熱が伝わります。すると熱電材料中には温度勾配がうまれ、ゼーベック効果(注2)によって電流が生じる機構であることがわかりました。
 
今後の展開
熱電変換材料と組み合わせる銀ナノロッドの構造を設計させれば、応答波長を任意で制御できる、カラーフィルターの装着が不要な光検出器になると期待できます。原理的には、単一の銀ナノロッドだけで光検出が行えます。さまざまな課題はありますが、将来的にはナノピクセル光検出器として展開できると考えています。

図1 (a) 実験で使用した銀ナノロッドの電子顕微鏡写真と(b)光検出器の模式図
図2 銀ナノロッドのプラズモン特性と検出された電流の関係。黒い実線は(a) 短軸偏光、(b) 長軸偏光下で測定した銀ナノロッドの消光スペクトル。赤いプロットは銀ナノロッドに光照射しているときに得られた外部量子効率 (External quantum efficiency (EQE))を、青いプロットは熱電変換素子に光照射したときに得られたEQEを示す。銀ナノロッドに光を照射した場合、銀ナノロッドのプラズモン共鳴波長において、外部量子効率が最大となった。

注1  プラズモン
ナノメートルサイズまで微細化した金属に光を照射すると、金属中の自由電子が集団振動する現象。微細化した金属が発熱することが知られている。

注2  ゼーベック効果
物体の温度差が電圧に直接変換される現象。


◆研究に関する問い合わせ◆
 東京農工大学大学院工学研究院
 先端電気電子部門 特任准教授 
     久保 若奈(くぼ わかな)
      TEL:042-388-7314
       E-mail:w-kubo(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

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