細胞や生体組織構造とその中にある小分子の局在や輸送・代謝の動態解析を容易とする新たなレーザー走査型顕微鏡を実用化

細胞や生体組織構造とその中にある小分子の局在や輸送・代謝の
動態解析を容易とする新たなレーザー走査型顕微鏡を実用化

【ポイント】

  • 以下の性能を有する新たなレーザー走査型顕微鏡を実用化しました。
    • 生体組織観察のための振幅変調機能と薬剤計測に特化した位相変調機能を両方搭載
    • 共焦点反射光学系を備えることで組織形態観察や蛍光観察等にも対応
    • レーザー装置1台で多様な分子に対応
  • 細胞や生体組織構造とその中にある小分子の局在や輸送、代謝の動態解析を容易としました。
  • 実用化したレーザー走査型顕微鏡は、生命科学などの学術研究分野だけでなく、医薬品や化粧品などの産業分野への応用が期待できます。

 東京農工大学大学院工学府の伊藤輝将特任准教授、同大学院工学研究院の三沢和彦教授らの研究グループは、独自に開発した位相変調型コヒーレント誘導ラマン散乱顕微鏡に、従来多く利用されてきた振幅変調型コヒーレント誘導ラマン散乱顕微鏡と共焦点顕微鏡を同じ装置に組み込むことにより、細胞や生体組織構造とその中にある小分子の局在や輸送、代謝の動態解析を容易とする新たなレーザー走査型顕微鏡を実用化しました。生命科学分野などの学術研究分野や医薬品や化粧品開発などの産業分野に大きく貢献することが期待されます。
 本顕微鏡装置を活用した測定例は、Optica Publishing Groupの国際学術誌Biomedical Optics Expressに2021年10月1日に掲載されました。また、同論文はOptica Publishing Groupが選ぶ注目論文Spotlight on Opticsに選出されました。

Terumasa Ito, Risa Iguchi, Fumiaki Matsuoka, Yoji Nishi, Tsuyoshi Ogihara and Kazuhiko Misawa, "Label-free skin penetration analysis using time-resolved, phase-modulated stimulated Raman scattering microscopy,"(時間分解・位相変調誘導ラマン散乱顕微鏡によるラベルフリーの皮膚透過性解析)Biomedical Optics Express, Vol. 12 No. 10, 6545-6557 (2021)

Spotlight on Optics紹介ページ

研究の背景と経緯
 近年、標識を使わずにレーザーの照射だけで分子の濃度分布を高速撮影できる「コヒーレントラマン散乱顕微鏡」と呼ばれる非染色イメージング技術が注目されています。従来、コヒーレントラマン散乱顕微鏡は、観察に用いる入射レーザー光の振幅を変調して試料に入射させ、入射光に対する散乱光を光検出器で検出し、それを復調することでラマン信号を検出する振幅変調型コヒーレントラマン散乱顕微鏡が一般的でした。振幅変調型顕微鏡では、水や脂質などの生体自身に含まれる分子振動持続時間の短いラマン信号を検出することで、細胞や組織等の形態情報を高速に画像化できるという特徴があります。

 一方、研究グループは、生体中で局所的に分布する低濃度の薬剤を画像化することを目的に、位相変調型コヒーレントラマン散乱顕微鏡を開発しました。位相変調型顕微鏡では、励起光とプローブ光の相対的な時間差を利用することにより、分子振動の持続時間が比較的長い低分子量の物質を高いコントラストで選択的に検出できるという特徴があります。

2018年7月30日 本学プレスリリース〕〔2017年4月25日 本学プレスリリース

 従来、振幅変調型顕微鏡、あるいは位相変調型顕微鏡においては、観察の目的と観察対象の特質に応じて、別々の機構が使い分けられていました。例えば、細胞や組織等を観察したい場合は振幅変調型顕微鏡が選択され、生体中に分布する低分子量の物質等を観察したい場合には位相変調型顕微鏡が選択されていました。これまでは振幅変調型顕微鏡あるいは位相変調型顕微鏡がそれぞれ単独で使用されてきたため、細胞や組織などの生体そのものの構造と、その中にある小分子の空間分布との対応が可視化できず、生体内における分子の局在や輸送、代謝の動態解析などには不向きでした。

研究体制
 本顕微鏡装置は、JST研究成果展開事業 産学共創プラットフォ-ム共同研究推進プログラム(OPERA)の光融合科学から創生する「命をつなぐ早期診断・予防技術」研究イニシアティブ(領域統括:東京農工大学 三沢和彦)において実用化されたものです。

研究成果の概要
 医療等の分野では、皮膚に対する薬剤の浸透過程の観察のように、生体の構造と物質の分布を同時に画像化することが望まれています。そこで、研究グループは、振幅変調機能による観察と位相変調機能による観察が同じ顕微鏡装置で切り替えられ、かつ両機能で取得した画像を合成できる装置を開発しました。さらに、組織の形態情報の観察機能を高めるために、共焦点顕微鏡の機能も併せて組み込み、多機能レーザー走査型顕微鏡として実用化しました。

 位相変調機能が振幅変調機能に比べて明らかに優れている点は、背景雑音と背景擬似信号を抑制する能力が高いことです。位相変調機能は、タンパク質や脂質などの組織成分に由来する短寿命で広帯域スペクトルの背景信号を抑制し、優れた信号/背景雑音比で観測対象分子の狭帯域信号を選択的に検出します。

 小分子の薬剤がある界面から浸透していく場合に、その界面がどこに存在するか共焦点反射でとらえ、背景となる組織や細胞の状態を振幅変調機能で高速に画像情報として取得し、組織内にある分子振動の長い小分子を位相変調機能で検出することによって、生体試料を対象に、生体構造中における分子をその分子種を同定しながら無標識で濃度分布を可視化することができることになります。

 その結果、細胞や組織などの生体構造と、生体構造中に含まれる物質の空間分布を可視化し、生体内における分子の局在や輸送、代謝等の動態解析を行うことが可能となり、レーザー走査型顕微鏡の有用性を飛躍的に高めることに成功しました。

 

図1 実用化した多機能レーザー走査型顕微鏡

今後の展開
 この多機能レーザー走査型顕微鏡は、細胞や生体組織構造とその中にある小分子の空間分布の相関が得られるため、分子の局在や輸送、代謝の動態解析がより容易になり、生命科学分野などの学術研究分野や医薬品や化粧品開発などの産業分野に大きく貢献することが期待されます。

参考情報
〔2018年7月30日本学プレスリリース〕
光パルスの整形技術で非染色分子イメージングの検出濃度限界を打破 ~生体中に埋もれた低濃度の薬剤が検出可能に~

〔2017年4月25日本学プレスリリース〕
染色不要小さな分子の濃度分布を撮影できる顕微鏡を開発 ~レーザ1台で動作するコヒーレントラマン顕微鏡の撮影速度を200 倍以上高速化~

特許公開情報 
WO2021/140943 光検出装置、光検出方法

  • JST研究成果展開事業 産学共創プラットフォ-ム共同研究推進プログラム(OPERA)

 産業界との協力の下、大学等が知的資産を総動員し、新たな基幹産業の育成に向けた「技術・システム革新シナリオ」の作成と、それに基づく学問的挑戦性と産業的革新性を併せ持つ非競争領域での研究開発を通して、基礎研究や人材育成における産学パートナーシップを拡大し、我が国のオープンイノベーションを加速することを目指す事業です。光融合科学から創生する「命をつなぐ早期診断・予防技術」研究イニシアティブは、東京農工大学が参画機関(一橋大学、東京医科歯科大学)、参画企業(37社 ※2021年6月現在)との協力の下、日本発の革新的医薬品、医療機器、機能性食品等の創出を目指しています。

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院 工学府
特任准教授 伊藤 輝将(いとう てるまさ)
teru-ito(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

東京農工大学大学院 工学研究院 先端物理工学部門
教授 三沢 和彦(みさわ かずひこ)
kmisawa(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

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